悪人正機説





お前達が、悪人であるということを、証明してやろう。





 この忌々しい世の中には、次のような小草子(短い物語)がある。

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 ある日、悪人が聖人を脅しながら言った。
「おい、お前。教会から宝物を持って来い。」

 聖人は、教会に入り、しばらくしてから病人や孤児を連れて出て来た。

 悪人は、目を丸くしながら怒鳴った。
「なんだ、こいつらは! 俺は『宝物を持って来い』と言っただろうが!」

 聖人は、冷静に答えた。
「私達にとっては、この方達が宝物です。」
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 さて、お前達はこの話を読んで、どういう感想を持ったであろうか。
 ある者は、いい話だと思い、またある者は、こんな話はきれい事だと聞く耳も持たないであろう。しかし、誰も、この話の「オチ」に気づかなかった者はいまい。
 この話の「オチ」は、言うまでもなく、悪人の言った『宝物』と、聖人の思う『宝物』についての、価値観の違いにある。宝物の価値観について、悪人は金銭的な物欲を示し、聖人のほうは、それとは全く違ったものを感じたのである。
 つまり、この話を、いい話だと思おうと、きれい事だと思おうと、お前達は聖人ではなく、悪人なのである。
 なぜなら、お前達が悪人であるからこそ、金や宝石を教会から持って来なかった聖人の行動に、「オチ」を感じるのであるから。





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