宇宙人E. 『なぬなぬ星人』の言語障害 平成七年 著 |
序章 ある暗号の謎 「冬になるとハエになる・・・。」 この暗号が解ける者は、おそらくこの地球上にそうはいないだろう。我々は今回の調査で、かつてない驚くべき事実を発見した。 この暗号を解くために、我々はある一人の重要な人物に会うことができた。彼女の名前はプライバシー上「ブー」としておくが、我々はブーにまず、一枚の写真を見せた。するとブーは、その写真に写っている人物を見るやいなや、 「恐ろしい・・・。ついに始まってしまったわ。」 と、何か怖いものでも見たような顔つきになり、その瞬間、急に笑い出した。 「ハハハハハハハハー。わらる?これが私の答えよ。」 そう叫び、ブーはどこかに消えてしまった。我々はどこに答えがあるのかわからないまま、唖然としていると、我々のもとに「A子」と名乗る人物から一本の電話がかかってきた。 この物語は、「A子」の証言をもとに、宇宙人E.Sの正体を明らかにしたものである。 第1章 「そとまき」の反対語の謎 宇宙人E.Sは、1946年に春○部に舞い降りた。その使命は○○暗殺と地球を「なぬなぬ星」の支配下に置くことだった。 ○○暗殺をもくろむE.Sは、時の○○誕生日○月○○日にやってきたのだった。 (E.Sはその頃、E.Kという名前であったが、便宜上E.Sと呼ぶことにする。) これがA子が教えてくれたE.Sの出生の秘密である。 我々はA子に、ブーがなぜ笑い出したのか、そしてその行動のどこに答えが隠されているのかを聞いてみた。するとA子は、 「フフフ・・・。私にはわかるわ。」と言った瞬間、突然、 「ハッハハハハハハハー。これが私の答えよ。」と笑い出した。 驚いた我々は、 「で・・では、『答え』とは何なのですか?」と聞くと、 「それはまだ教えられないわ。」と言う。 そこで我々は思い切って、E.Sとは誰かという疑問をA子に聞いた。するとA子は急に口調を変えて、 「お、お、おら、知らねえよぅ〜。」と叫び出し、目玉をギョロギョロさせながら、我々をにらみつけた。A子はさらに、手足をスリスリと擦りながら、取れそうになった入れ歯を 「おっと!」と言って元に戻した。我々はA子の不可解な行動を目の当たりにして、恐怖さえ感じていたが、E.Sのことをもっと知りたくて、A子にE.Sのその後の足取りを尋ねた。 まだ自分の使命(○○暗殺となぬなぬ星人の野望)を知らないE.Sは、子どもの頃たいへんな苦労をしてきたらしい。 ある夜には、通り魔に襲われ裸足で逃げた事もあった。月を見て、亡くなった父ちゃんを思い出したこともあった。駅に迎えに来た恋人を、おのれの貧しさゆえに無視した事もあった。少ないおかずをわけあって、涙と一緒に呑んだ。兄貴には、なぐられた。 しかし、幸せなことも多かった。 家族一致団結して、兄弟でマージャン・花札・トランプをして遊んだ。 そしてE.Sは順調に育ち、成人式を迎え、小さい大人となった。宇宙人E.Sは、他の人より小さい自分を見て、この頃から自分は宇宙人ではないかと思い始めたという。 その数年後、E.Sは台風に巻き込まれるが、その前に、E.Sの言語障害を裏付ける、ある重要な事件が起きてしまったのである。 その夜は、まさに運命の夜だった。E.Sは、数週間ぶりに風呂につかっていた。 するとどうでしょう! 突然、すさまじい音が家中を突き抜けた。それは爆音よりも激しく、稲妻の下にいる竜の叫びよりも大きく、まさにE.Sの使命である地球破壊が他の誰かによって行われたのではないかと思うほどであった。 E.Sは風呂を飛び出し、家の中を見回した。 するとどうでしょう! 玄関にトラックが突っ込んでいるではありませんか! E.Sはこれは地球人の襲撃だと思い、ついに、ついに、言語障害である「なぬなぬ語」を発してしまったのだ! 「どうしたんだ、これは!」 我々は、この事実を知った時、初めて宇宙人E.Sの恐ろしさをも知ったのである。 第2章 散髪の失敗と正体の全解明 我々の宇宙人E.Sに関する調査も、いよいよ終盤を迎えるに至った。 「そとまき」の反対語、すなわち「うちまき」にて起こったトラック襲撃事件の後、E.Sは台風に巻き込まれ、その使命である「○○暗殺」も「なぬなぬ星人の野望」も、もはやどうでもいいことになっていた。しかし、A子の証言によると、ある新たな重大な事実がわかったのだ。 E.Sは何と、子どもを産んでいたのだ。ア○ず○3世太政大臣を筆頭とする、「なぬなぬ3兄妹」の登場である。しかも我々は、このア○ず○3世太政大臣がテレビCMに出演しているという情報を得たのである。我々はさっそく「ヒュー○ンアカ○○ー」のCMに出ているア○ず○3世太政大臣に調査を依頼した。 「あなたのお母様について少々お話を聞きたいのですが・・・。」 「やだね。」 もう一度お願いしてみた。 「お、お願いしますよ。」 「だめだね。」 我々は、〔こ、これは「なぬなぬ語」に違いない!〕という確信を持った。 そして我々は、このような時のために用意しておいた、ある宇宙人のテープをア○ず○3世太政大臣に聞かせた。テープは回った・・・。 「我々は宇宙人である。言うことを聞かないなら大谷ストアーに来い。」 これを聞いたア○ず○3世太政大臣は、恐れおののき、我々の頼みを聞き始めたのである。 我々は、ア○ず○3世太政大臣の家の台所に隠しカメラをセットさせた。そしてそのビデオテープを見た我々は、どんでもない凄まじい光景を目の当たりにしたのだ。 それは寒い夜だった。見たこともない女性の後姿が映っていた。その女性は、何か食器を洗っているようであったが、その女性の手足はスリスリスリスリ動いていたのだ。そう、これはまさしくこの物語の最初に紹介した暗号、「冬になるとハエになる」そのものズバリである。しかし我々が本当に驚いたのは、その後であった。振り返ったその女性の顔は、何と、まさしくA子そのものだったのである。我々が取材した時のA子の髪型はセミロングであったが、ビデオテープに移っているA子の頭は短くて、宇宙人そのものであった。A子は散髪によって、自らの正体をあからさまにしてしまったのである。 ア○ず○3世太政大臣のお手柄は、それだけではなかった。「なぬなぬ3兄妹」の長男である、天才心理学者○○○○大先生の、「宇宙人E.Sについての分析」という論文を入手したのだ。その内容は、次の表のとおりである。 「宇宙人E.Sについての分析」 ○○○○ ●地球名 ハエ美子12世征夷大将軍 ●宇宙人E.Sの特徴 1. 言語障害あり なぬなぬ語を時に使用する恐れがある。 2. 背は低く、頭が通常の3倍ある。 3. 肩にパットを入れておかないと、精神に異常をきたしてしまう。 4. 目玉をギョロギョロ動かし、人をにらむ傾向がある。 5. 手足を擦りながら、宇宙人と交信する。 6. 入れ歯を着用しており、はずれそうになると口をおさえる。 7. 悩み事があると、ほっぺたを両手でおさえる。 8. 夜中1時〜ら2時頃、一人で台所で何かをしだす。 9. 朝、目覚めが悪く、何かを言うと攻撃をしかけてくる恐れがある。 我々はこの論文を読んで、A子のあの不可解な行動と宇宙人E.Sの諸特徴との多くの類似点に気付かざるを得なかった。さらに、「ブー」や宇宙人本人E.SであるA子が、あの時急に笑い出した事の答えは、宇宙人E.Sの本名が「○○笑○○」であるということに今さらながら気付いたのである。そしてついに宇宙人E.SはA子である、つまり○○笑○○であるということが確定した今、我々は宇宙人E.Sの貸逮捕に踏み切ったのである。 第3章 居留守を使う天才 我々は、逮捕状を持ってE.Sの自宅へと向かった。そしてさりげなく言った。 「こんにちは、○○さーん。」 すると家の中で声がした。 「誰か来たよ。いるって言うの?」 「いない いない いなーい。」 そして、E.Sは玄関の戸を開けた。 「○○笑○○か? 宇宙人E.Sの容疑で逮捕する。」 E.Sは口をあけたまま、しばらく何も言わなかったが、次の瞬間、人類始まって以来のとてつもなく恐ろしい攻撃をしかけてきたのである。 『なぬ?』 我々は恐怖に包まれ、宇宙人E.Sにはとてもかなわないということを一瞬のうちに悟り、どうにか逃げ出してきたのである。 この世界に、E.Sにかなう者などいないのだ! |
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