chapter-108 LRT  
[2017.10]

■ 宇都宮のLRT・・・・・・・・・・・・


[ 広島駅前(2013年):新型車両が走る  ]
   LRTは一般的な鉄道よりも輸送力が少ない公共交通の意味ですが、明確な定義はなく、低床で高性能な次世代型路面電車を指すことが多いようです。
 栃木県の県庁所在地である宇都宮市と東隣の芳賀町は、東西方向の公共交通としてLRT(Light Lail Transit)の導入を決め手続きを進めています。2017(H29)年10月にはLRTが通る道路の使用許可同意も得られ、今後は用地買収や工事を進め2022(H34)年3月の開業を目指すとのことです。
 ルートは宇都宮駅東口から「鬼怒通り」といわれる駅前通りを東に進み、鬼怒川に新しく橋を架けて渡り作新学園の北側付近から工業団地内の道路を使って、芳賀町にある本田技研の北門まで約15㎞の路線です。既存道路の上を走る区間が半分以上ありそうですが、それでも総事業費は約458億円と想定されています。
 

[ 宇都宮駅東優先整備区間(宇都宮市区間)平面図 ]

   免許を持たない生徒・学生や運転が覚束なくなった高齢者にとって、自家用車以外のバス、鉄道などの公共交通は身近に欲しい移動の足です。宇都宮市のホームページには、「交通渋滞の解消はもちろんのこと、少子高齢化に人口減少が加わる厳しい社会を生き抜くために必要な、人が動きやすくなるための公共交通ネットワークの重要な装置として、LRTを導入します」とLRTの必要性が訴えられています。
 鉄道・軌道の経営は、土地を買収して線路・駅を造り、車両を購入して運行まで行うのが普通ですが、近年は建設費など初期投資があまりにも大きく、とても採算ベースにあいません。このため宇都宮のLRTは、宇都宮市と芳賀町が軌道の建設を行い、LRTの運行は市や町が出資する第三セクターが行う、上下分離方式を採用しています。
 この方式であれば、初期投資の元利返済という最も厳しい負担がなくなるため、第三セクターの経営は大幅に改善されます。


[ バスレーン(2017年):西新橋のバスレーン ]
   よく考えれば、路線バスはバス会社が造った道路を走るのではなく、国や自治体が造り維持管理している道路の上を走っているので上下分離方式に近いものがあります。
 国や自治体が造る道路は、自家用車もトラックもバスも通るので混雑時は定時性という面で劣るため、バスの利用者離れの大きな要因となっていました。少しずつですが、道路交通法の規制による「バス専用レーン(道交法第20条第2項)」や「バス優先レーン(道交法第20条の2)」が設けられ、定時性の向上に役立っています。
 バスレーンが整えば専用道路ではありませんが、ほぼ完全な上下分離方式と言っても差し支えない状態です。




■ 渋滞は?・・・・・・・・・・・・・・・・
 

[ 広島市相生通り(2013年):約40mの幅がある ]
   宇都宮のLRTは、駅東口から鬼怒川橋梁の手前までは「鬼怒通り」という一日に3.3万台~4.6万台が通る4~6車線道路の車道の一部を使うので「今までより渋滞がひどくなるのでは?」といった質問が寄せられています。
 市のホームページでは、周辺の道路整備や信号サイクルの調整、車からLRTへの転換による自動車交通の減少が期待でき、渋滞が激しくなることはないと、説明しています。
 LRTの導入事例としてよく見られる欧米の写真は、車両の横を歩行者が歩いていたり、人が集まっている広場の中をLRTが走っている光景です。
 

[ セビリア(2014年):観光客もふらふら歩いている ]

   欧米の都市ではLRTの導入にあわせて自家用車を排除して、車優先の道からLRTと歩行者のためのトランジットモールに衣替えし、歩行者優先の中心市街地を取り戻そうとしています。欧米は都市部と郊外部が明確に分かれていて、都市の中心部は比較的高い密度でコンパクトにまとまっているので、自家用車からLRTへの転換は日本に比べ抵抗がないようです。
 宇都宮市の場合は、LRTが走ることになる道路から自家用車は排除せず、公共交通(LRT)と車が共存できる社会を目指すようです。LRT導入のため道路の横断構成が変わるところがあり、代表的な箇所の現状とLRT導入後の横断図(案)が示されていますが、残念なことに歩道が狭くなってしまう部分もあります。



■ さいたま市でもLRT・・・・・・・・・・
 

[ 平成12年答申 ]
   さいたま市にもLRTの構想があるのです。
 2000(H12)年1月の運輸政策審議会の答申において、B路線(今後整備について検討すべき路線)として掲載されました。路線の概要は、東西交通大宮ルート(仮称)という名称で、ルートは「大宮…さいたま新都心…県営サッカースタジアム」となっており、概略の図は(付図2)東京鉄道網図に示されたレベルで、大宮駅とスタジアムが太い点線で結ばれています。2001(H13)年5月の大宮市・浦和市・与野市の三市合併が目前にあり、合併後の一体感を盛り上げるためにも、まずは旧三市を結ぶ公共交通の構想づくりが急がれたのかもしれません。
 2016(H28)年4月には交通政策審議会が「東京圏における今後の都市高速鉄道のあり方について」を答申していますが、平成12年答申の「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」に比べ、表題からして整備について控えめなニュアンスになっています。
 

[ 平成28年答申 ]
   さいたま市のLRTは、「東西交通大宮ルートの新設(大宮~さいたま新都心~浦和美園(中量軌道システム))」として、平成12年答申に比べれば詳しいルートが掲載されています。
 白黒の図で下図は鉄道網だけですが、この図から想像すると、大宮~さいたま新都心間は旧中山道(都市計画道路 中山道)を通ると思われますが、計画の幅16mでほぼ建物が建ち並んでいるので道路を広げるのは難しそうです。宇都宮市の都市計画案では、LRTは上下線で6.5mの幅が必要とされています。幅16mしかない旧中山道にLRTが走ると残る幅は片側に(16m-6.5m)÷2=4.75mしかなく、車道と歩道を設けるのはほぼ不可能です。
 旧中山道から自家用車を排除して、公共交通LRTと歩行者が共存するトランジットモールにすることを考えているのでしょうか。
 

[ 旧中山道(2014年):幅16mで完成 ]
   さいたま新都心~浦和美園間はコクーンシティの南側を通る都市計画道路東西中央幹線を通り、首都高さいたま新都心線に沿って進み、第二産業道路以東は見沼自然公園に向かいます。見沼自然公園からは、スタジアム北側を通る都市計画道路美園1号線(幅27m)とスタジアム東側を通る都市計画道路浦和岩槻線(幅29m)を使って浦和美園駅前に至ることを想定しているようです。
 

[ 都市計画道路浦和岩槻線(2017年):この道にLRTが走るかも ]
    東西中央幹線は地下に首都高速道路が通っており、産業道路の西側から地上に顔を出し高架構造で第二産業道路につながっています。さすがに首都高の路面をLRTが走ることはできないので、並行して専用軌道の新設も考えられているようです。


■ 課題もあります・・・・・・・・・・・・・
 

[ 見沼田んぼ(2007年):LRTが構想されているところ ]
(国土地理院空中写真CKT20071-C18-22から一部切り抜き)
   答申には課題も示されています。
 ひとつは、収支採算性です。運賃収入だけで採算を確保するためには、沿線の開発や交流人口の増加が必要ですが、さいたま新都心~浦和美園間は見沼田んぼといわれる、農地として保全している地域を通るので、沿線開発は難しそうです。見沼田んぼという人口密度が低いところを通り、集客はスタジアムで行われるサッカーとさいたま新都心のショッピングモールだけでは、利用者増大に向けて心もとないものがあります。
 もう一つの課題は、導入空間を含めたルートの検討です。幅の狭い道路や農業的土地利用の多い地区を通ることが、新たに設ける公共交通のルートとしてふさわしいか懸念されているようです。道路の路面上に限らず専用軌道の新設も含めこれから検討が進むようです。
 

[ 埼玉スタジアム(2017年):6万人の収容力がある ]
 さいたま市は、2018年度までに需要推計や導入空間の検討を行い、2020年度から具現化に向けた調査実施を掲げて取り組んでいるそうですが、開業目標は示されていません。
 東京圏は依然と高い公共交通需要が見込まれるものの、ネットワークの稠密性やサービス水準は世界に誇るべき水準に達しており、量的拡大から質的拡大への転換が求められ、答申もそれを反映した内容になっているようです。
 鉄道の敷設は「我田引水」ならぬ「我田引鉄」により、ルートが曲げられたことが少なからずあるようです。量的拡大から質的拡大の時代にあって、さいたま市のLRTは実現するのでしょうか。





 

おまけ [ 京阪電鉄 京津線(2017年) ]
 浜大津駅からしばらくの間は普通の電車が道路の上を走っています。電車が走っていても車は止まることなく電車を気にすることもなく走っています。この電車は京都の市営地下鉄に乗入れているので、路面の上、路面の下を走る珍しい電車です。
 
○宇都宮市ホームページ 東西基幹公共交通LRT
(http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kotsu/lrt/index.html)
〇優先整備区間(宇都宮市区間)平面図
(http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_
          /001/006/079/heimenzu2.pdf)
○第11回「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」(平成28年1月20日)
 参考 LRT事業に係る都市計画決定(変更)の手続きについて (PDF 2.9MB)
○第15回「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」(平成29年3月21日)
 資料3 LRTの乗り継ぎ施設の検討状況について (PDF 2.3MB)
○東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(答申)
 (平成12年1月27日 運輸政策審議会)
○東京圏における今後の都市高速鉄道のあり方について(答申)
 (平成28年4月20日 交通政策審議会)