chapter-79 スペイン その1 
[2014.10]

■ 先進国?・・・・・
 

[ 2008主要国サミット会場(2008年):ザ・ウィンザー ホテル洞爺 ]
   バブル崩壊後の日本経済はいまだに厳しい状況にあり、国内総生産GDPは急成長を続けた中国に追い抜かれ今やその後姿は小さなものになってしまいました。
 それでも日本は主要国首脳会議、いわゆるサミット(英・米・日・仏・独・伊・カナダ・ロシア・EU)に加わる主要国として存在しています。ロシアが参加する前は先進国首脳会議と呼ばれていました。そもそも先進国とは経済開発が進んだ国(developed nation)とのことですが明確な定義がないので、GDPの順位が下がっても先進国から外されることはないようです。
 先進国を自負している日本人は、ともすれば先進国以外の国に対し、日本より貧しい環境で恵まれない生活を送っている、と思いがちではないでしょうか。しかし、日本の経済開発と言っても、明治維新以降のわずか百数十年に過ぎません。


[ 先進国日本の首都(2013年):東京タワーから汐留方面 ]
   日本は、欧州諸国のように陸続きで多くの隣国と往来できる地勢にはなく、また世界でも珍しい他国に侵略された経験のない国です。島国なので他国の情報は電波や紙によるものが中心で、直接からだで外国の文化・生活に触れる機会は、海外旅行のときくらいでしょう。
 観光地を中心に回るだけの忙しいツアー海外旅行では、他国の文化や人々の生活の状況をつぶさに観察することはできませんが、それでも現地を歩き五感をもって感じる体験は映像で見るものと大きな差があります。
 まとまった休みが取れたので、思い切って南欧のスペインを観光してきました。かつてスペインは世界各地に植民地を有し「太陽の没することなき帝国」と言われていましたが、大帝国を維持するための膨大な費用に植民地からの収益が費やされ、16世紀末をピークに衰退がはじまった国です。2014年の国民一人当たりGDPは日本の2/3程度で、発展途上国ではありませんが、先進国に仲間入りしている国ではありません。
 

[ スペイン帝国の最大版図 wikipedia ]

    そのスペインの街を見て感じたことを拾ってしてみました。専門家が口にするような「都市の文脈は‥‥であり‥‥の構築は‥‥」とか「建築の様式は‥‥で‥‥を表現し‥‥」などの高尚な話はできないので、日本で普通に生活する人間の視点で感じたままを書き連ねています。
 スぺインを訪れて感じたのは、「本当に日本は先進国と言える国なのでしょうか?」、「日本人は先進国の人間らしい幸せな生活を送っているのでしょうか?」という思いです。そして「先進国として存在することが幸せなのでしょうか?」という疑問です。
 

[ サグラダ・ファミリア(2014年):2026年完成予定 ]

■ 交差点の形・・・・・


[ ミハスのラウンドアバウト(2014年):鉢植えのような植栽 ]
   まず目に付くのが、円形の中央島を囲む環道のある交差点です。
 円形の中央島は目に付く空間だけあって、記念碑、噴水、植栽などが置かれきれいに管理されています。この形状の交差点は、信号機を付けず環道の交通を優先するタイプ、環道と接続道路の交差部に信号機を設置するタイプの2種類がありましたが、前者が圧倒的に多く、後者は環道の径が大きくかつ交通量の多い交差点で見受けられました。
 前者の交差形式はラウンドアバウトと呼ばれ、日本でも国土交通省が整備における技術的な課題について検討を行っています。
 

[ ラウンドアバウト:国土交通省の委員会資料から ]
   スペインのラウンドアバウトに必ずついているのが、逆三角形で白地に赤枠の付いた標識です。初めて見たときは文字を書き忘れた標識としか思えませんでしたが、国際的にはポピュラーな標識で「前方優先道路」を意味し、前方道路の通行車両に優先権があることを示しています。優先権を示すものなので、前方道路に車が通っていなければ一時停止する必要はないようです。しかしこの交差点通過する際は必ずハンドル操作を伴うため、スピードを落とさざるを得ません。
 
                
[ 日本にはない「前方優先道路」 ]  [ 新設される「環状交差点」標識 ]
   2014(H26)年9月、日本ではラウンドアバウトの導入により新しい標識ができました。
 この標識がある交差点では、進入する車は徐行、環道交通が優先することを示しているのですが、この図柄では「ぐるぐる回る」交差点があることを示しているとしか思えません。
 そのうちに環道交通を優先しない車が増えると「一時停止」標識が付けられて、前方道路に車が走っていない場合でも一時停止を強いられるようになれば、「前方優先道路」標識の良さが認識されると思います。
 

[ 信号機付き円形交差点(2014年):バルセロナ 連接バスも楽に回れる ]
   「前方優先道路」標識は高速道路への流入部にも設置されています。
 高速道路は交通量の少ないところでも片側2車線あり、片側1車線の追越しができないような区間はありません。本線を走っている車は流入車両が見えても車線を変えたり減速することはないので、流入できずに止まっている車を見かけることもありました。事故が起こった場合は、優先権のない道路を走っている車の責任が圧倒的に重いのでしょう。
 ラウンドアバウトを日本で造るときには、形状や構造など技術的な検討と同時に、優先権の概念をしっかりと根付かせる必要があるのではないでしょうか。
 

[ 高速道路流入部(2014年):前方優先道路の標識が3枚 ]

   交通量の少ない区画道路は、十字路やT字路などの交差点が圧倒的に多いのですが、観光バスが通れるような道路ではラウンドアバウトがとても目につきます。日本では右折レーンを設け矢印が付いた信号機のある交差点が普通です。
 2011(H23)年の東日本大震災では、震災直後の停電やその後の計画停電により、信号機が使えず交通に大きな支障を来たしました。このため、震災後は信号機のないラウンドアバウトへの関心が大いに高まっていますが、信号機処理の交差点よりも通行できる交通量が少なく、交差点の面積も大きくなるので日本国内で多用するのは難しそうです。


[ 信号機付き円形交差点(2014年):環道は3車線 セビリア ]
   円形の中央島にはコロンブスや歴代国王の記念碑が据えられるなど、モニュメント好きな国民にはぴったりの交差点かもしれません。
 ラウンドアバウトの欠点までとは言えませんが、観光バスに乗ってラウンドアバウトを通過すると方向感覚が混乱し、地図を見ていてもどこを走っているのかわからなくなってしまいます。さらに、市街地には多少広くても一方通行になっている道路が多く、同じ地点を往復する場合でもルートが異なるので、方向感覚の混乱に拍車をかけています。
 

[ 渋滞(2014年):マドリッド ]
   交通量が増えると交差点は立体化されます。立体交差の形は、交差道路の上空を橋で横断するオーバーパスと地下をトンネルで横断するアンダーパスがあり、日本ではコストの低いオーバーパスが多く造られていましたが、最近はアンダーパスが多くなっています。
 スペインの人口当たり自動車保有台数は日本とほぼ同じで、しかも大都市に人口が集中しているため街中では渋滞が生じています。交通混雑の緩和策として立体化された交差点がありますが、アンダーパスで造られている立体交差がほとんどでした。
 

[ アンダーパスの出入り口(2014年):グラナダ ]
   なかには地下1階にも交差点があり、地下2階には交通量の多い方の道路が直進できるトンネルがある地下二層の立体交差もあります。
 高速道路をオーバーパスで横断する道路はスペインにもありますが、市街地ではオーバーパスで立体化した交差点も高架構造の高速道路もありませんでした。日本では都市高速道路(首都高速や阪神高速など)の高架橋が道路や河川の上空を覆い、一般道の交差点でもオーバーパスがあり歩行者の頭上を車が爆走しています。
 

[ アンダーパス(2014年):マドリッド 王宮前 ]

■ 歩道の形・・・・・
 

[ ガードレールで分離しただけの歩道(2014年):渋谷 ]
   日本では車道と歩道を分離するために、コンクリートの縁石、ガードレールや柵、広い道路では植樹帯を設けるのが一般的です。車と人が通行する空間を完全に分離し、ドライバーの運転ミスがあっても歩行者を守ろうとする考え方が強いようです。
 事故があるたびに新聞などで書き立てられるのは、ドライバーの責任よりも道路の安全対策の充実です。このような論調もあり強固な構造物で人と車の分離が推し進められているようです。また、急いで安全対策を講じた結果、路側の広い道路ではガードレールで人と車を分離しただけの歩道も造られました。
 

[ 狭い道の狭い歩道(2014年): バレンシア ]
   スペインで最も目についた歩道は、車道より一段高くしたもので、その段差は数センチから十数センチ程度で乗用車でも乗り上げられる高さしかありません。銀座通りの歩道と車道の段差程度でしょうか。段差をつけた歩道は、こんなところにも歩道を造るのか、と思うような狭い道に設けられていることもあります。
 段差だけの歩道は、旧市街地の道路だけでなく比較的新しい広い幅の道路にもあります。下の写真は片側3車線の道路ですが、十数センチの段差しかない歩道です。日本では間違いなく歩道と車道の間にガードレールか柵が設けられています。
 

[ 段差だけの歩道(2014年):コルドバの6車線道路A-431 ]
   段差を設けない場合は、鋼製のポールを連続して立てて人と車を分けています。段差+ポールの道路も結構あります。旧市街地の狭い道路はこの方式が多く見られました。
 稀に柵がついている歩道も見かけましたが、日本でよく目にするガードレールや柵だけで分離している道はありません。
 ガードレールは使われていないわけではなく、高速道路には延々とガードレールが付けられています。車両の逸脱を防止するというガードレール本来の目的にのみ使われているようです。
 下水道が普及する前の中世のヨーロッパでは、汚物が道路に捨てられたためハイヒールが誕生し、車道の排水が流れ込まないようにするため歩道が一段高くなったと言われていますが、現在でも歩道が車道より一段高いのは歩行者優先の思想が形に現れているように思えます。
 

[ 段差+ポールの歩道(2014年):バレンシア ]
   歩道にガードレールや柵が少ない理由の一つに、日本では考えられない数の路上駐車があるようです。路上駐車は日本とは大いに異なり、道路に駐車スペースが物理的に設けられています。狭い道路は、わざわざ一方通行にして駐車スペースを確保しているような道路もいっぱいあります。
 歩道に寄せて路上駐車している車を見ると、歩道側のドアを開ける時にガードレールや柵があると邪魔になります。また、歩道と車道の段差が大きかったり、縁石があるとドアの開閉や人の乗降の支障になるので、十数センチ程度の段差が限度になってます。
 日本ではパーキングメーターのあるところでも柵があり、助手席側からの乗り降りは不便ですが、スペインでは路上駐車があることを前提にして道路が造られています。
 

[ 路上駐車スペース(2014年):マドリッド ]
   バルセロナは旧市街地の城壁外側に19世紀後半から拡張市街地が造られ、街区の角には路面電車(当時は蒸気機関車)が走ることを想定して非常に大きな隅切りがあるのですが、この隅切り部分も現在ではしっかりと駐車スペースに使われています。
 日本では、税金で造った道路を車庫代わりに使うなど怪しからん、と思うのが普通です。路上駐車の料金はどうなっているのでしょうか、パーキングメーターの類は見かけませんでした。
 路上駐車がこんな状態なので、ガードレールや柵がなくても車道を走る車が歩道まで突っ込むことが少ないのかもしれません。
 

[ 隅切りも駐車場(2014年):バルセロナ ]

■ 歩道の使われ方・・・・・
   路上駐車と並び道路の使われ方で日本と大きく異なるのが、歩道上のカフェテラスです。賑わいのあるところでは、広いとは言えない歩道にもカフェテラスが置かれています。テーブルには日除けの傘があり、椅子は背もたれ付きでクッションを置いてる店もありました。天気が良ければゆっくりとくつろげる設備です。
 カフェテラスで楽しんでいる人を見て、スペイン国民なのか観光客なのか判別できませんでしたが、午前中から夜遅くまで、コーヒー、ビール、食事、喫煙を楽しんでいるお客さんが街の賑わいを創り出しています。
 

[ カフェテラス(2014年):バルセロナ ]
   テーブルと椅子は営業が終わると一旦片づけられ、毎朝お店の人がセッティングしてるようです。メニューを表示した立て看板も一緒におかれていますが、写真のパエリアはどれも10ユーロ(約1400円)以上なので安いわけではないようです。人通りが少ない深夜であっても放置せず一旦撤収しなければならないのは、役所の許可条件なのでしょう。
 スペインは2006年に室内公共空間での禁煙を定めた法律が制定され、2011年にはさらに厳しくなり面積に関わらずバル、カフェ、レストランなどすべての公共室内空間で禁煙が義務付けられました。違反者には最高750ユーロの罰金が科せられます。このため、喫煙ができる屋外のカフェテラスを申請するお店が増えたそうです。こちらは日本より喫煙者が多く、女性の喫煙者も結構いました。
 

[ 朝のカフェテラス(2014年):バレンシア ]
   一般道に一つもないのが横断歩道橋です。車優先社会の象徴である横断歩道橋は、日本の都市部、郊外部を限らずはびこっていますが、スペインでは高速道路を渡る歩道橋以外はありませんでした。人間様がわざわざ階段を上り下りしているのに、自動車が平面をスイスイ走っている日本の道路をスペインの人が見たらどう思うのでしょうか。
 高速道路を渡る歩道橋は、橋桁も橋脚も細く華奢な感じで、日本の無骨な歩道橋を見慣れている人は、こんなに細い橋で大丈夫なのかと心配してしまいます。歩道橋に限らず橋脚が細いのは地震が少ないからですが、若い女性の足が細長いのは人種の違いのようです。しかし、どういう訳か歳を取るとみんな真ん丸な姿に変身していました。
 

[ 高速道路の歩道橋(2014年):桁も柱も細い ]

■ 路面・・・・・
   最後に路面です。日本ではアスファルトで舗装された歩道が多いのですが、こちらは車道がアスファルトでも歩道は石材、ブロックで造られているのがほとんどでした。中世の城壁に囲まれていた旧市街地と言われる地区には、車道も石材で造られている所が多くあります。
 石材やブロックの歩道はスーツケースを転がすとゴロゴロとうるさいのですが、これも車より歩行者を上位に置く差別化の一つのようです。
 整形された石材で造られた道のほか、河原の石をそのまま埋め込んで造られた路面もあります。足つぼマッサージの上を歩いているようで、歩きにくいのですがコストは最も安い石畳だそうです。
 

[ 河原石の路面(2014年):トレド ]

■ 電線・電柱のない空・・・・・
 

[ 電柱・電線のない空(2014年):マドリッド ]
   建物の間から空を見上げても視界を妨げる電柱と電線がないのです。大都市に限らず小さな集落でも電柱・電線がないのです。道路を横断して建物と建物を結ぶ電線がたまにありますが、気に入った景色を写真に収めるときに電線が邪魔になることはまずありません。
 電線の多くは地下に収納されているようですが、よく見ると建物の壁面に電線(電力線か通信線かよくわかりませんが)が取り付けられ、隣の建物へとつながっています。これも建物と建物を隙間なく建てることが一般化しているので可能なのです。
 さすがに郊外部では畑の中の一軒家へつながる電柱・電線が時々高速道路から見えました。
 

[ 壁面をはう電線(2014年):カンポ・デ・クリプタナ ]
   日本で電線が地中化されると、歩道の上に変圧器などを納める地上機ボックスが置かれますが、スペインでは地上機ボックスのない道路が多くありました。日本の電圧は100Vですがあちらは240Vなので、配電機器に違いがあるのでしょうか、それともどこかの建物に収められているのでしょうか。折角電柱をなくしても地上機ボックスが歩道上に鎮座していては効果半減です。
 為替レートが円高になったり原油価格が下落すると、一般家庭の電力料金も値下げになるようですが、一世帯当たり数十円~数百円の値下げなら、そのお金で電力事業者自ら無電中化を進めて欲しいものです。
 日本国民全員が電柱を避けながら歩き、車を運転しているのですから。
 

[ 電柱(2014年):コルドバ ]
   たまたま川の脇に電線を支えている電柱を見つけました。日本の電柱はコンクリート製の細長い円柱形ですが、スペインの電柱は梯子型の何とも言えないごつい形でした。


  chapter-80 スペイン その2
  ■乗り物
  ■街並み
  ■ゴミ箱
  ■看板
  ■自動販売機
  ■畑
  ■おわり
   

 


 
おまけ
[ サグラダ・ファミリア ]
 ガウディが手掛けたことで有名な教会で、1882年に着工し完成時期は未定でしたが最近は2026年完成といわれています。2010年にローマ法王ベネディクト16世が訪れ正式にカトリックの教会に認定されました。
 地下にある博物館も一見の価値があります。



[ ラス・ファレラス水道橋 ]
 紀元前2世紀のローマ時代に建設された水道橋です。現在残っているのは長さ217m部分で2層のアーチは26mの高さがあります。最上部の水路部分は人が通れるようになっていますが、すれ違うのがやっとの幅です。
 高速道路からアクセスでき、無料で見学できます。



[ アルハンブラ宮殿 ]
 1492年までとどまったイスラム教徒の最後の拠点で、ナスル朝時代の王宮が有名。無装飾な外部に比べ内部は精緻な彫刻や鍾乳石飾がふんだんに使われています。
 ライトアップされた夜景はグラナダ市街から見ることができます。



[ バレンシア カテドラル ]
 モスク跡に建設され14世紀末に完成しましたが、その後も17~18世紀に手が加えられ、ゴッシック様式のほか様々な建築様式が混在しています。カテドラルの周りには多くのカフェが店を並べているレイナ広場のほか、小さな広場があり欧州の旧市街地らしい風景が見られます。



[ カンポ・デ・クリプターナ 風車 ]
 風車は16世紀中頃から使われていましたが、現在は観光施設として存在しています。この丘に立つと、メセタといわれる高地に広がる果てしない畑を一望することができます。
 日本の観光地にある水車のスペイン版のようなものです。

<参考資料>
○地球の歩き方A20 スペイン 2014~2015年版 (ダイヤモンド・ビック社 2014.3.21)