chapter-90 海の堤防と川の堤防 
[2016.03]

■海の堤防・・・・・・


[ 被災した堤防(2013年):宮城県南三陸町 八幡川河口付近 ]
   2011(H23)年3月11日に発生した東日本大震災から5年経った時点で、海岸堤防は計画数677のうち完成したのは19%・126地区で、ニュースなどでよく取り上げられる災害公営住宅の完成49%に比べても大きく後れを取っています。
 海岸堤防は津波による被災地に新たに造られるように思われがちですが、被災前にもほとんどの海岸に堤防がありました。復旧される海岸堤防だけでは、東日本大震災で発生した津波のような1000年に一度といわれる最大級の津波(レベル2)を完全に食い止めるには、膨大な費用と時間がかかります。このため津波(レベル2)に対しては、避難の時間を稼ぐためのハード整備と安全に避難できるソフト対策を組み合わせた「減災」の考え方で対応することとしています。
 

[ 復旧された堤防(2013年):宮城県山元町 高さ7.2m ]
 現在、建設が進められている堤防は、数十年から百数十年に1度発生する津波(レベル1)に対応する高さで造られています。宮城県沿岸の場合は、東日本大震災の津波痕跡が2.4m~24.0mの高さで確認されましたが、過去の津波(レベル1)を参考に海面からの高さ2.6m~11.8mで造っています。津波痕跡からすれば半分程度の高さですが、11.8mの高さは4階建てに相当するので近くで見上げると首が痛くなるような高さです。
 岩手・宮城・福島の被災3県では総延長394kmの海岸堤防が計画されていますが、そのうち海面からの高さが5m未満が94km・24%、5m以上10m未満が250km・64%、10m以上が50km・12%です。
 

[ 設計津波の選定:頻度の高い津波で堤防を計画 ]
   堤防の形状は、コンクリートの壁といえるような形から台形の盛土の表面をコンクリートで覆うものまで、造られる場所によって形状は様々です。
 部外者の目で見ての感想で恐縮すが、コンクリートの壁よりも台形型の方がどっしりとした安心感があります。さらに欲をいえば表面がコンクリートに覆われているものよりも、草木が生えている緑の堤防の方が周りの風景とも馴染みます。
 しかし、土砂のままでは津波が堤防を越える際に削り取られて崩れてしまうため、止むを得ずコンクリートで固められています。


[ 復旧中の堤防(2015年):波返しが付いている ]

■川の堤防・・・・・
   海岸堤防がこれまでより高くなると、今まで見ることができた海辺の風景が失われ、見慣れた故郷が様変わりしてしまうため、建設に反対、高さを下げて欲しい、との声も聞かれます。このため、堤防の高さを再検討している地域もあるようです。
 堤防が造られて風景が変わってしまうのは、海岸の堤防に限らず河川の堤防でも同じです。山間部の河川は大地を浸食した谷底を流れているので堤防を造る必要はありませんが、平地部では氾濫から生活を守るためには、奔放な川の流れを狭い幅に固定させるため、どうしても堤防が必要になります。
 

[ 秩父市内の荒川(2005年):堤防は不要 ]
   近年は河川の整備が進み久しく大きな水害はありませんでしたが、2015(H27)年9月10日の大雨で茨城県内の鬼怒川堤防が決壊し、常総市を中心に大きな被害が発生しました。線状降水帯が鬼怒川の上におおいかぶさり停滞したため、上流にも下流にも大雨をもたらし鬼怒川は想定を超える洪水が流れました。濁流が堤防を削り大きくうねる洪水が家屋を押し流し、屋根には手を振って救助を求める住民が映像がテレビでも流されました。
 津波の来襲に比べれば、川の洪水は水面の上昇が緩やかですが、決壊地点から長時間にわたり洪水が流れ込み、浸水地域は下流側に向かって広がり大きな被害が出ました。
 

[ カスリーン台風決壊地点(2011年):ミニスーパー堤防になってる ]
   埼玉県内も利根川や荒川の洪水に苦しんできました。
 堤防が決壊し大きな被害をもたらした洪水として記憶されているのは、1947(S22)年9月のカスリーン台風による大洪水です。埼玉県東村(現・加須市)で利根川右岸の堤防が350mにわたり決壊し、洪水は利根川の昔の流路をたどるように東京湾に向かって流れ、足立区や葛飾区にまで押し寄せ床上・床下合わせ30万戸以上が浸水しました。
 このような大惨事もあり、利根川では堤防を高く厚くする工事が進められています。現在の利根川堤防は、年超過確率(1年間にその水準を超える事象が発生する確率)が1/30~1/40に対応する程度であり、これを1/70~1/80に引き上げる事業です。津波(レベル1)の発生確率とほぼ同程度の水準です。
 また、堤防が高くなると万が一決壊したときには甚大な人的被害が発生する恐れがあるため、江戸川下流域では超過洪水対策として、洪水が堤防を越えても壊れにくい高規格堤防(スーパー堤防)も検討されています。
 

[ 戸田市内の荒川堤防(2012年):歩く人に比べ堤防は巨大 ]

   市街化が進み資産の集積も著しい利根川や荒川の流域は、洪水が起きた際に失われる資産が大きいため、河川整備に使える金額も大きく、堤防の強化やダム建設がこれからも続きます。
 昔は堤防が低く水の流れが見えたのかもしれませんが、現在では堤防に上らないと水面を見ることはできず、堤防の高さが2階建て家屋の屋根を超えるところも多くあります。
 それでも、堤防が高くなるのは反対、という声はあまり聞きません。
 海では漁業で生計を立てている人が多くいますが、川の周辺は漁業で生活する人もほとんどいないうえ、堤防の必要性を実感しているからなのでしょうか。


[ カスリーン台風の浸水実績(2016年):電柱の赤線が1.8mの浸水 ]
 
   

 


 
おまけ   [ 羽生結弦さん(2014年) ]
 ご存じ、ソチ冬季オリンピックの男子フィギュアスケートの金メダリストです。東日本大震災の際は仙台市内のリンクで練習中で、自宅も被害を受け避難所生活も経験したそうです。地元ということもあり自ら復興支援に貢献しています。
 ソチ・オリンピックで金メダルを獲ったあとに、仙台市内で行われた凱旋パレードの一コマです。パレードが行われた国道4号は金メダリストを一目見ようと9万2000人が集まったそうです。

 
<参考資料>
○宮城県沿岸における海岸堤防高さの設定について(案) (宮城県沿岸域現地連絡調整会議 2011.9.9)
○公共インフラの本格復旧・復興の進捗状況① (復興庁 平成28年1月末時点)
○利根川上流河川事務所ホームページ (http://www.ktr.mlit.go.jp/tonejo/)