chapter-077  煙突と換気塔

[ 2014.07~ ]

■高層ビル・・・・・



[ 月島・晴海方面(2013年):臨海部の高層マンション ]


この頃、都会には細く高さのあるビルが増えてきました。
建築技術の向上、容積率などの規制緩和、高層階を希望する購入者の増加など、さまざまなな事情が絡み合って増えたのでしょう。
田舎者が細長い高層ビルを見ていると、十分な耐震構造や免震構造になっているとはいえ、地震のときには大きく揺れて途中で折れてしまうのではないか、と余計な心配をしてしまいます。


■煙突・・・・・


高層ビルよりも細い長い構造物は煙突です。
一昔前の住宅地では銭湯の煙突が目立っていましたが、○×ニュータウンや○×△ヶ丘のような新興住宅地では風呂付き住宅が建てられたので銭湯はありません。
今ではアパートも風呂付が普通になり、学生相手のアパートでさえ最低でもシャワーがないと借り手が来ないようです(風呂なし・汲み取り便所のアパートは昭和の遺物になってしまいました)。
銭湯があるところは、高度経済成長期よりも古くから市街地が形成されているところが多く、再開発などが行われていなければ、大正モダン、昭和レトロな街並みを発見することができます。



[ 銭湯(2011年):煙突は銭湯の目印 ]


日本の住宅地では銭湯の煙突くらいしか目にすることはありませんが、欧米の住宅地では暖炉からのびる煙突を見ることができます。
クリスマスにサンタクロースが煙突から入ってきて良い子にプレゼントをくれるとか、貧しい少年が煙突掃除夫として過酷な労働を強いられたとか、煙突と暖炉の存在がごく普通だったようです。
西洋文化が押し寄せてきた時期は、お金持ちやハイカラな人は暖炉付きの邸宅を好んで建てていたようですが、現在でも暖炉付きの住宅を持てるのは相当なお金持ちで、庶民には高嶺の花です。



[ 煙突(2011年):渋沢栄一の喜寿を祝って建てられた誠之堂 ]


日本では冬の暖をとるための器具として火鉢が伝統的に使われ、戦後になっても一般家庭で使われているのを見ることができました。
火鉢の燃料は木炭でちゃんと火がつけば煙は出ないので、当然のことながら煙突はついていません。
戦後になると灯油をつかう石油ストーブが普及します。
時々窓を開けて換気しなければなりませんが、よほど強力なものでもない限り、煙突を必要とするストーブは稀です。



[ 炭入れ・火鉢・火消つぼ(2013年) ]


最近は省エネの観点から薪ストーブを付ける住宅もあるようですが、その数はわずかです。
日本の住宅地では昔も今も煙突のある家は数少ない存在です。
煙突と言えばやはり工場の煙突でしょうか。
昔の工場の煙突は、煤や汚染物質が混じった黒い煙をモクモクと吐き出し、大気を汚染する元凶となっていました。
1960~1970年代の高度成長期には、石油、鉄鋼、化学工場などが建ち並ぶ臨海部では、煤で洗濯物が黒くなり亜硫酸ガスなどでテレビアンテナが腐食するほどで、ぜんそくになる人も多かったのです。
このような公害の反省から現在では規制が厳しくなり、煙の中の有害物質は取り除かれ、白く見える煙も水蒸気が結露してできる細かい水滴だそうです。



[ 川崎の工場(2013年):羽田空港から川崎方面を見る ]


それでも、煙突から出る煙は普通の空気よりは汚れているので、拡散させて濃度を下げる(薄める)ために煙突はどんどん高くなっています。
煙突の高さが周囲の建物や地形の2.5倍以下になると、それらによって生じる渦領域に巻き込まれたり、地表面に引き込まれる現象が起こりやすくなり、煙が拡散されずに濃いまま地表に達するそうです。
逆に高さが60m以上になると、航空法により航空標識や航空障害灯を設けなければなりません。
池袋にある豊島清掃工場の煙突は高さ210mもあり23区内の清掃工場で最も高い煙突です。
巣鴨プリズン跡地に造られたサンシャイン60とういう高層ビルが、清掃工場の近くにあるため煙突も高いものになったそうです。



[ 豊島清掃工場の煙突(2014年) ]


■換気塔・・・・・


煙突と似たものに換気塔があります。
燃焼に伴う煙を出すのではなく、地下などにある施設内の空気を入れ替えるために造られる施設です。
煙突は燃焼による高温の排気ガスなので自然に上昇しますが、換気塔は常温の空気を入替えるので、吸排気ファンなどの設備が必須になります。
地下の施設といえば地下鉄が代表格ですが、地下鉄は電車が走るので空気を汚すのは乗客の呼吸くらいで、建設年次が古い地下鉄は大規模な換気施設の必要はありませんでした。
地上部の道路のところどころに換気口がある程度です。
トンネル内を走る車両がピストンの役割を果たし、車両の進行方向前方の空気は換気口から押し出され、車両の後方では空気を吸い込むのです。
映画『七年目の浮気』でマリリンモンローのスカートをめくり上げたのは、地下鉄の換気口から吹き出る風です。



[ 青山通り(2014年):地下鉄銀座線の換気口 ]


しかし、新しく造られた地下鉄は、地表から深いところに造られ駅の規模も大きくなり、自然換気だけでは対応できず、大がかりな設備が必要になっています。
建築当時の姿に復元された東京駅の皇居側には、総武・横須賀線東京地下駅への換気を行うための高さ13mもある換気塔が鎮座していました。
丸の内側から東京駅を見るときにとっても邪魔な塔でしたが、約4mまで切下げられたのです。
欲を言えば地表面から見えないように改造できれば最高だったのですが、技術的に不可能だったのでしょうか?



[ 東京駅(2012年):換気塔で復元された駅舎が見えない ]


[ 東京駅(2014年):換気塔が低くなりさっぱり ]


換気塔で増えているのは、道路トンネルの空気を入替えるためのものです。
自動車は空気中の酸素を消費し排気ガスを出すので、空気を入替えないと運転者や乗客が充満した排気ガスに殺されてしまいます。
道路トンネルの換気塔でよく知られているのは、東京湾アクアラインの9.6kmに及ぶ海底トンネルの換気塔でしょう。
遠くから見るとひとつの構造物に見えますが、海面からの高さが96mの吸気用と81mの排気用の二つの塔があります。
海を埋立て人工島を造りその上に『風の塔』と名付けられた青白ボーダーの換気塔がそびえ立っています。
海上にあるのであまり大きな換気塔に見えませんが、港区赤坂にある20階建のTBS放送センターとほぼ同じ高さがある巨大なものです。



[ 東京湾アクアライン(2016年):お台場から見る『風の塔』 ]


道路トンネルは海底よりも陸地に多くあります。
とくに山間部では鉄道や道路を通すために多くのトンネルが掘られています。
短いトンネルは通行する車がピストンの役目を果たし、空気を出し入れするので特に換気施設は設けられていません。
トンネルが長くなると換気施設が必要になりますが、山岳トンネルは換気塔が山の中にあり高さも低いため目立つものではありません。
山岳トンネルの代表である長さ約11㎞の関越トンネルは、群馬県と新潟県にそれぞれ1ヵ所換気塔があります。
長さの割に換気塔が少ないのは、地上部が国立公園のため自然環境の保全という制約があったためです。



[関越トンネル谷川換気塔]
(YouTube関越トンネル 地下に広がる幻想の異世界【NEXCO東日本】)


また、埼玉県内で最も長い国道140号雁坂トンネル(L=6,625m)の換気塔は、秩父市大滝の水晶谷にあり、トンネル本体と換気塔を長さ1,588mもある換気斜坑が結んでいます。
普段は見えない部分にもトンネルを造る時の苦労工夫が隠れています。



[ 雁坂トンネル換気塔 ]


山岳トンネルに比べると市街地の地下を通るトンネルの換気塔は目立ちます。
地上には建物があるため煙突と同様に換気塔も高くなります。
市街地のトンネルといえば首都高速道路が思い浮かびますが、その中でも中央環状線はほとんどが山手通りの地下を通るトンネルです。
中央環状線の換気塔は山手通りの中央分離帯に設けられ、高さは周辺のマンションより高く45mあります。
山手通りが幅40mもある広い道路ので、かなり遠くから路上にある換気塔を見ることができます。
トンネル内の排気ダクトで排気ガスを集め、塵や大気を汚染する物質を取り除き、換気塔から排出します。
道路の両側はマンションなどが並ぶ市街地なので、周辺に圧迫感を与えないスレンダーな形状にしつつも、換気塔があることを主張するようなデザインだそうです。
市街地の道路は高架構造や地表部から地下に追いやられる傾向にあるので、これからも換気塔は増えていきます。



[ 首都高中央環状線の換気塔(2014年):代々木八幡付近 ]


[ 首都高山手トンネル(2013年):ダクトが見える ]


自動車が空気を消費せず排気ガスを出さない仕組み(たとえば完全な電気自動車)になれば、換気も少なくて済むので換気塔は小さく、少なくできるはずです。
近い将来、巨大な換気塔が自動車発達の歴史を物語る遺跡になるかもしれません。



■おまけ・・・・・


[ 精陽軒(2014年) ]

青山通りからちょっと入ったところにある「精陽軒」ですが、上野に本店のある精養軒とは文字も料理も全く違います。
こちらは中国料理のお店で、店内の案内をみると創業100年を越える老舗だそうです。ランチの麺類+ご飯ものは800~900円程度でおなか一杯になります。また。夜の『寄り道コース』は生ビール2杯+ギョーザ+おつまみ1品=1,000円はとてもリーズナブルです(これで終わればですが)。おつまみは雲白肉(ウンパイロウ)がお勧めです。





<参考資料>