chapter-107  ショッピングセンター

[ 2017.10 ]

■デパートがなくなる・・・・・



[ 浜松市内(2014年):夕方5時の様子 ]


地方に行くと駅前であっても営業していない店舗が続くいわゆる「シャッター商店街」があちこちで見受けられ、衰退した街の代名詞になっています。
シャッター商店街は人口が減少した地方部だけでなく、大都市近郊の駅前でも見られる光景です。
デパートの閉店は地方都市のみならず大都市近郊でさえ撤退する店舗があり、商店街と同様に苦戦を強いられています。



[ 松菱(2015年):三重県津市のデパート  ]


ひと昔前は、デパートに行くといえば家族の一大レジャーであり、大食堂での昼食は子供たちにとって最大の楽しみでもありました。
まさに「サザエさん」や「ちびまる子」で描かれているように、お出かけ用のちょっといい服に着替えてデパートに行く姿は、昭和の日本では当たり前の状況だったのです。
最近は県庁所在地でさえも、デパートにお目にかかれないこともあります。


■小さなお店がなくなる・・・・・



[ 那覇の商店街(2017年):今も残る味噌の量り売り ]


高度経済成長前の日本では、どこのお店でも客と店員が対面して行う販売方法が普通でした。
さかなは魚屋へ行き「さんま3尾ちょうだい、おいしそうなの」「へい毎度、とれたてのさんま3尾で100万円になります」、野菜は八百屋の店先で小分けしてある野菜を指さし「そのナスと、そっちのネギちょーだい」と、客の注文に応じて店員が商品を取り分け、包み、代金を受け取る一対一で買い物をしていました。
醤油や味噌は今ではボトル詰めやパック詰めが普通ですが、以前は店先での量り売りが当たり前でした。



[ ;Aoビル(2013年):日本初のスーパー紀ノ国屋が入ってる ]


経済が成長するにつれて日本にもスーパーマーケットという形式の店舗が導入され、食料品を中心に買い物行動が一変しました。
店舗は複数のカテゴリーを扱い豊富な品揃えのため大型化し、客は一つの店舗で格安な価格で買い物ができるようになりました。
これまでのように魚屋、肉屋、八百屋など個別の店舗を廻らずとも一つの店舗ですべてが揃い、雨が降っても傘を差さずに買い物ができるのです。



[ 東急ストア(2017年):JR常磐線金町の駅前 ]


また、店員との対面販売からセルフサービス(客が品物を取り出し、会計場所に運び、会計し、袋詰め)で購入する方式へと、大きく変わったのです。
スーパーでは誰でもが割安の同じ価格で買うことができるので、「サザエさん」のように客によってはオマケがたくさんついたり、ぼられたりすることはありません。
今では当たり前の買い物方法ですが、当時は客と店員双方の効率を最大限に高めた販売方式でした。



[ スーパーの駐車場(2013年):国道17号沿い ]


さらにスーパーマーケットなど大型店でのお買い物を支えたのは、自家用車の普及です。
駅直近のスーパーでもない限りほとんどのスーパーには駐車場があるので、重い荷物を運ぶ苦労から解放され、雨・風・気温など天候に左右されることなく買い物に行けます。
スーパーマーケットが各地にできると、競合する食料品などを扱う個人商店の行く末は言わずもがなです。


■商店街がなくなる・・・・・

 


[ ららぽーと富士見(2017年):市街化調整区域に8万㎡ ]


スーパーマーケットが広まると、朝・昼・晩の「食」に必要な品物に加え、「衣」の品物を扱うお店も一体になりショッピングセンターとかショッピングモールといわれる施設が増えています。
衣類、靴、鞄、メガネ、宝飾品、アクセサリーなどのほか、「住」に必要な家具、家電、インテリアさらに自動車まで売っています。
ひとつの店舗で「食」以外の商品を扱うのは、スーパーマーケットの拡大版でしかありませんが、ショッピングセンター(SC)は複数の店舗をまとめて一か所に集め商店街を造り出そうとする、これまでとまったく違った発想です。
イオンモールやららぽーと、さらにアウトレットを扱うショッピングモールもSCに包含されます。



[ イオンモール北戸田(2012年):県内では古株のイオン ]


一般社団法人日本ショッピングセンター協会では、SCの要件として「ディベロッパーにより開発、計画されるもの」とし、小売業の店舗面積は1500㎡以上、キーテナント以外の店舗数は10以上などの条件を満たすこととしています。
さらに、運営上の条件として「テナント会(商店会)があり、広告宣伝、共同催事等の共同活動を行っていること」としています。
SCは小売店のほかに飲食店は必置の施設ですが、映画館やゲームセンターのように娯楽を提供する施設、さらにフィットネスジム、エステ、歯科など健康をサポートする施設が入っているところもあります。
アルコールを提供する飲食店はありますがさすがに呑み屋のあるSCは見かけません。
最近のSCは、家族が一日遊べるお買い物のテーマパーク(お父さんは疲れるだけですが)といっても差し支えありません。



[ イオンレイクタウン(2012年):日本最大級のSC ]


埼玉県内で最大のSCは武蔵野線沿線の越谷レイクタウン駅周辺です。
店舗面積16万㎡のイオンレイクタウンと2.3万㎡のイオンレイクタウンアウトレットが隣接して立地し、JR武蔵野線レイクタウン駅の目の前、国道4号のバイパスである東埼玉道路沿いでもあるので、電車でも車でもアクスできる巨大SCです。
このSCは土地区画整理で造られた新市街地に立地していますが、レイクタウン駅の周辺は飲食店と学習塾などが点在する程度で、駅前商店街ができることはなさそうです。
広い駐車場を備え一日過ごせる大規模なSCへの行き帰りに、別のお店に寄ろうとはなかなか思いません。
まして、駐車場の少ない商店街には足が向きません。



[ コンビニ(2017年):いつでもどもでも ]


ちょっとした買い物やお弁当だけ、飲み物だけ、雑誌だけ、SCなどの大型店では時間がかかり面倒くさい、といった隙間を埋めるようにコンビニがあちこちに進出しています。
コンビニは需要の高い商品はいつでも買うことができるうえ、各種料金の支払いや宅配の受付もする現代版の「万屋(よろずや)」として店舗数を伸ばしています。
SCとコンビニの連合勢力に既存の商店街が対抗するのは厳しそうです。
いまだに元気な商店街は、大型店の立地余地がない密集市街地で、鉄道駅直近の徒歩利用者が多いところくらいです。 



[ 霜降商店街(2011年):まだまだ元気な商店街 ]


■SCがなくなる?・・・・・



[ アマゾン(2017年):安くて楽ちん ]


小さなお店や商店街を圧倒したSCなどの大型店にも強敵が現れているようです。
店先まで足を運ばさずとも格安に買い物がきるカタログ通販、TVショッピング、さらに進化形のネットショッピングなどが急成長しています。
経済産業省の調査によると、国内の企業-消費者間の電子商取引(BtoC-EC)は、2010(H22)年は約7.7兆円でしたが2022(R4)年は22.7兆円と12年で3倍になり、このうち、物販系分野は約14兆円を占め電子商取引化(EC化)は9.13%に達しています。
物販系分野のなかでも書籍等はEC化率が50%を超えており、町の本屋さんが減少するするのもやむを得ない状況です。
最近は、生鮮食品のように傷みやすいものや、衣料品・靴など普通は試着して買うような商品まで、取り揃えて売られています。



[ マネキン(2013年):試着は不用に? ]


パソコンやスマホで見る映像や口コミだけではやはり不安です。
商品が並ぶ店舗に足を運ぶ理由のひとつには、現物を手に取って手触りを試したり、商品の仕上がりの状態を確かめてみたい、衣類であれば自分の体形に合っているか試着したい、という思いがあります。
このような思いはバーチャルリアリティ(VR)などの技術が進歩すると、お店まで行かずとも自宅で体験できるようになりそうです。
自分の体のスキャンデータで造り上げたVRマネキンに服を着せれば、試着をしないでも似合うかどうか姿見鏡で見るように確かめられるかもしれません。



[ 測量用ドローン(2017年):荷物は運べません ]


仮想空間につくられたVR店舗でネットショッピングとなれば、あとは倉庫から自宅までドローンの宅配業者さんにでも運んでもらうだけです。
生き残れるのは、造つくりたての料理を提供するような飲食店、呑み屋、理容店やエステのように本人に触れる必要があるサービス業くらいでしょうか?
SCの業種別テナント数の割合は、ここ数年大きな変動はなく物販6割、飲食2割、サービス2割です。
最多数を占める物販店が危うくなれば、SC経営に大きな影響をもたらしそうです。
商店街の場合は、各店舗が経営状態を判断し継続or閉店を判断するので、閉店は徐々に進行していきますが、SCは個々に儲かっている店舗があっても、SC運営企業の事情で営業方針を判断します。
最悪の場合は SC閉鎖=全テナント撤退=商店街の消滅 という事態になってしまいます。



[ 旧・菖蒲町(2017年):近くにショッピングモールが誕生 ]


一般社団法人日本ショッピングセンター協会のデータによると、2016(H28)年12月末現在、全国に3133のショッピングセンターがあり総店舗面積は約5435万㎡、総テナント数は164,653店もあります。
埼玉県内には144のショッピングセンターがあり、総店舗面積は312万㎡に達します。
SCは規模、キーテナント、立地、建物形態などが様々で、いまでは娯楽・レジャーの一翼を担う施設でもあるので、すべてのSCが一気に消滅するとは考えられませんが、撤退してしまったあとに残るのはたくさんの「買い物難民」です。



■おまけ・・・・・


[ 那覇 牧志公設市場(2017年) ]

那覇市の国際通り脇にある公設市場で、屋内に小さな個人商店が集まった商業施設。
肉、魚、野菜、総菜からお土産のお菓子まで売っています。
観光地化が著しく、地元のお客さんはわずかで、海外からの観光客が幅を利かせています。
2階の食堂は日本とは思えないほど、外国語が飛び交っていました。
この市場は2023年3月に新しい建物になりました。





<参考資料>