chapter-114 高砂湯跡

[2018.03]

■入浴料金・・・・・



[百観音温泉(2010年):埼玉県久喜市]


近年、多彩な入浴設備と充実した休憩施設を備えた『スーパー銭湯』と言われる入浴施設が増えています。
スーパー銭湯と普通の銭湯を区別するものは、浴槽の数でもなく、お湯の質でもなく、営業時間でもなく、入浴料金です。
スーパー銭湯に特別な定義はないのですが、いわゆる銭湯は公衆浴場法に基づく都道府県の条例で『一般公衆浴場』(東京都は『普通公衆浴場』)と定義されています。
一般公衆浴場は、地域住民の日常生活において保健衛生上必要なもので、物価統制令(昭和21年3月勅令第118号)の適用を受け入浴料金が定められています。
スーパー銭湯やヘルスセンター、サウナ風呂、個室付き公衆浴場は『その他の公衆浴場』にくくられ、入浴料金に縛りはありません。
条例では「七歳以上の男女を混浴させないこと。」との決まりもあるので、埼玉県の銭湯では混浴のお風呂は造れません。



[銭湯の富士山(2008年):たてもの博物館]


現在、物価統制令によって価格が定められているのは一般公衆浴場の入浴料金だけで、都道府県知事が統制額を指定することとされています。
埼玉県の入浴料金は、直近では2022(R4)年8月に、大人(12歳以上)が430円から480円に改定されました。
物価統制令は天皇の勅令ですが「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基づく経済安定本部関係所命令の措置に関する法律(昭和27年法律第88号)第4条の規定により法律としての効力を有するとされる。」ものです。
敗戦国日本の戦後がいまだに続いていることを忘れさせないような勅令です。



[都内小売物価の推移]


総務省の統計資料で1950(S25)年から2010(H22)年までの都内小売物価の動きを見ると、食料品の値上がりは入浴料の45倍に比べると小さく、豚肉(ロース)が6倍、さんまが13倍で、なぜがたくあん漬の値上がりは大きく28倍の上昇です。
一方、食品以外ではワイシャツの洗濯代は8倍ですが理髪料は63倍になっています。
機械化できず人手に頼る割合の高いサービス、製造品は上昇率が高いようです。
銭湯の入浴料は下がることなく上昇していますが、統制されていなければどのくらいの価格になったのでしょうか。
ちなみに1950(S25)年の都内入浴料金は10円でした。


■銭湯の数・・・・・



[公衆浴場の数]


お風呂のない住宅やアパートの減少に伴って、銭湯も減少しています。
1989(H1)年は一般公衆浴場12,228軒、その他の公衆浴場12,527軒とほぼ同数が存在していましたが、一般公衆浴場は減少の一途をたどり2021(R3)年は1/3以下の3,120軒にまで減少しました。
スーパー銭湯が含まれるその他の公衆浴場は、2008(H20)年にピークの22,801軒に達しますがその後は微減傾向が続き、2021(R4)年は20,660軒となっています。
その他の公衆浴場の中では、サウナ風呂が大きく数を減らしています。



[浅草(2016年):屋根が立派]


銭湯の数が多いのは人口が最も多い東京都のように思いますが、2022年現在、①東京都482、②大阪府428、③青森県281、④鹿児島県261、⑤北海道233の順位です。
意外なことに青森県や鹿児島県に一般公衆浴場が多いのです。
これを人口1万人当たりにすると、①青森県2.27、②鹿児島県1.64、③大分県1.17、④富山県0.75、⑤京都府0.59となり青森県が2位を大きく引き離して第1位です。
埼玉県は軒数39で第16位、人口1万人当たりでは0.05で第39位という状況です。
県内の銭湯の数は1969(S44)年がピークで現在の10倍近い380軒もありましたが、その後は減少傾向が続いています。
住宅の内風呂化による利用者の減少に加え、後継者不足、燃料の高騰などにより廃業せざるを得ない銭湯が後を絶たないようです。


■高砂湯跡・・・・・



[高砂湯跡(2017年):こんなところに]


廃業した銭湯のひとつに浦和駅西口近くの高砂湯があります。
特に有名な銭湯と言うわけではなく、昭和が終わり平成になる頃に『ISETAN PLUS1』というビルに建替えられ、1階にはイタリア料理のお店が入っています。
このビルの基礎は御影石で化粧されていますが、建て替え前に銭湯があったことを物語る銘板が北側に付けられています。
路面すれすれの位置にあるので、よほど注意して歩いていないと気づきません。
「高砂湯跡」とだけ彫られいるのですが、いつごろまで高砂湯が存在していたのかまったくわかりません。
1980(S55)年の住宅地図をみると確かに「高砂湯」があったことがわかります。



[セットバック(2017年):右のタイルのラインが道路境界]


現在のビルは高砂湯があった頃よりも西側に後退して建てられています。
後退した部分は、自転車が駐輪できないように赤白の柵で囲まれて入れないよう閉じられていますが、その柵にチェーンロックをかけ駐輪している不届き者がいます。
路面はタイルで舗装され格子模様が施されていますが、敷地の境界を示すように肌色のタイルが直線状に横切り、よく見ると道路との境界を示す金属の鋲が入っています。
柵で囲われた部分は、高砂湯が廃業し建て替える際に当時の浦和市がわざわざ道路として取得したようですが、ビルが建てられてから現在まで柵で囲われたままです。



[ミニ公園(2023年):隣の建替えに合わせ改装された]


また、この場所の道路を挟んだ北側には、小さな公園があります。
この公園も昔からあったものではなく、家があった土地を市が買い取って公園にしたようです。
高砂湯跡地と同様に、駐輪できないように柵で囲われていましたが、最近改装されました。
この辺りは宿場町時代からの地割が残り、建物が建て替わるものの道路の拡幅や公園の整備はされず、特に公園・緑地といった空間はほとんどありません。
公園になった土地は浦和駅に近い商業地なので決して安くはないはずです。


■こんな風にしてほしい・・・・・



[パティオ十番(2014年):夜も人通りが多い]


駅から近く地価の高い土地が、柵で囲われたままの状態ではまことにもったいない話です。
高砂湯跡地とミニ公園に隣接する道路も合わせれば、いろいろな工夫ができると思います。
都内には戦災復興事業の際に『街園(街路庭園の略)』と言われる、交通機能のほかに都市生活に必要な公共的空間として設けられたところがあります。
麻布十番のパティオ十番や恵比須駅西口にある恵比須神社(区画整理組合が復興記念の神社にしてしまった)などです。



[港区道路台帳:東に行くと地下鉄麻布十番駅]


当初、パティオ十番は幅の広い道路でしたが、駐車車両が多いため1986(S61)年に本来の目的であった『街園』に造りかえられました。
車が通れる部分が狭くなったので迷惑駐車はなくなり、時たまイベントも行われています。
中央の島状部分は、約40m×約10mの細長いラグビーボールのような形で高木が数本植えられ
、東西方向に高低差があるため階段状になっているところもあります。
一休みしようにもベンチがないので、コンクリートの車止めを椅子代わりにせざるを得ないのが残念です。
周りの車道と歩道を含めると長さ約70m、幅約25mと結構大きな『街園』です。



[恵比須神社(2013年):組合の総意で神社になった]


恵比須神社になった『街園』は、長さ約35m、幅約20mとパティオ十番に比べれば小ぶりです。
小判型の敷地は24m×12mほどの大きさで、外周に沿って設けれられた柵の柱には、戦災復興の区画整理事業に参加した人の名前が彫られています。
植えられている木々は敷地上空をほぼ覆うように枝を伸ばし、緑の一角を造り出しています。
しかし、社殿裏にある2階建ての建物はいただけません。
公園が日本に広まっていない頃は、神社の境内は日本人にとって公園に近い役割を果たしていました。
社殿だけならば『街園』が恵比須神社に代わっても文句はないのですが、 社殿裏の建物は大いに『街園』機能を削ぎ、見た目にも美しくありません。



[渋谷区道路台帳:東側がJR恵比寿駅]


■高砂湯跡の前を『街園』に・・・・・



[こんな感じで]


高砂湯跡付近で『街園』に使えそうな部分を赤線で囲ってみました。
南北方向で約25m、東西方向で約13mですから小中学校にある25mプールほどの大きさで、恵比須神社よりも一回り小さい規模です。
交差している道路は狭く『街園』周りも乗用車が通れれば十分そうなので、真ん中に10m×5mほどの島が造れるのではないでしょうか。
狭い空間なので凝った仕様にせず、路面から一段高くしててシンボルとなる樹木を1、2本植え、駐輪対策として島状部分の外周に沿って丸い椅子状の石を並べるくらいで恰好がつくと思います。



[こんな感じで]


浦和駅周辺は、鉄道の高架化工事が行われ高架下には駐輪場が造られたので、駅のまわりで収容できる自転車数は増えているはずです。
それでも、空いてるところを見つけて駐輪する人が絶えません。
物理的に自転車が入れないようにするよりも、多くの人が行き交うようにすることで少しは駐輪が減るかもしれません。
さいたま市の斬新な発想に期待しています。



■おまけ・・・・・


[酒蔵 力本店]

Jリーグ浦和レッズのファンが多いことで有名な居酒屋です。
Jリーグとともに商売は繁盛し支店もあちこちにあります。
浦和レッズが優勝でもしようものなら周辺はレッズファンで赤一色に埋め尽くされてしまうので、他チームのファンは要注意です。





<参考資料>