chapter-131 2019年台風19号

[2020.06]

■2019年 台風第19号・・・・・


2019年10月に上陸した台風19号は各地に大雨を降らせ激甚な災害をもたらしました。
県神奈川県箱根町では総雨量1000㎜を越え、埼玉県内でも県西部地域では24時間で600㎜を越える記録的な大雨が降りました。
県の東部地域でも200㎜~400㎜の雨を観測しており、県内全域に大雨を降らせた台風でした。

台風19号による被害は関東・東北を中心に広がり、河川の氾濫などによる浸水範囲は2018年の「西日本豪雨」を超えたほか、土砂災害も1つの台風によるものとしては最も多くなるなど、記録的な豪雨災害となりました。
19号による災害の規模が全国的に大きかったので、気象庁は「令和元年東日本台風」と名前を付けました。
1977年の「沖永良部台風」以来、43年ぶりのことです。
この台風により県内でも多くの河川が氾濫し、都幾川や越辺川など7箇所で堤防が決壊したこともあり、被害が拡大しました。
   決壊箇所 都幾川:東松山市内 4箇所、 
        越辺川:東松山市内 1箇所、川越市内 1箇所  
        新江川:東松山市内 1箇所


応急復旧
[都幾川の応急復旧:荒川上流河川事務所HPより]


[人的・物的被害:2019.11.20現在]


被災した地域は、降雨量や地形が異なるので単純に比較することはできませんが、全国の被害に占める埼玉県の割合を見ると、埼玉県の被害の特徴は床上浸水・床下浸水が多いようです。
埼玉県は、床上浸水・床下浸水の割合に比べ全壊・半壊・一部損壊の割合が低いので、家屋が濁流に押し流されるというよりも濁水が上昇してくる状況だったとことが分かります。
低平地の水がはけにくい地域に多くの人が住んでいるという内陸県埼玉の様相が伺えます。


都幾川
[都幾川(2019年):氾濫した水が引いた後のゴミ]


■堤防の決壊・・・・・


新幹線が水没
[北陸新幹線:千曲川の決壊により車両基地が浸水]国土地理院ホームページ
 https://saigai.gsi.go.jp/1/index_sln.html?
R1_10typhoon19/1013chikumagawa/photo_sln /qv/Img51440.jpg&217.177deg


台風19号の1ヶ月前に上陸した15号は、千葉県を中心に強風によって家屋の損壊を招き、電柱を倒壊させ長期間にわたる停電とそれに伴うライフラインの停止によって、多くの方が不自由な生活を強いられました。
台風19号は強風よりも豪雨による堤防の決壊が全国各地で目立ちました。
その中でも、千曲川の堤防が決壊して北陸新幹線が水没している映像はショッキングでした。
日本の鉄道技術の粋を集めた新幹線が、土の堤防が壊れるという原始的な災害により、車両の屋根を残すのみで濁水の中に並んでいるのです。


都幾川決壊
[都幾川の決壊:2019 10 13 - 10:21:28]
国土地理院ホームページ
https://saigai.gsi.go.jp/1/R1_10typhoon19 /1013saitama/naname/qv/GSI_5650.JPG


越水(堤防がある川からの氾濫)・溢水(堤防がない川からの氾濫)による浸水であれば、河川が流せない水量だけがあふれ出ますが、堤防の決壊に至ると河川が流すべき水量も流れ込んでくるので大きな被害を生じさせます。
都幾川や越辺川の堤防が決壊した東松山市は、家屋の2階にまで洪水が押し寄せました。
一般的な2階建て住宅では垂直避難さえ危険なところまで濁水が上がってきたのです。


倒木
[都幾川(2019年):決壊の濁流により流された樹木]


堤防が高くなればなるほど決壊した際に流れ出る水量は多くなり、流れ出る水の勢いも強くなります。
堤防は土で造られているので水に対して決して強くありませんが、堤防をコンクリートやブロック積みで造るとそのための費用は想像を絶する額になってしまいます。
都市部のように地価が高いところでは、土地を買収して幅の広い土の堤防を造るのが困難なので、コンクリートの堤防が造られることもありますが、全体から見れば極わずかです。


■高くなる堤防・・・・・


水は高いところから低いところに流れるので、低いところに人が住んだり田畑を作らなければ堤防は必要ありません。
稲作には水が欠かせないので川の近くに住まなければなりませんが、昔の人は高台や平地でも自然堤防のような微高地に居住していました。
徳川家康が江戸に入ってから「利根川の東遷」や「荒川の西遷」などの河川改修が行われましたが、当時の堤防は現在に比べて低かったので、決壊しても流れ出す水の勢いと水量は近年の堤防決壊に比べれば少なかったはずです。


履歴図
[利根川右岸139km付近の築堤履歴図]


また、大雨が降ると流れてくる洪水を川だけでは処理できないので、霞堤を使って遊水機能を持たせた治水が行われていました。
埼玉県内にも霞堤があり、霞堤から流れ出る洪水を受け止めていた堤防が残っています。
その中でも形状がきれいに残っているのが行田市から熊谷市にかけて残っている中条堤で、利根川に合流する福川右岸の自然堤防を活用して築かれた約8kmの堤防です。
利根川の水位がある程度の高さになると、利根川の堤防の低くなっているところ(霞堤)からあふれ出る水を受け止め貯めていたのが中条堤です。
あふれ出た水がたまるところは普段は水田として使われていますが、洪水になると遊水地として機能します。
中条堤で守られる下流側と遊水地となり被害を受ける上流側で利害が対立し紛争が絶えず、1909(M43)年の洪水を機に霞堤は連続堤に改修されました。


中条提
[中条堤(2020年):左は福川の右岸堤防 右が中条堤]


昔の川は船を使って物資・人の輸送にも使われていたので、流れを穏やかにし船が通れる水深を確保することも必要でした。
明治に入っても、河川工事は舟運のため航路を確保する工事が主体でしたが、1895(M29)年に河川法が制定され氾濫を防ぐための河川改修が進められるようになります。
大洪水が発生するたびに河川計画は改訂され、「貯める」より「流す」ことに主眼を置いた改修が中心になり、河川が負担する流量が増えていきました。
群馬県八斗島町(国道462号坂東大橋付近)の計画流量は、4倍以上に増えています。
霞堤は新たに造られることはなくなり、水を貯める施設として調節池やダムが造られていますが、土地の買収や補償にかかる費用は莫大で完成まで長い年月を要しています。



[利根川八斗島の計画高水流量]


利根川では台風19号により水位が上昇し、2019年10月13日1時45分に「利根川左岸渡良瀬川合流点付近(埼玉県加須市北川辺地先など)で氾濫のおそれの情報【第一報】」が出されました。
発表された内容は、合流点付近では13日3時以降に越水し堤防が決壊するおそれもある、という警戒レベル5相当の発表がされたのです。
これを受け加須市は避難指示を発令しましたが、避難する人の車で利根川に架かる埼玉大橋では深夜に大渋滞が発生しました。
駐車場が満車になったため、避難所は余裕があるにもかかわらず、避難者を収容できない状況でした。


埼玉大橋
[埼玉大橋(2009年):埼玉県側と加須市北川辺地区を結ぶ]


■いたちごっこ・・・・・


低いところに住む人口と資産が増えるにつれて、川の氾濫に対する安全性を高めるために堤防も高くなっていきます。
安全性が高まるとさらに住む人が多くなります。
堤防が高くなると流れる水量が増え、万一堤防が決壊したときに流出する水は勢いを強くし水量は増えるので、決壊時の浸水被害の規模は大きくなります。
いたちごっこが続いています。
これまでの「流す」に主眼をおいた治水に加え、「流さない」「貯める」工夫も今後取入れられるそうです。


山元町 防潮堤
[宮城県山元町の防潮堤(2013年) 高さ7.2m]


東日本大震災で津波に襲われた地域では、壊れた防潮堤の復旧が行われています。
防潮堤の高さは東日本大震災の津波ではなく、規模は小さいが発生頻度の高い津波に対応する高さで造られています。
宮城県沿岸の場合、2.4m~24.0mの津波に襲われましたが、復旧で造られる防潮堤は2.6m~14.7mに余裕高1mを加えた高さです。
これを上回る津波に対しては「住民の避難を軸に、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせて、ソフト・ハードのとりうる手段を尽くした総合的な津波対策の確立が必要である」としています。


浸水実績
[カスリーン台風の浸水実績(2016年):旧栗橋町]


人間の知見を上回る災害の発生に対して、堤防のようなハード対策だけでは限界があります。
これからも気候変動は想定され、川の堤防をどんなに高くしても、それを上回る大雨が降る虞は消えません。
堤防を高くするだけでなく、川が氾濫することがあり得ることを前提に、街づくりを変えていかなければならないことを教えてくれた台風19号です。


■おまけ・・・・・

天盛りうどん
[松の木(2019年)]

加須市の田んぼの中にあるうどん屋さんです。
コシの強い田舎風のうどんで腹持ちも最高。
てんぷら5品がつくいている天もりうどん(並)は、大人でも十分に満足のいくボリュームです。
てんぷらは揚げたてで、チェーン店のてんぷらとは一味違う、熱々をいただけます。
加須市内に数あるうどん屋の中でも、庶民的なうどん屋さんです。





<参考資料>