[ 鉄道駅がない町村 ]
埼玉県は東京に隣接していることもあり、鉄道網が発達してきました。
西武鉄道、東武鉄道、JR東日本、埼玉高速鉄道、つくばエクスプレスの路線が都心から放射状に延び、埼玉県民の通勤通学に使われています。
このほかに都心を中心にほぼ環状に走る路線に、JR武蔵野線、JR川越線、東武野田線、秩父鉄道などがあり、放射状の路線を結んでいます。
埼玉県内を走る鉄道は、24路線722.4kmの長さがあり、261駅もあります。
それでも鉄道駅のないのが、三芳町、川島町、吉見町、鳩山町、小鹿野町、東秩父村、松伏町の7町村あります。
このうち松伏町は埼玉県・千葉県・東京都・茨城県の一都三県の自治体でつくる「地下鉄8号線建設促進並びに誘致期成同盟会」に入り、誘致活動を行っています。
[ 平成28年4月20日 交通政策審議会答申 ]
東京8号線の延伸(押上~野田市)
地下鉄8号線は、平成28年4月20日の交通政策審議会答申で「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」の一つとして取り上げられている路線です。
東京メトロ有楽町線を延伸する構想(住吉~四ツ木間は地下鉄11号線と共用)で千葉県野田市までが答申されていますが、「事業主体を含めた事業計画について十分な検討」が必要とされています。
同盟会では越谷レイクタウンを通るルートに絞り込み、東埼玉道路との一体整備により事業採算性が確保ができるとの調査結果が出たそうですが、
今後もまちづくりや事業主体など検討事項は盛りだくさんのようです。
[ 東埼玉道路横断図 ]
同盟会の検討で『
一体整備』の相手方とされた東埼玉道路は国道4号のバイパスで、埼玉県八潮市(外環道)を起点に埼玉県春日部市(国道16号)までの延長約17.6kmの道路です。
自動車専用部と一般部が併設される構造で、一般部は2025(R7)年6月に松伏町田島の県道越谷野田線バイパスまでが開通しています。
また、一般部の工事と並行して自動車専用部の工事も八潮市側から行われています。
鉄道駅の設置を切望している松伏町ですが、駅よりも先に高速道路のインターチェンジができそうです。
[ 東埼玉道路(2025年):松伏町内 ]
東埼玉道路と県道越谷野田線バイパスのインターチェンジの近くに、「ゆめみ野」と名付けられた住宅地があります。
松伏町が施行した外前野特定土地区画整理事業83.9ヘクタールと当時の住宅・都市整備公団による一般開発事業9.0ヘクタールを合わせた約93ヘクタールの戸建て住宅地です。
土地区画整理事業は1987(S62)年~1995(H7)年にかけて行われ、公団開発は1987(S62)年に分譲・入居が始まりました。
分譲・入居はバブル景気が始まった頃で、松伏町の住宅地の地価公示平均は92,900円/㎡でしたが、バブル景気末期の1991(H3)年は188,000円/㎡まで高騰しました。
しかし2025(R7)年は61,000円/㎡なので最高値の1/3にまで下落しています。
[ ゆめみ野(2025年)]
松伏町に鉄道駅はないので、都内へ通うためには茨城急行バスに乗り、東武伊勢崎線北越谷駅から電車を使うのが主流でした。
埼玉でも千葉でもない茨城のバスが松伏町の主要な公共交通なのです。
『土地は値下がりしない』という神話が全国民に信じられていたバブル崩壊前の時代でなければ、ゆめみ野地区の開発は難しかったかもしれません。
ゆめみ野地区の開発は地価が高騰を続ける中で行われたため、住宅地としては水準の高い基盤が整えられています。
開発時の良好な住環境を保全するために定められている地区計画では、
住宅街区の敷地面積の最低限度は150㎡、道路から建築物の壁面までの距離は1.0mまたは1.5m以上、道路に面する側は生垣か透視可能なフェンスとされています。
[ ゆめみ野(2025年)]
住宅街区内の道路は、通過交通が入り込まないように幹線道路への接続箇所を限定し、歩行者専用の緑道も設けられています。
また車両を蛇行させ速度が上がらないようにするため、路側には左右交互に植栽が設けられ緑の確保にも寄与しています。
道路が交差する部分は石畳風の造りで、体感的にも視覚的にも注意を促すようになっています。
低平地ということもあり治水対策の一環として調整池を兼ねた広い公園もあり、樹木は大きく成長し水辺と大きな緑が水田が広がる地域で目立つ存在です。
ゆめみ野地区は高級住宅地ではありませんが、戸建て住宅地としては平均を上回る基盤が整えられています。
[ ゆめみ野(2025年):地区内にある松伏総合公園 ]
ゆめみ野ちくは入居開開始からすでに40年近く経過しているので、30~40歳台で入居しても現在は70~80際台です。
住宅地として良好な環境が保たれているゆめみ野地区ですが、建替えが進む区画や中古住宅として不動産屋の幟が立っている家も見られます。
子世帯でなくとも次の居住者がいれば、街が寂れることもなく住宅地として存続できますが、バブル期に比べ大きく地価は下落してるうえ、駅に近いマンションの人気も高く、住宅の選択肢は増えています。
鉄道駅から遠いゆめみ野地区は、これからの生存競争は厳しいものがあるかもしれません。
[ 売出し中の中古住宅で休む猫(2025年)]
[ 隣にできた物流施設(2025年)]
2025年6月に松伏町まで開通した東埼玉道路に交差する県道越谷野田線バイパスは、ゆめみ野地区の北側を東西に通る4車線の道路です。
松伏町の西側を流れる大落古利根川と東側を流れる中川に架かる橋が未完成のため、2025年現在交通量は4車線道路の必要性がまったく感じられない状況です。
しかし完成した暁には、さいたま市から越谷市を経て千葉県野田市に至る幹線道路となり、東埼玉道路のインターチェンジもあるため交通量の増大な明らかです。
自動車交通の利便性が格段に向上することを見越して、すでに工業団地や産業団地が造られ巨大な物流施設がゆめみ野地区の隣にも誕生しました。
交通量の増大は、ゆめみ野地区の住宅地としての環境にも大きな影響を及ぼすはずです。
[ 県道越谷野田線バイパス(2025年)]
ゆめみ野地区の開発が目論まれていた昭和の終わり、東京8号線(地下鉄8号線)延伸と東埼玉道路(国道4号バイパス)の実現性を比べると、すでに都市計画決定に向けて進んでいた東埼玉道路の方が実現性は高い状況でした。
それでも、ゆめみ野地区が住宅地として開発されたのは、当時は住宅地は確実な投資であると信じられ、地価高騰の波に乗りバブル景気を突き進む時代であり、東埼玉道路は交通アクセスの改善により住宅地としての価値を高める材料だと考えられたのでしょう。
昨今はネット・通信販売の増大やそれに伴うトラック輸送や物流施設の需要が高まり、交通利便性の良いところには巨大な物流施設が林立しています。
東埼玉道路に対する認識も大きく変化し、大規模な物流センターや大規模商業施設、食品製造などの産業団地の開発を支援し、地域経済の活性化に資することが期待されています。
30年先の社会情勢や生活スタイルが見えていれば、ゆめみ野地区の開発は住宅地とは別の方向だったかもしれません。
東埼玉道路や県道越谷野田線バイパスのこれからの整備によって、ゆめみ野地区はどのように変わっていくのでしょうか。住宅地として生き残ることができるのでしょうか。
[ ゆめみ野の緑道(2025年)]
<参考資料>