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事例11 リーダーになるということ
−伝えること・受け取ること−

“ローズマリー”
【場面】Ma(看護師)/H(介護職員)
看護研究のリーダーとしてチームを取りまとめる役割を担ったが、先輩がなかなか協力してくれない。どうすればいいのか?
【対話の内容】
相談者のMaさんは卒後3年県立病院に勤務しており、S病院に異動して2年目である。S病院の看護提供方式は固定チームナーシングである。外来でも受け持ち制への試みが始まっているが、課題が多く難しい。外来に配置され改めて新人となったが、ひとりの患者を受け持ってやりがいを実感した。2年目を迎えて看護研究チームのリーダーに指名された。そこで、外来に受け持ち制を定着させてチームでやりがいのある看護をしたいと考えた。まず、彼女が受け持ちの患者を決めて、ケアプランを立て、協力をチームメンバーに依頼した。その患者は褥瘡の治療に通院しており、来院日に創傷処置が必要だったので、チームメンバーに処置手順を説明し、見やすい場所に貼付する等、積極的に行動した。休日には包交処置が看護処置となるため、手順の徹底が必要だった。ところが、その手順を先輩がなかなか守ってくれない。注意すると、聴いていなかった、見ていなかった、知らなかった等と言い返される。私は「これだけしているのに、先輩は私の言うことに従う気がない。私の言い方も悪いのかもしれないけど、全然協力しようとしない」と友人にぼやく毎日でやる気をなくしている。
先輩は、褥瘡の最近の治療法はこれまでの方法と根本的に違うし、新しいことを学ばないといけないのに、これまでもちゃんとしてきたと言いたがっているようだ。
先輩は仕事ができる人で、去年はいろいろ指導してもらったのだが、言い方が強く、そのたびに萎縮してしまっていた。こんな先輩に指示するなんて、私にはできないし、研究リーダー自体無理なのではという。
聴き手のHさんは痴呆の人たちのグループホームで働く介護職員。医療のこと、研究のことには馴染んでいないようで、この場で話される人間関係の難しさに捕らわれてしまった。一生懸命の若いMaさんの姿は好もしく、壁になっている先輩の姿が腹立たしく写る。Maさんに同情してしまったため解決にはならず、ますます対人関係の難しさが強調され、沈黙してしまった。
【学び】
カウンセリングはアイデンティティの達成に援助していく。援助では、まず「何を気にしているのか?」そして「どうなりたいのだろうか?」というキーワードで彼女の成長に関心を集中する(=積極的関心)。ここで彼女が気にしているのは「苦手な先輩との対人関係」だ。一方で「研究チームリーダーの役割をやり仰せたい」という強い思いであり、彼女の成長への力動は定まっている。その役割をやめたいと言っているわけではなく、様々に語る葛藤の中で彼女らしい答を手に入れようとしている。聴き手としたら楽しみな時間につきあうことになる。
彼女の言葉に戻ってみよう。彼女は就職して3年、S病院の外来勤務が2年、看護研究のチームリーダーになった。この病院の看護提供方式は固定チームナーシングであり、多くの役割を設定し看護の責任を学ぶカリキュラムの一端として分け合っている。“人間は役割を得て、その役割にふさわしく育つ”というミードやターナー等(Mead,G.H.
Turner,R.H. 象徴的相互作用理論)の役割理論即ち役割形成理論(role-making)に根ざしている。
私(Ko)とMaさんの対話が以下のように始まった。
Ko「あなたはリーダーがやれるからリーダーになったのかな。この1年かけてリーダーの意味がわかるということだったんだよね。やれなくて当たり前だよね」
Ma「そうか。できなくて当たり前なんだ。できないからし始めたんです」
Ko「みんなを率いるリーダーと、助けてって協力を得ていくリーダーとタイプいろいろだよね。あなたらしいのはどっちだろう」
Ma「今私は育てて貰っています。相談して、協力して貰う立場ですよね。私はお願いするしかないのに、先輩に指示していたのかもしれない」
Ko「そうだね。さっきHさんに言い方が悪かったかもしれないと言っていたよね。今のあなたのリーダーはやれるからしてるんではなく、共に育つ、育ち合うという共育のシステムを体験してるんだよね。あなたがもらった役割は何で、元々何を手に入れようとしていたのだろう。看護研究チームのリーダーでしょう。研究のテーマははっきりしていて、共有できていたのかな?」
Ma「去年、私は新人で右往左往していたのに、一人の患者さんを受け持たせてもらって、とてもやりがいがあったんです。だから他の人たちにも同じ思いを味わって貰いたかったし、慌ただしい毎日の業務の中で患者さんにきちんと関心が払われる状況があったら、患者さんも安心できると思ったんです。それでまず私が受け持ち患者さんを決めて、その患者さんのケアプランに協力を得ようと思ったんです」
Ko「じゃ、今の言葉が研究のタイトルになるのかな。“外来における受け持ち看護師の役割とチーム活動のあり方−共育が生み出すケアとやりがいの探求−”というところかな?そして事例として選んだ方が褥瘡の治療を受けていらっしゃったわけね。この研究は褥瘡の治療ではなく、受け持ち看護師の自立とチーム形成の過程を明らかにすることなんだよね」
Ma「そうです。そうです。でも、そんなにはっきり研究テーマを言葉にできていませんでした」
Ko「褥瘡の手当が気になっていたんだね。伝えたとおりにしてくれないって」
Ma「みんながじゃないんです。先輩が難しいんです。今までもちゃんとしてきた。そん なやりかたは私は聴いていないって。今やっている治療法は以前のやり方とは根本的に違うのに」
Ko「そう。新しい治療法なの?根本的に違うっていうことだとこれまでの方法は間違ってたわけね。私にも教えて」
Ma「そうです。以前は逆のことをしてたんです。褥瘡のポケットにドレッシングといってガーゼを詰め込んでいたんですけど、それが逆にポケットを広げて、瘡を大きくしていくんで、新しいドレッシング材を使った方法に変わっているんです。全然違うことなんです」
Ko「そうか。以前のやりかたはすべて間違いなんだね」
Ma「そうなんですよ。それなのにわかってもらえないんです」
Ko「そうなのかな。私には以前の治療法も全然間違えていないように思えたのだけど。だって、ポケットができた褥瘡はドレナージをしないと浸出液が貯って細菌を瘡内に増やすことになるでしょう。だから、ドレナージして時にはそこにヨードホルムガーゼを使ったりしたわけでしょう。浸出液が貯るのを防いで通気性を維持し、併せて消毒効果で嫌気性菌の増殖を防ぐことが目的だったんだよね。その根拠がきちんと理解できないとドレナージがタンポナーゼになって瘡を押し広げ、酸素の供給ができず、嫌気性菌を増殖させることになるのよね。それに消毒剤によっては良性肉芽の生育まで阻害することになる。だから、そういう過ちを少なくするような治療材が工夫されて、処置の方法が変化したんだね。今までやってきたことが間違いではないけど、正しく容易にで きるように工夫されたんだね。新たな方法は過去の否定からではなく、根拠の確認と工夫なんだよね。先輩は間違ったことはしてなかったという自負があるのかもしれない。あなたの伝え方に自分が否定されたように感じたのかな。でも患者さんにも治療者にも楽な方法が工夫されたのだったら、学ばなければね」
Ma「私も根拠まで学んでなくて、目先の方法でだけ伝えていたように思います。先輩を苦手な人にして、先に気持ちで否定していたかも。だから、先輩は受け取れなかったんですね。先輩の気持ちはわかった気がするけど、ちゃんと言えるかなぁ」
Ko「勇気が持てるように役割があるんだね。固定チームでは勇気を出す訓練を役割でしてるんでしょう。自分育てを仕事にしてるんだよ。して欲しいことはちゃんと言葉にする。伝えていないのにしてくれないと相手を恨まない。それがお互いに期待目標を掛け合うという約束になってるんだね。期待はきちんと向き合って言葉にしていく。リーダーは集団にも意図を伝えるし、メンバーにも個別に向き合ってして欲しいことを伝えるんだよ。それが育て合いだものね。伝えたら相手は反応して当たり前。聴くのが相互の訓練だよ。師長さんはこの役割を渡すとき、あなたにどんなふうになって欲しいと伝えたのかな。周囲のメンバーにどんなふうにあなたを育てて欲しいと伝えたのだろうか?」
Ma「帰ったらちゃんと師長に聴いてみます。そして、先輩だけでなくチームのメンバー一人一人に私の思いを伝えます。そしてみんなにも私がどんなリーダーになれると思っているのか聴いてみます。ちゃんと話せるかどうかも訓練なんですね」
そこには外来師長も同席していた。帰ったら面接をそれぞれの立場でやろうと約束ができた。そして引き続いて褥瘡治療のあり方から、看護の専門性と責任について考える機会に発展した。さらに、固定チームナーシングの共育システム(現任教育)について確認し合った。
包交処置の手順はそれ自体医師の指示で、その治療法は病院独自の研究でも治験でもない。治験だったら患者へのインフォームドコンセントがより明確に求められるし、それが現在の医療の水準だったら手技徹底は医療者の義務である。Maへの協力義務ではなく、看護職としての職務専念の義務で、拒否はサボタージュだ。
看護師が治療方針に納得できないのなら、患者の利益を護る立場から主治医に治療方針の確認をすべきであり、受け持ち看護師が治療方針を指示として受けたのなら、手技を徹底することが責任となる。それは研究リーダーのレベルではなく、受け持ち看護師の責任で、チームが協働できないとすると師長の指導力を問うことになる。固定チームでは、適材をチームメンバーとして取り込んで、看護能力を拡大することも受け持ち看護師とチームリーダーの役割に含んでいる。人材評価と活用・調整がリーダーの役割になるし、メンバーはリーダーが役割を遂行することを支援するフォロアーとして存在する。指示の履行がきちんとできないのは、対人関係の問題ではなく、専門業務の義務違反で、患者さんへの責任を果たしていないことだ。責任の範囲を明らかにすることが大事なことと言えよう。
チーム形成は仲良しという馴れ合いの仲間づくりではなく、必要に応じて厳しく対峙して期待を掛け合い、成長を信じ合う同僚が共育の土壌を創っていくことを指す。私はこのS病院で看護部長をし、固定チームナーシングの共育プログラムを創案し、チーム形成のキーワードには「協働・相互啓発・相互扶助」を手渡してきた。新人も2年目も、3年目も、年数に応じて役割があり、相互に責任を学び合い、折々に達成を感動にして共有していく。
固定チームのリーダーは受け持ち看護師の自立を支援するために固定チームを運営し、チームの看護業務を評価し、責任を毎日の業務の中で学んでいく。これは看護師長の管理責任を一部委譲されて学んでいるのだ。このチーム運営は業務に責任があって、組織の債務責任を担っている。看護研究チームのリーダーはその日常の現実的な管理責任からひとつクッションを置いて、能力開発という視点でチーム運営をしながら、次の段階の管理モデルを学習するカリキュラムである。業務の成果と責任を刻々問うわけではなくて、1年かけてどれだけお互いが育ちあえたかを確認する共育関係の体験である。そこでは、テーマを持つし、役割を得るし、チームを得て、役割が演じやすい環境を保証されている。彼女の役割はテーマを明確にして協力を依頼することだった。
彼女はこの1年間に看護の探求という目的をもって、専門職集団を率いるリーダーシップを学ぶが、実践的な管理責任からはワンクッション距離を置き保護下で訓練していることを理解した。さらに、来年度は固定チームリーダーとしての訓練が共育プログラムに準備されていることも認識した。その時は実際場面で課題解決に直面し、意志決定を迫られ責任を担う実践的な管理を学ぶことになる。最初に相談者の席についたときの彼女の愚痴や挫折の表情から、すっきりと解き放たれて、活き活きと明日の自己へ期待を蘇らせていた。その場には、彼女の変化に感動した友人が同席していた。「私は来年研究チームのリーダーになる予定です。今日はその意味を先に学習できて良かった。楽しみです」と。その晴れやかな表情と言葉が共育の実態を伝えていた。
平成16年8月島原例会
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