いかなる声も遠く、いかなる思いも消える。

あらぶる神を鎮める和魂。

太陽の光を現す主神、アマテラスが降臨し、異次元の校舎が沈黙した。

一対の双子の悪魔は、てなづけた者どもで対抗する、かつての瞳子の仲間、邪悪なる破壊神、 弾丸を打ち出すカドゥケス、銀の車輪を意味する女神。

神々の全てが殺意をもって瞳子に殺到し、アマテラスの光輝が校舎を照らす、恐るべき速度で接近したスサノオの一撃が床を砕いた。

「!?」

瞳子がいない。

一瞬の光の幻惑、カドゥケスの銃声、外れる、アリアンロッドが闇雲に剣を振るい、そして、久我姉妹の背後に、瞳子が居た。

「まず、一撃」

瞳子が全力で拳を振りぬいた。

 

 

 

  『12月16日 21:30』

 

 

殴られた久我姉妹の片方が廊下を吹き飛ぶ、瞳子はしかし殴ったその手に、手ごたえを感じなかった。

悪魔の姉妹の高笑い。

「貴方では、私たちを倒せませんわ」

「確かに、今のままでは、無理かも知れませんわね。でも、手品の種は割れましたわ」

……アナライズ。

アマテラスには、解析の能力がある、志摩子と同じだ。真実を照らす瞳子のペルソナが、久我姉妹の秘密を看破する。

久我姉妹の持つ『悪魔の秘密』

久我メノウ・物理無効

久我コハク・魔術無効

万能攻撃を持たない瞳子達にとって、厄介なのは当然の相手だった。

「見破ったからといって、私たちに勝てるかしら?」

「私たちの区別、つくかしら?」

アナライズは、メノウとコハクを峻別する、しかし。

スサノオ、アリアンロッド、メルクリウスの波状攻撃、瞳子の回避、大きく下がる瞳子に久我姉妹が襲い掛かる、区別のつかない二人のペルソナ、触手の一撃、瞳子が転がる、反撃、しかし、魔術と物理、どちらで攻撃すべきなのか?

「ちっ」

めまぐるしく状況の変わる戦闘の中で、どちらがメノウかコハクか判断して攻撃するのは難しい、アナライズを常にやり続けても、分析とその結果の表示にはラグがある、読み取る時間もかかる、無理だ。

アマテラスの放つ炎が二人をまるごと焼き払おうとする、だが、コハクがメノウを庇い、その魔術の全てを無効化する、瞳子はすかさず前へ出て、コハクを攻撃しようとする、スサノオの一撃、回避した瞳子にメルクリウスの銃弾が命中した、出血、肩にダメージ。

「友達に攻撃される気分はどうかしら?」

三人に囲まれている、ここを突破しようと誓った仲間、アリアンロッドが瞳子の両手を押さえた。

メルクリウスが瞳子の足を抑える、瞳子は全く身動きが出来なかった。

「やりなさい」

可南子が、暗い目で瞳子を見下ろしている。

手足を押さえる菜々や公弥の目にも生気はない。

スサノオがその豪腕を振り上げる。

「可南子さん! 目を覚ましなさい!」

一瞬、可南子が揺れる。

「幻や、洗脳に負けてしまうような、その程度のひ弱な精神で粋がってたんですのね、お笑い草ですわ。見下げ果てました」

スサノオの動きが止まる。

「何をしている、早くやれ!」

一瞬の隙、瞳子が叫ぶ。

「ペルソナ!!」

アマテラスの放つ癒しの光、久我姉妹の触手はまだ全員に刺さっている。状況がどちらに転ぶかは、久我にも、瞳子にも分からなかった。

一本の触手が瞳子へと恐ろしい速さで迫る、瞳子を確実に殺す、シンプルな悪意を持って。

そしてそれを、可南子が踏み潰した。

「何!?」

「触手は、まだ刺さっている筈!」

だがその、全員に刺さっていた触手をアリアンロッドの剣が切り裂く。

いつの間にか全員が、瞳子を守るように立っていた。

「粋がってんのは瞳子でしょ。逃がしたのに戻ってきて」

スサノオのペルソナを背負って、可南子は瞳子の近くで、誰よりも近くで、その手を握っていた。

「瞳子さま、やりましょう、まだ入学してもいないのに、高等部の校舎も見飽きてきました。損した気分です」

有馬菜々が、騎士のようにペルソナに剣を構えさせる。

「指示出してよ、リーダー」

と、公弥さんが言った。瞳子に何かを譲るように。

瞳子はただ頷いた。

「敵は久我姉妹、悪魔に取り付かれた者を打ち破り、この校舎を脱出します」

全員が叫び声で答えた。

 

 

4人パーティー対二人のボス敵。

RPGではよく見るシーンだ。瞳子が分析・回復役、あとは殆ど戦士系の極端なパーティー編成、しかし、やるしかない。

「メノウが物理を、コハクが魔術を無効化しますわ」

「瞳子、区別つくの?」

「つくわけないでしょうに」

「どうすんのよ」

「それを考えるのが」

言い終わる前に、怒涛の勢いで触手が迫ってきた、そしてヤケクソのように火球を放ってくる、瞳子はアナライズ能力で、全員のHPとSPを確認する、どこまでも長期戦が出来る訳ではない。

「少しのダメージなら回復しますわ、でも」

「SPには限界がある、でしょ? 分かってる」

「問題は、こっちの攻撃を効率よく通すには、コハクとメノウの区別をつける必要があること、ですね」

「そんなの、分かる訳ないじゃん」

四人になっても、危機は変わらない、触手を破壊し、火球を凌いでも、こっちが削られるばかりだ。

瞳子はしかし、なりふり構わない敵の攻撃に、敵も焦っている事を感じる。采配は可能だ。

「二人同時に物理攻撃をお願いしますわ、どっちかには通用する。それで片方を潰せれば、見分ける必要はありませんわ」

「……いや、瞳子、私は片方を潰したけど、倒せなかった。恐らく相手の秘密は、二人同時に倒さなければ倒せない、という事だと思う。あと、物理反射の手段を持ってる筈だ。私は自分のペルソナのパワーで倒された」

「見分けがつかないものを見分ける方法……」

「鈴でもつける?」

「それでいきますわ」

可南子が飛ぶ、メルクリウスが二人を均等に銃撃し、アリアンロッドが距離を詰める、銃弾を食らっても平気なのがメノウだ。スサノオの一撃、外れて校舎が揺れた、粉砕された床の上を菜々が疾走する、火球、菜々が跳躍して飛び越えた。

空中の菜々に殺到する触手、切り払う、メルクリウスの銃撃二射、命中、スサノオが立ち上がった。

「私たちが押されるなんて……」

「あってはならない・・・!」

空中で剣を振り上げる、目が合う、姉妹の見上げる憎しみの目、自由落下の勢いに載せて、全身全霊の一刀を振り下ろした、一刀両断、深々と切り裂かれたコハクが悲鳴を上げた。

「鈴はついた」

奈々が剣をコハクに向ける。傷つき、出血しているのがコハクだ。RPGで、両方同時に倒さなければいけない敵が出て、片方だけギリギリまでダメージを与えてダメージ調整したことはないだろうか? 瞳子はいま、そういう気分だった。

見るからに重傷なのが物理が通じるコハク、つけられた鈴。

メルクリウスが魔術をこめた銃撃、コハクがメノウを庇う、瞳子が動いた。

「意地でも、メノウへダメージを通す!」

「無駄だ!!」

メノウが、自らの胸を切り裂いた!

「バカな・・・」

迸る鮮血が校舎を赤く染め上げる、天井まで吹き出した血、それが雨のように瞳子達へ注ぐ。

「これで、区別はつけられない!!」

「何故、ここまでする、何の意味がある!」

アマテラスの分析能力、彼女達の感情の波が伝わってくる。

誰も、自分達の区別がつけられない。

自分が誰なのかわからない。

悪魔の能力が発現する。

メノウとコハクからペルソナが現れ、ペルソナが交換される。

「ペルソナチェンジ……!」

メノウとコハクの属性が逆になる。高速でメノウとコハクが動き、同時に二人が互いのペルソナを交換し続ける、どちらがどちらなのか、菜々は完全に見失う。

「く、区別が……」

悪魔の双子が笑う。

狂ったような高笑い。

「もう誰も、私たちを区別できない! みんな偽善者! みんな偽者! 真実を見抜けない人間は全て嘘つき! 世界に真実はない! 私たちは」

アマテラスのペルソナが、その荘厳なる光で双子を照らしている。劇場のスポットライトのように。

そして双子は言った。

 

「私たちは、誰からも愛されなかったよ」

 

瞳子が、前へ出た。

「どちらがどちらかは、『私が決める』」

アマテラスがその隠された神威を顕現する。

「ペルソナあああああああああああああああっっ!!」

太陽の光が全てを曝け出す、強烈な光、ペルソナロック、二人のペルソナチェンジをアマテラスの神威が打ち砕いた。

瞳子には、もう、どちらがどちらなのか分かっている。

何度もアナライズし、何度もその能力を見た。

どこまでも進化するアマテラスの力が、二人を完全に特定している。

「今から、お前が久我メノウだ」

そして、お別れだった。

アマテラスの炎がメノウを完全に焼き尽くし、同時に、スサノオの一撃がコハクの命を絶っていた。

だが、人間ではない双子は最後の力を振り絞り抱き合い、炎に包まれていく。

見る間にその炎が校舎に燃え移り、全てを燃やし尽くしていく。

「コハクさん! メノウさん!」

「瞳子、無理だ、あれは、人間じゃない」

「でも」

抱き合いながら燃えていく双子は、やがて溶け合い一つの黒い影となっていく、二人はもう、誰からも間違われることのない一つの存在となったのだ。

瞳子達はその場に背を向けて駆け出した。

「こっちで合ってますの!?」

「わかんない」

「いい加減ですね、可南子さま」

「そうよ! どうすんのよ!? 死んじゃうかもしれないのよ!」

火の手があちこちから上がる、双子の最後の呪いだ。ここを突破できなければ焼け死ぬしかない。

「靴箱!」

「あそこを曲がれば出られる!」

廊下の後ろからは、炎の渦が物凄い勢いで迫っている。ペルソナがどうとかいうレベルではない地獄の炎だ、捕まったら死ぬしかない。

「見えた!」

靴箱の向こうに出口がある。

四人は、そこから飛び出した。背後で校舎が爆散する。

「いつの間にか、間一髪だったね・・・」

四人で呆然と校舎を振り帰れば、轟々と燃える校舎が炎に包まれ灰になり、跡には何も残らなかった。

「なんか・・・やっちゃったって感じが・・・」

可南子は跡形もなく消滅した校舎跡を、名残惜しそうに見ている、

「というか……」

周囲は、霧に包まれて一歩先も見えない。

「ここ、どこですの?」

真っ白な世界、全てがホワイトアウトしている。

だがそこへ、ぼんやりとした影が現れる、それはみるみる大きくなると、やがて瞳子の背丈よりも遥かに巨大な姿となって、襲い掛かってきた。

「ちょ!? ちょ!? なにこれえええええ!?」

巨大な、グロテスクな紫色の巨人が、ぶよぶよと肉を振動させながら襲いかかってくる!

ペルソナにも、悪魔にも見えないそれを、突如、一筋の光が貫いた、同時にその体が燃え上がり、紫色の巨人が消滅する。あとには、光を放った一人の少年が居た。

「ふっ、ふっ、危ないところだったな」

ふっ、とか現実で言う奴を始めて見た。と瞳子は思った。しかもこいつ、二回言った。

少年は言った。

 

「俺の名は、Uー1、大地がもっと輝けと囁く男」

 

 

 

To Be Continued

 

 

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 あとがき