「あんまり暗い道だから、目が潰れたかと思ったよ」
そんな風に言う俺の姉・福沢祐巳15歳、いや、14歳だったかな?
とにかく何時の事か分からないけど、夜遅くなって俺は姉ちゃんと2人で夜道を帰ってた。
これが彼女とかならナイスフィーリングな状況だけど残念ながら相手は姉、問題なのは、姉なのに俺の心がグッドテイストな状況なところ。禁断のラブ、ソー・マイオンリーフィーリンラブ!参るぜ!
「街灯をつけるべきだよな」
「市の予算が足りないんじゃない?」
あなたの歩く道に一本の明りを、でも予算がなければ駄目。人生は厳しいぜ。
「とにかく早く帰りたいよ」
俺は寒かったからとりあえずそう言う、ちょっと震えてたかも知れない。だって寒いんだってばよぉ、氷属性の攻撃に俺は弱いんだ、ダメージ二倍、ブリザガ。
「あ、私も寒いんだよね」
さすが姉弟、同じ属性が弱点だ、氷属性の全体魔法がお勧めです。モンスター、福沢姉弟が現れた、どうしますか?答え:マハブフダイン
「寒いよな」
「だから……」
姉ちゃんは俺の手を取って、ポケットに入れた。
「ね?」
ファッキン!
いや違う、取り乱した、マーヴェラス!
俺は姉と手を繋いでエレクトさせちゃう(良い子は意味を調べないようにしようね)困ったオトコノコなので、こいつは全く困ったぜ!がははは!
「なんだよ祐巳、恥ずかしいな」
とか言いつつ、俺は手を離すつもりなど全くない、全く!欠片も!皆無なのだ!時よ止まれ!ザ・ワールド!真夏の祭典スペシャル。
「昔を思い出すよね。へへへ」
とか言って笑う福沢祐巳・15歳は超絶キュートだった。この萌え姉め!お前みたいな姉がいるから、はは、恥ずかしい話なんですが、勃起しちゃいましてね……って俺は、俺って奴はああああああ!
「まったく……」
とか困った振りをしながら(でも実際に困ってないのはまる分かりだ。俺の姉はバカだから見抜けないかも知れないが)、俺は本当に幼い頃から一緒だった姉に対する、なんやかや複雑な感情やら、思い出やら、つまりは家族愛に浸っていたって事だね!
この頃、手を繋いでいれば、無敵だと思えた。
永遠に、どこまでいっても、モンスター福沢姉弟は無敵だぜ、氷属性だって、手を繋いでいれば反射してみせる。
だからこの頃の俺達は、どこまでもいつまでも無敵だった。
『ほんとに死ぬかと思ったよ』
へい、なんだよ、雨じゃんか。
窓の外を見てそう思う俺はもう手は繋いでない。今日は学校があるのにくそったれ雨だ。
雨の日は雨休み、という独自の休日システムを確立した福沢祐麒独立国は、今日は学校をさぼることにしたのだ。
生徒会長?ファッキン、糞食らえ。成績?サノバビッチ!死にやがれ。
そういう訳で制服に着替えて居間に下りると、福沢父と福沢母が実にタヌキっぽい顔で朝食を食べている。
辛気臭い面だぜ、華がない、とか言って非難するとそれは自分に帰ってくる。くそ!100%反射属性か。
「おはよう!おはよう!おはようさん!朝日がさんさん!おはようさん!今日は雨だけどね!」
とか狂ったような明るさで挨拶すると、のろのろと俺のゴリョウシンはこっちを向いた。俺はなおも叫ぶ。
「いやー、今日の朝食はなにかな!パンとベーコンエッグかよ!欧米か!」
一人で空回りし続ける俺のテンション・限界を超えて伝説になれ!なってくれえええええ!
そんな俺の空回りは全く気にせず、福沢みき・○○歳(自主規制)がようやく「おはよう」と返した。
まだ父は挨拶しないので、俺は皿からトーストを持ち上げ、席には座らずオトウサマに言う。
「おいおい、一日は挨拶から始まるんだぜファックヘッド、朗らかにおはようって言おうぜ、おはよー、おはよー、おーはよー」
言いながら俺はパンを加えて家を出た。きっと曲がり角では転校したての美少女にぶつかるのだろう。残念ながら、花寺は男子校なんだけどな!
そんな訳で俺はゲーセンへ行く。学校さぼってゲーセン通い、見事なワンパク・キッズの仲間入りだ。そのうち町のカラーギャングの仲間になって、不妊治療に我慢ならなかった記者のお姉さんとエロい事とか出来るようになるのかしら。
俺はゲーセンでは、かつてダンスゲームだったものの残骸をプレイする事に決めている。基本的にはそれしかしない。なんで、ダンスゲーム、ではなく、ダンスゲーム『だったもの』なのかといえば、それが筐体に移植されているからだ。
本来、専用の筐体で、足で床を踏んでステップを踏むはずのそれは、他の格闘ゲームやシューティングゲームと同じ筐体に移植され、ボタンを押すことでプレーするゲームになっていた。これって凄いぜ。
ひたすら上から流れてくる棒を撃ち落すシューティングゲームと化したそれは、本来の意義を失い、しかし人前で踊るなんて死んでもしたくないシャイボーイな俺には最高にクールなゲームになった。
イかしたダンスミュージックに合わせてボタンを押し捲れ!
ダダンダッダ・ダダンダッダ・ダダンダッダ・イエイ!
今や殆どの曲をノーミスクリアできるようになった俺を見よ!しかも1プレイ50円!
アイヤイアイヤ・アイヤアイヤ・アイヤアイヤ・ニコサマファ!ホウ!
そして全ての曲をノーミスでクリアすると、超絶的な速さでバーが流れてくる隠しステージに入り、しかもバーを一つでも逃すと、曲が終わってしまうくそったれステージに入るのだ。俺はこれを一度もクリアしたことがない。
へへっ、今日こそやってやる。
今日は調子が良かった、全てのバーを撃ち落せそうに思える。もはやゲームとしては単純の極みと化したそれは、ビートマニアが難しすぎる方向へ進化した今、足でステップを踏む筈だった難易度のおかげで、ボタンで押すのに丁度いい感じだ。
いける……今日はいける!
本気でそう思った。
この曲を、今日こそ、最後まで……
「あ、祐麒君!?」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!ファック!」
俺は余りの怒りに席を立った。無残にも画面にはエンディングが流れている(隠しステージは失敗してもゲームオーバーではなく、エンディングになる)。
「誰だよ!」
ファック!
と俺が噛み付かんばかりに吼えた相手は、島津由乃だった。
おっとっと、やばいやばい、ゲームぐらいで大人げなかった。
「あ、ごめん、なんか久しぶりじゃんね」
とか俺が態度を軟化させても、島津由乃はめちゃくちゃ固まっていた。ちょっと泣きそうになっている。リリアン生とは最も遠い場所であるゲーセン、犯罪的な音量、不良の巣窟的イメージ、いきなり叫んでファックとか言っちゃう俺、何もかもが最悪な状況だ。
「外へ出よう」
島津由乃がどうしてこんな吹き溜まりにいるのか分からないが、よく見たら私服だし、何がなんだか分からないが、とにかく俺は外へ出た。そうすると島津由乃もついてきたのでハッピーだった。終わりよければ全て良し。
「元気?」
島津由乃が最初に聞いてきた第一声がそれだった。
よく分からない。
残念ながら俺は島津由乃と恋人同士だったなんてことはないし、リリアン生にモテモテだった事実もない。どこか別の世界にはそんな事実もあるのかも知れないが、俺とは無関係な話だ。残念で仕方ないぜ!ハーレムルートはどこだ!
「元気も元気、チョー元気だぜ!元気があり余ってゲーセンでファックとか言っちゃうぐらいだ、でもリリアン生の島津さんが何で平日に私服なのかな?あれか?俺に会うためか?分かったデートしよう」
「祐麒君、変わったね」
「人は成長せずにはいられない生き物なんですよおhimeさま、マテリアライズされますよそりゃ。変わり続けるあなたの町の福沢祐麒です」
島津由乃は、こういう時どうしていいか分からないの、って感じの顔をした。笑えばいいんだよ綾波ぃぃぃぃ!笑ってくれないと俺は寒すぎる!大体、人生って笑わなければ全体的に寒すぎるよ!
笑え!もっと笑え!
「あはははははははははは!!」
「何で笑うの!?」
「人生って、笑わなければ寒すぎると思いませんか?」
「いきなりそんな事言われても……」
「それで、なんでこんな所にいるんですか島津由乃さん」
相変わらずの綾波的な、どうしていいか分からないの的表情の由乃さんだ。いや質問に答えてよ。
こうしてじっとしてるとほら、由乃さんってけっこう可愛くて。あはは……下品な話なんですが、勃起、しちゃいましてね……。
「エレクトしてきた」
「は?なに?エレ?」
「君は知らなくて良い事だよ島田君」
「島津です」
かなり島津由乃は呆れていた。
よし!もっと呆れろ!呆れきれ!俺は今から幾らでも下ネタを言ってお前を引かせてやる!男社会に慣れるがいいお嬢様どもが!
「ちょっと、色々……でもいいや、お大事に、祐麒君」
そう言って島津由乃は去って行った。
お大事に、ってなんだよ、お大事に、って。
まるで病気みたいじゃんか?ねえ?
頻繁に雨休みや、自主的休暇や、俺休みを適用するようになって、生徒会の面々が困惑していたのをふと思い出した。
「おい祐麒、何考えてンだよ」
と小林は言う。
「グラビアアイドルとヤッてるところを想像してた」
「中学生か!?」
そういえば、小林もかなり呆れていたかも知れない。
「なんだお前は、姉ちゃんとヤッてるところを想像していたら高校生なのか?」
小林もまた、何を言っていいか分からないの的表情をする。貴様なんかにヒロインの表情をする資格はねええええ!!
「謝れ!綾波に謝れええええええええええ!」
「なんでだよ!?」
最早意味不明だよ、って感じの小林と、やたら不安そうなアリスの表情を思い出す。
「ねえ……ユキチ」
と妙に甘えた声を出してくるこいつの扱いに困る。公式的設定においても、こいつは何だか女顔なのだ。それが花寺のジャスティス。でも俺にそんな趣味はないってこと、分かって欲しいんだよね。
「なんだアリス、俺のをしゃぶらせてくれ、って言っても駄目だぜ」
「ユキチ、下品になったよね」
「ファック、上品っていうのはあれか?パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない、って感じのやつか?何でか女性には大人気な感じだよね。世間知らずのお姫さま可愛いーって。俺もお上品に、お射精って、なんの事か分からないんです、ぽっ、とでも言ってればいいのか?ファック!」
アリスも呆れきっている。
小林が纏めるように言った。
「とにかく、もうこれ以上さぼるな、色んな奴らがカンカンなんだよ」
カンカン!今時カンカンって!刑務所名物カンカン踊り!
「全裸になって、両方の足の裏を交互に前へ突き出すやつか?」
「死ね、とにかく、これ以上絶対さぼるな」
小林の表情はとてつもなく真剣だった。
俺はだからこれ以上ないくらい真剣に答える。
「分かった」
そんな訳で、俺は今日も雨休みだ。
ゲーセンにはもはやいられないので、ビデオ屋か本屋か迷って、本屋でうろうろしてからビデオ屋に行った。当然のことさ、俺は両方を選ぶ!
そして俺はまっすぐにアダルトコーナーに行き、肌色とピンクの多いパッケージ達に囲まれた柏木優を見かけた。
「やあやあ、こんにちわ先輩!」
俺がそうやって声をかけると、些か柏木は狼狽したようだった。あの柏木が狼狽!やったぜ!
「ユキチか」
「先輩もこんなところに来るんですね!びっくりですよ!お金持ちな皆様は、地下に専属のメイドが居て毎晩おしゃぶりしてくれるのかと思っていました」
「ユキチ、最近、お前の良くない評判を聞くぞ」
「良くない評判ってのは何ですかね。実は俺がロリコンだったとか、殺人鬼だったとか、シスコンだったとかですかね!シスコンは最早否定せん!」
俺がそう言うと、柏木は微妙な表情をする。
「学校をよくさぼるらしいじゃないか。お前は生徒会長だろう。生徒の範となるべき……」
「ファック」
「何?」
「ファックって言ったんですよ糞ったれ先輩。範となるべき人間っていうのはあれですか?みんな柏木優みたいになりなさい、とか言う教育的に優れたありがたい考え方の事ですかね?くそったれなんですよ先輩。人間に、範なんてあんのかよ?」
「ユキチ、表へ出ろ」
「断わる」
そう言って俺は思い切り柏木を殴った。転んだ柏木が棚にぶつかり、ビデオが降り注ぐのを見て俺は逃げ出した。
ははっ!
爽快、だぜ!!!
「ひゃっはーーー!」
声に出して叫んだ。
最高に、ハイ、って奴だ!
俺は商店街をめちゃくちゃに駆け出した。血が熱い。俺は無謀で自由だ。俺は……天才、だぜ!!
だがそんな最高な気分を打ち壊す集団を見かけてしまう。
花寺生徒会の面々だった。
商店街を歩く、高田も、アリスも、小林も、日光月光先輩も、めざとく俺を見つけていた。
「ユキチ!」
叫ばれて俺は逃げようとする。
しかし、振り返ってそこに居たのは、柏木優だった。
もちろん、ボコボコに殴られた。
「どういうつもりなんだ、ユキチ」
くそったれ先輩はそうおっしゃる。
「学校をびしばしさぼってみたかった、というんじゃ駄目ですかね」
俺は切れた口内に滲む血を吐き出した。
「ユキチ…お前が落ち」「ファック」
あはは、すげーな俺、散々殴られて地面に座り込んでも、ファックとか言っちゃってるよ。
「おっとすいません、口が滑りました、ついつい、ファックって言っちゃうんですよね。あははファック」
あれだ。アニメに出てくる小動物の語尾みたいなものだファック。
ちょっと先進的じゃない?語尾がファックの小動物。
「次回のプリキュアは、語尾がファックの小動物ってどうですかねファック」
柏木が鼻白んだ。
「最近のユキチは、いつもこんな感じなのか?」
「ええ、躁病ですよ」
と小林が答えた。
「躁病!俺躁病なの?すげーかっこいい!憧れるね!早く黄色い救急車を読んだらどうだ?緊急入院・緊急手術、彼はいつでもどこでもエレクトするようです、これは切除しかないな。ファック!むしろそれはアリスにしてあげてください」
「うーん、切られるのはちょっと困るかな」
としゃがみこんで俺を覗き込むアリスは言った。
「とにかく学校には行け」
とか柏木先輩はおっしゃる。行け、だってよ!凄い命令口調だ!痺れたね!
「ユキチが来ないと寂しいよ」
とアリスがぽつりと言って、それが妙に真に迫って辺りに響いた。
しんみりとした空気が広がり、まるでみんな、それに同調しているみたいじゃないか。
おいおいおい、いい加減にしろよ、俺はしんみりするのは大嫌いなんだよ。
とか思っていたら、小林が言い出すのだ。
「頼むぜリーダー、お前が会長なんだよ、お前がいないと締まらないんだ。分かるだろ?」
とかなんとか。正気か?
「だよな、不在が際立つよな」
と高田までもが言う。
さっきまで俺をしばくのを手伝っていた日光月光先輩でさえ、2人揃って言うのである。
「「お前以外に会長を託せる人間はいない」」
とかね。
あはは、すごいねあんたら。
でもちょっと感動したよ。
やるじゃんか、友情。
だから俺は言う。
「前向きに、関係各所と相談して善処しますファック」
小林が俺の頭をはたいた。
「いいから来い」
「オールライト」
まったく。
しょうがないね、青春とか、男子高校生ってやつは。
これはたぶん、そういう話。
だからきっと、明日には俺は学校に行くのだろう。
たぶん、きっと。
柏木がぽつりと言った。
「いきなり僕をぶん殴った奴なんて、ユキチだけだよ」
変な褒め方だぜ。柏木先輩。
さて、さてさてさて。
物語は締めくくられたのか?
いや、まさか、そんな筈はない。
なぜなら俺は家に帰るから。
そこには葬式でもあったみたいな顔をした両親がいる。全く辛気臭くて叶わないぜ。
人生は明るくなきゃね、そして前向きでなきゃ駄目だ。いつでもハジケてて、はしゃいでて、それが人生だぜ!
「ただいまただいま、ただいま(放送禁止用語)、どうだいハズバント?元気でやってるか?」
「おかえり、祐麒」
暗い、陰鬱な視線。
口が開く。
そして、俺がいつもやるみたいな饒舌でさえぎる間もなく、するりと両親は言ってしまうのだ。
「祐麒、墓参りに行かないか?」
僕は。
「墓には行かない」
嫌だ嫌だ嫌だ聞きたくない。
なんだそのファック糞ったれ、ファックそったれな言い草は。
墓だと?
ファック!死んじまえ!
「なあ、祐麒、いい加減に」
あああああああああああ!うるさいうるさい!
お前達が言いたいことなんて全部丸分かりなんだよ。
そんな辛気臭い話はくそったれなんだ!
「間違ってる、間違ってるぜハズバンド、いいか、人生に墓なんて場所はない。何故なら、自分が墓に入る時、墓のことなんてもう意識できないからだ。この世界に墓なんてないんだよ。死なんてないんだよ!」
「祐麒……」
両親が呆然と、悲しそうにしている。その悼む心が、余計に、余計に、俺を、なんだっけ?
「死人なんていないんだよ。人生は美しく、明るく、そこにはどんな形であれ沈鬱な陰りなんて存在しちゃいけないんだ!俺達はいつだって楽しさや嬉しさの中に居て、そこに死はなく、人生はきっとどこまでも美しく輝くんだよ。誰も、『誰も死んだりなんかしていない』。分かるか?誰もこの世界では死なないんだよ!」
言いながら、俺はテーブルを思い切り蹴った。
大きな音が鳴る。
くそ、どうしてもう夜なのに、祐巳はこの騒ぎを聞きつけて自分の部屋から降りてこないんだ?
「俺は今だって、いつだってハッピーだぜ!不幸なんて陰も形もない!こんなに明るく、テンション高く、元気に生きている!辛気臭いのはあんたらだ!それで一体、今の俺にどんな文句があるっていうんですかねあんたらは!」
そうだ!
俺は永遠にハッピーだ!
誰にも穢されない幸福な人生なんだよ!
そうだろ!そうだろ祐巳!
「祐麒、祐巳は……」
「黙れよ!!」
ガラスが砕け散る音が聞こえた。おっと、思わず自分で割っていた。割って、割って?
手が切れて血が滲んで、血まみれの自分みたいな顔とか。なんだかよく分からない記憶。
「この世界には不幸なことはなにもない。暴行も、強姦も、陵辱も存在しない世界なんだよ!だってそうだろ!俺は、こんなに明るくて、こんなに、こんなに」
ファック!ファック!ファック!
「いいから、墓に」
「死にやがれ!」
俺は父親を突き飛ばして表へ飛び出した。
外は夜で真っ暗だ。
俺は一心に駆け出す。滅茶苦茶に駆け出す。
吐く息が白い。
道路に見える血の幻影。
そして俺は街灯からどんどん離れ、かつて祐巳が言っていた闇の中へと突き進んでいくのだ。
何も見えない本物の闇へ。
そこで俺はかつて祐巳の言っていた言葉を呟く。
「あんまり暗い道だから、目が潰れたかと思ったよ」