私達は何のために生きているのだろうか。
どうせ死んでしまうというのに。
人間は価値を妄想し、
妄想を追い求めて生きる。
炎に照らされた闘技場に存在する二つの価値。
福沢祐巳と、桂。
桂は言う。
「私とあなたは、しょせん、交わらない運命だった」
祐巳は言う。
「それが、答えなの?」
「私はどこまでも上昇する。這うのをやめ、飛ぶために。それには祐巳さん、どうしてもあなたを倒さなければならない」
桂の答え。
人間の幸福や、善や、倫理は、果して利益に劣るだろうか?
11月10日(金)
炎が揺れている、その茜色の光が生み出す影。
ずっと一緒だった二人の少女。
今はここに、ただ殺しあうためだけに居る。
少女達の影が同時に動いた。
影の手と頭が重なる、こめかみに突きつけた銃、いつかの再現。
「「ペルソナ!!」」
桂の体から煙が立ち昇って形を成すように、それが現れる。桂の頭上に浮かぶ金色の髑髏、四本の腕、そしてその背中に乗る赤い悪魔、魔王バエルの顕現。
対する祐巳のペルソナ、その姿が完全に現れるよりも早く、赤い悪魔が手をかざす/ザンダインの照射、巻き起こる凄まじい衝撃、それはそのまま祐巳を捉えた/反射、その凄まじい衝撃はそのまま桂へ。
「何!?」
直撃/立ち現れる祐巳のペルソナ、南方の部族のつける派手な仮面がそのまま顔になったような、巨大な顔、二重につけられた首飾り、槍を持って踊りだしそうな、赤を基調としたその姿、鬼女ランダのペルソナ。
「こっちだって対策ぐらいするよ」
魔術師ランダ/打撃反射/火炎耐性/氷結弱点/電撃弱点/闇耐性
打撃さえ防いでしまえば、敵にもはや打つ手はない筈。そう思う祐巳に観客席からの声/志摩子。
「敵が祐巳さんを分析してるわ!」
観客席からでも分析が出来る。それなら……
一瞬の判断。
「志摩子さんは桂さんを分析……」
不意に何かが祐巳をハッとさせる。
直感。
それが明暗を分けることはある。
以前、敵は様々な攻撃を可能にする石を持っていた、それが記憶にあったのかも知れない。祐巳は咄嗟に召還機の引き金を引いていた。桂の声/攻撃。
「ジオラオン!」
「トート!」
連続した電撃に祐巳は打たれる/無効化、一瞬の思索、どうする? ランダは電撃が弱点だが、一方でトートで衝撃を食らえばもたない。
反撃が必要、攻撃手段は?
桂と祐巳が同時に自分の頭を打ち抜いた。
「ザンダイン!」「ディオニソス!」
桂から放たれる衝撃波、祐巳が放つ冷気/ブフダインの技能、衝撃に吹き飛ばされた祐巳がコロシアムの外壁にたたきつけられ、桂が氷柱の中に呑まれる。
月ディオニソス/斬撃耐性/打撃耐性/雷耐性/疾風弱点
本来、ディオニソスにブフダインの技能はない。しかし、合体後の継承を駆使してブフダインの技能を祐巳はつけた、それはひとえに、ディオニソスが電撃関連の技能しか持っていないためである。
本来なら、桂の弱点である電撃をメインに持つディオニソスは、桂戦にうってつけに見える。しかし電車の戦いによって祐巳は、桂が電撃を無効化する道具を持っているのを知っている。全ての電撃技能はその瞬間に無用の長物と化し、電撃技能しか持って居ないペルソナには、なんとしてでも他の技能をつける必要があった。
三日間、無駄にタルタロスに昇っていた訳ではない。
「やるじゃない、祐巳さん」
桂が氷柱を中から砕いて笑う。
耐性を持つペルソナで桂の攻撃を受け、氷結技能で攻撃した。にも関わらず、桂に押し負けているのを祐巳は感じる。
これが、レベルの差か。
こうなるのが分かっていれば、ディオニソスに氷結関係のブースタをつけるべきだった。
こめかみに感じる召還機、桂も祐巳も一瞬で思考を巡らす。
衝撃はランダで反射できる。
電撃はトートで無効化できる。
しかし、電撃をランダで受ければ、それは弱点であり、その先に待つのは祐巳の死だ。
だがトートで衝撃を受ければ、弱点でこそないものの、耐性のあるディオニソスで受けてなお、全身が痺れるくらいの痛みを受けている現状、ただでは済まない。
どっちだ?
桂は、どっちで来る?
「祐巳さん!」
志摩子の声。
動く。
「ザンダイン!」「ランダ!」
読み勝った!
ただの勘による勝利だが、跳ね返された衝撃波が桂を直撃する。
悪魔バエル/火炎無効/氷結耐性/電撃弱点/闇無効
祐巳は志摩子が送ってきたデータの意味を見逃さない。
氷結耐性。
さっき、レベルの差で打ち負けたと思ったが、バエルには氷結に耐性があった。それなら、耐性のないもので攻撃し、相手の攻撃は耐性のあるもので受ければ……。
「祐巳さん!敵にランダのデータが!」
志摩子さんが分析を終了したということは、こっちのペルソナ……ランダのデータも向こうに渡ったということ。電撃が弱点であるのを桂は知る。だがむしろ、それによって桂の行動が読める。桂は必ず、電撃を撃ってくる!
「トート!!」
「ザンダイン!」
な!?
視界が真っ白になった。
体がバラバラになるような衝撃。
痛みさえ感じない。
コンクリートを生クリームのように掬い取ったあの衝撃波の直撃、バエルの全ての腕はただ祐巳を向いていた。壁への激突、桂の追撃、無我夢中で握る召還機。
「ランダ!」
思いとどまったバエルの一撃が闘技場の床を揺らす。まるで地震、なにもかもをぺシャンコにする凄まじい豪腕。
「分析するまでもなく、電撃無効のペルソナを祐巳さんが持っているのは知っているわ。ランダの弱点が電撃だからすぐに飛びついて電撃を撃つ?ありえない。余りにも迂闊、祐巳さん、あなたは、私を侮ったわ」
回復……。
パールバティがディアラマを持っている。弱点は火炎、今日、桂さんが火炎を使ったのを見たことはない、前回、アギラオストーンという火を噴く石を見た。一瞬の思考、逡巡。
「オオクニヌシ!」
「ファイアブレス!!」
バエルが『炎を吹いた』。
節制オオクニヌシ/火炎無効/氷結弱点/光耐性
「桂さん、貴方も私を侮ったわ。パールバティで回復を行うと思い込んだ」
「やはり、私の邪魔をするのはあなたの特殊な『才能』なのね。付け替えの特殊能力。祐巳さん、あなたは生まれついての『持つ者』、打倒すべき敵なのよ」
胸部に違和感を覚える、どこかの骨が折れている可能性があった。
しかし、今は、関係がない。
桂さんがどう出るか。
祐巳がどう反応するか。
それが全てだった。
互いの思考を、考えの癖を、想いを、只管に読むしかない。
不思議なことに、今こうして戦っていながら、2人は絆で繋がっていた。
祐巳が回復するのを、桂はとにかく防ぎたい筈だ。それならばもう一度ファイアブレスという可能性もある。二回連続は行わないとこちらが予想し、パールヴァティで回復したがっていることを想像して、そういう行動に出る可能性はある。
一方で、もう一度ザンダインを撃つ可能性もある。パールヴァティであれば、どっちにしろザンダインは通用する。回復など、殆ど意味を持たないだろう。そのまま滅多打ちだ。
だがこのどちらの行動も祐巳は取らない。
回復は捨てる。
まさか、と桂も思うだろう。しかし祐巳は、桂を倒しに来たのだ。回復では桂を倒せはしない。
運が悪くても死ぬだけだ。
「ケツアルカトル!」
「ザンダイン!」
巻き起こる凄まじい竜巻/ガルダイン・疾風ブースタの威力、襲い来る衝撃波を祐巳のペルソナが受ける/打撃耐性、節制ゲンブの持つ技能を継承してつけた切り札の一つ。
「回復せずにいつまで持つかしらね!」
「そっちこそ」
2人はこめかみに召還機を当てるのをやめない。引き金を引き続ける。
「ガルダイン!」「ザンダイン!」
衝撃と竜巻、一歩も引かずに互いにそれを打ち合う、尋常ではない痛み、祐巳は笑った。桂も笑っている。
「ガルダイン!」「ザンダイン!」
最高じゃないか。
この痛みも、狂気も、戦意も、全て私達だけのものだ。
コンクリート塀さえ粉々にする衝撃をその身に受けながら笑う、小さなビルくらいならバラバラにする竜巻に切り裂かれ桂が笑っている。
狂気。
「福沢ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
桂が吼えた。
ペルソナはもう一つの自分。
ペルソナは精神的存在。
この咆哮は、魂の咆哮だ。
私達は、肉体ではなく、互いの心を傷つけあっている。この折れた骨も、この衝撃も竜巻も、全て精神に起こっている、と祐巳は思った。
これは戦いであり同時に、精神で語り合っているのだと。
竜巻と衝撃乱れ飛ぶ闘技場で、祐巳は桂の思いを、精神を、衝撃波を受け止める。
「私は、お前に届くしかない、お前が、お前が私を上昇へ誘ったんだ」
ずっと、ずっと貴方に追いつきたかった。
桂の精神。
「私は、ずっとここに居る。届く必要なんかない」
何故それが分からない。
2人はただ互いを削りあう。
もはや作戦も何も無かった。ただひたすらに衝撃と竜巻を撃ちあう。桂に届くナビゲーションの声は、祐巳が打撃耐性を持っている事を伝えている。しかし、一段階落ちる威力であるジオラオンの技能よりも、自分が最も信頼し得意とするザンダインの技能……自分自身を桂は選んだ。
「福沢ぁぁぁぁぁぁ!!」
バエルの持つ六本の腕、金色の髑髏の四本、赤い悪魔の二本、それら全てが一斉に祐巳に向けられ衝撃波を放つ。最新鋭の戦車でさえゴーフルみたいに叩き壊すそれを、ただ笑って受けて竜巻を返す。血で視界が赤くなった。桂も出血している。笑う、笑う、笑う。
「これがお前の求める上昇か!桂!こんな貧相なものが!誰とも繋がらない上昇の果てにある力では、私に届いたりはしない!」
仮面ではない、『私』は叫んでいた。桂、桂よ、自分の人生を豊かにするのは確かに自分の力だ。他人ではない。だがそれは『絆』と両立させられないものではない。
「何故倒れない福沢!お前は、お前は……!」
直撃する衝撃波、桂を切り裂き、打ち据える竜巻。
「私は上昇を否定しない。多くの人々がそれを目指し、社会を支えているそのシステムを否定するなど、誰がする。だが上昇のために誰かを虐げ、破滅させ、逸脱するならば、私はその上昇を認めることは出来ない」
「『上昇』だけが『失望』を『超克』する手段だ。私はひたすら上昇する、そのためには落下する人間が『必要不可欠』だ。福沢、お前を引き摺り下ろして私は飛ぶ、ペルソナの無限の力こそが、私の上昇のチャンスなんだ。この力で私は人生を切り開く、あなたを殺して!」
覇権や、頂点を目指す者達の努力と輝き、反面の冷酷さと醜悪さ。
それら全てを含めて世界は回っている。しかしその先にあるものは、矢張り私にとっては失望に過ぎない。
桂のやり方でバブルを通り過ぎ、人々は失望の底へ行った。
上昇の先にあるのは虚無だ。桂が、その栄華と繁栄と金銭に満足出来る人物ならば何の問題もない。
しかし桂の上昇の本当の目的は、その先にはない筈だ。
「社会に合わせて、世界に合わせて、それが貴方にとって本当に『上昇』と言えるのか?ただ他人の価値観に合わせる事が上昇だと?その上、私を殺す?その先には何もない。『上昇』では『失望』を『超克』出来たりはしない!その先にあるのはさらに巨大な『失望』に過ぎない!桂!貴方が本当に求めるものは何だ!」
「黙れ福沢!!上昇したお前がそれを口にするのは許されない!」
「私は何も上昇などしていない!」
「最初から『持っている』貴様などに!」
桂の憎悪、愛情、その全て。祐巳はそれをまだ受け止めきっていない。
「おおおおおおおおおっ!」
桂が叫び、バエルが腕を振り上げた、振り下ろされるべき拳、祐巳が今まで避けつづけてきた肉弾攻撃。
祐巳はそれを避けない。
そのまま、振り下ろされた六本の腕に打ち据えられた。
岩山さえ粉々にしそうなその打撃を受け、なお竜巻を放って笑う。笑い続ける。
いま、確かに桂と祐巳は繋がっている。
幼い頃から、ずっと一緒だった親友。
幼稚舎で皆で整列し、隣の子と手を繋ぐように先生が言って手を繋いだ相手。
『桂っていうの』
舌足らずな自己紹介。
初等部、中等部、共に過ごした日々。
一緒にうろたえたり、笑ったり。
『祐巳さん、早く行こう?』
手を差し伸べている桂さん。
色んな桂さんを、祐巳はちゃんと覚えている。
小さな生き物にも感情移入する繊細さ。
『それは、虫さんが可哀想だよ』
とろい祐巳を引っ張っていってくれる頼もしさ。
『ちょっと祐巳さん、こっちこっち』
初潮が来た日に震えていた桂さんさえ、覚えている。
後日笑い話になった時に、桂さんはひたすら吐いたと言っていた。
『女の子になるって、気持ち悪いね』
その繊細さが裏返り、他人を拒絶する上昇を目指させたのか。
桂の思い。
「どうして、どうして、貴方は」
私から離れていったのか。
薔薇の館が、特別な、『上』の世界だったから。
貴方は、私から離れた。
「上昇して、私が行き着きたかったのは」
何のために上昇を目指す?
「祐巳さん、貴方だった」
我は汝、汝は我。
いまここに、汝は悪魔の真の絆を得た。
新たなるペルソナの誕生。
「桂さん、貴方は、私に行きついたよ」
引かれる引き金。現れるペルソナ。
「ロキ」
メギドラの閃光が闘技場を覆った。
倒れている。
揺らめく炎が、天井の陰を揺らしている。
目が覚めれば、そこには自分が追い求めてやまない人の顔があった。
「やっぱり私は、貴方に届かなかったのね。貴方は、持つ者だった」
祐巳さんに殺されるなら、構わないとさえ、思った。
しかし祐巳さんは首を振る。
「私の力じゃないよ。桂さんを倒したのは、私と桂さんの絆の力だから。届くも届かないも、私はいつだって桂さんの隣に居たじゃない。桂さんはただ、気付かなかっただけだよ」
薔薇の館に行くようになって。
祐巳さんを遠く感じたのは。
私の方だったのだろうか。
だがそれも全て、過ぎ去った事だった。
「タルタロス!勝敗は決した!上への道を開きなさい!」
祐巳さんの叫び。
私は首を振る。
「私は生きているし、炎にも変えられてないわ。祐巳さん、お願い。私はもう、満足しているから」
「私は桂さんを殺さないし、炎にも変えない!ただ上への扉を開く!決闘は終わった!」
その言葉に対し、不意に、タルタロスは言葉ではなく、イメージで伝えた。
その場合、スプーキーズや、他の存在も扉を通れることになってしまうと。
「構うものか!」
ここでスプーキーズの道を閉ざした方が、本当はSEESにとって良いのかもしれない。少なくとも桂が勝っていれば、スプーキーズは祐巳を殺し、道を閉ざしただろう。
タルタロスは何も答えず、ただ道を開いた。
闘技場の観客席が割れ、巨大な階段が現れる。地響きと共に現れたそれは、空を映した異空間に繋がっている。
「行こう?」
そう言って祐巳さんは、観客席から動けるようになった仲間『ではなく』、私の手を取った。メディアの光りが温かい。
決闘を終えて階段を昇る2人を、SEESはおろか、スプーキーズさえ止めなかった。
私達は、階段を昇りきる。
2人で。
目の前に、海が広がっていた。
どこまでも続く水平線。
周囲を見回すと、ここは小島のようだった。
離れたところに、巨大な島と、そこに立つ建造物が見えた。
見たこともない巨大な宮殿、あるいは神殿、日本では見ることの出来ない特殊すぎる建物が、東京タワーさえ上回りそうな高さで建っている。
振り返れば、SEESやスプーキーズの面々が昇って来ていた。
桂の表情に緊張が走る。
「江利子さま……」
「なに?私がなんかすると思ってる?別に何もしないわよ。ボスも内藤を中継してさっきの戦い見てたみたいだし。伝言があるわよ」
「なんですか?」
「それで、スプーキーズに残るのか、ですって」
ボスは何を考えているか分からない人物だった。叱責と思ったあの場面でも、結局は、桂の内心や決意を把握しようとしていただけだった。祐巳に負けても、あの戦いを見ても、スプーキーズに残る選択肢を用意してくれている。
スプーキーズに情はないと思っていた。
しかしそれは、視野が狭くなっていただけだったのかも知れない。
上昇上昇と言って自分が打算に飲み込まれていると、他人も全て打算で動いていると思ってしまう。そういうことだろう。
「残ります」
祐巳が不安そうな顔をする。桂の弁解。
「私はまだ、上昇の全てを諦めた訳じゃないわ。スプーキーズは、まだ私に必要な場所なの」
立浪が江利子の顔色を見ている。その目は、SEESとのんびりしていて良いのか、と訴えている。
「ん?別にSEESと戦う理由とか、うちらはないでしょ。成り行きで戦ったりはしたけどね。一応メンバーの命を助けてもらって、上の階への道まで開いてもらったんだから、少しは借りがあるかもしれないけど」
冷静に考えれば、スプーキーズと徹底的に対立する理由はない。
「ボスの判断次第ってこと。まあ、あの男は何考えてんだかよくわからないけど」
江利子さまはそう気だるそうに言った。私は面白ければいいけどね、とその顔は言っている。
そういう訳で、SEESと、スプーキーズの三名は周囲の海を見回し、遠くの建物を眺めて感嘆の声をあげて、そんな風にしているとやがて、大きな羽音が聞こえた。
頭上を見上げ、鳥だと思ったそれが降りてくると、それが羽が生えた人間?であることが分かる。中世ローマのような鎧を着込み、剣を持っている。
「なんだお前達は、あやしいやつらめ」
と吐き捨てるように、一方的に男たちは言った。
三名の有翼人。
彼らは祐巳達に剣を向けた。
「成敗してくれる!」
問答無用だった。余りにも高圧的な態度。
一色即発、召還機をこめかみにあてた祐巳達、そこへさらに別の連中が海中から現れた。
「でかい顔すんじゃねえぜ天使ども」
巨大な蛸に乗った女、巨大な龍の二体が海中から、さらには喋る大きな鳥が空から降りてくる。
天使パワー達は、スキュラやサーペント、フレスベルグたちとにらみ合う。
「お前らガイア教徒か?」
と巨大な鳥・フレスベルグが祐巳に言う、何のことやら分からない。
そして止めをさすかのように、島の端にさっきまで見えていた黒い石が動いた。
しかし、黒い石と思っていたそれは、小柄な老人の背中だったのだ。
黒い服を着た奇妙な老人は、ただ彼らを一喝した。
「去れ。汝たちが居るべき場所ではない」
それだけで、天使も悪魔も、もうそこには居なかった。
全く違和感なく、光を放ったり、音をたてることさえなく、瞬きしたらもう彼らはいなかった。
老人は祐巳達を見て目を閉じる。
髭も髪も真っ白で、長く伸びた老人。
「これも運命か」
と彼は言い、続けて歌うように言った。
「来るべきロウの英雄も、選ばれしカオスの英雄も、全ての運命を決するメシアも死んでしまったというのに、異世界からの客が来るか……」
祐巳は尋ねる。
「あの、貴方は?」
「私は名も無い、ただ無為自然を生きる老いぼれだ」
「異世界とか言ってましたけど、ここは、どこなんですか?」
老人はあぐらをかいて座った。その姿には、風景と馴染んで溶けるような風情がある。
「ここは水没した東京、さっきの奴らは天使と悪魔じゃ。あの建物を除いて、殆ど全てがこの世界では水没してしまっておる」
東京?ここが?
タルタロスは、異世界と繋がっている?
事故現場で見た、別世界への入り口。
存在している別世界。
天使?悪魔?
「東京には核が落ち、様々な混乱の末、神は東京に洪水を起こして全てを沈めた。そして神を信じる選ばれた者だけが住める至福の千年王国を築くつもりじゃった。しかし、悪魔達も馬鹿ではない。彼らは建造中の千年王国に忍び込み、その地下に巣食って反逆の狼煙とした。それがあの建物じゃ」
遠くに見える巨大神殿。
「おぬしは、ここがどこかと聞いたな、答えよう。ここは神と悪魔の最終決戦場」
「カテドラル」
To be continued