青い初夏の日差しの中を風が吹き抜けていく。
揺らされた風鈴がたてる涼しげな音が縁側の乃梨子の耳に届いた。
昼の小偶寺、Tシャツ姿の乃梨子は団扇を扇いでいる。視線の先には眠る白い少女。
白いワンピースを着て畳の上に寝転がっている彼女の額を、汗が滑り落ちて行く。
夏の昼間。
蝉の声。
──わたし達は夏の世界に閉じ込められて、永遠に少女のまま。
「志摩子さん、畳の跡がついちゃうよ」
声をかけても、志摩子さんは目覚めない。まだ夢の中。
わたし達はまだ二年生と一年生で、夏で、長い長い休みの中に居る。
カラン、という氷の音、出された麦茶の中で氷が鳴っている。
小寓寺に泊まり始めて二日目、2人でお出かけして戻ってきた昼下がり。
遊びつかれて眠っている志摩子さん。
8月。
初夏の6月が過ぎて、真っ盛りの7月も去って、一番熱い夏の終わり。
乃梨子は志摩子と一緒にいる。
「志摩子さん、夏休みの終わりごろって……」
眠り姫に話しかけても、返事はない。
遠くから聞こえる蝉の声。
庭に植えられている向日葵から伸びる長い影。
畳の上に黒い姿を伸ばしている。
この夏の世界には、志摩子と乃梨子しかいない。
半透明な夏の光と影。
ずっとこうしていられたらいいのに。
乃梨子は心からそう思う。
胸が締め付けられるような気がした。
「終わることは、切ないよ」
そう言って乃梨子は眠っている少女の顔を、覆いかぶさるように覗き込む。
白い滑らかな肌。
汗と、花のような匂い。
長い睫。
ピンクの唇。
乃梨子は、顔を近づけていく。
ずっと一緒にいたいよ。
ささやかで、柔らかな感触。
唇と唇。
彼女が目を開く。
「私は、終わらないって、信じてる」
彼女の言葉。
「起きてたの?」
蝉の声。
「乃梨子の声は、聞こえてた」
熱い夏の昼下がりのまどろみの中で、乃梨子の声は遠くから聞こえた。
乃梨子は志摩子を抱きしめる。
2人の体温。
汗と汗。
──私達は夏が終わらないのを信じている。
有り得ないことを信じるくらいに愚かな若さかもしれないけど。
胸の中の強い強い想いを信じたい。それに殉じたい。
強く抱きしめあう。
やがて蝉の声は止み、夕日が沈み、三日しか地上で生きられない命が土に帰っていく。
でも
明日も夏休みだ。
志摩子さんはここにいる。
乃梨子もここにいる。
風が吹き抜けて、風鈴の涼しげな音が夏の夜の畳の上へ届く。
遠い花火の音。
蚊取り線香の匂い。
夏はまだ、終わらない。