祐巳さまに腕をとられた私が写真に写っている。

 腕を組んでいる写真。

 ドレスを着た祐巳さまはとても可憐で可愛くて無垢で、惹きつけられる。

 左手で私と腕を組み、右手は…不愉快なドリルと組んでいたので、鋏で切り落とした。

 そうすれば、私と祐巳さま二人だけの写真。

 秘密の写真。

 

 『あなたが私の腕をとる』

 

 私はときどき、こっそりそれを見る。

 祐巳さまの写真を。

 決して全面的に好きなんかじゃない、と思っても、引き寄せられてしまう。

 祐巳さまは誰かが守るべきで、それが私だったらいい、などと夢想してしまう。

 写真の中の祐巳さまは、天真爛漫に微笑んでいる。

 なんとなく。

 魔が差した。

 唇を近づけてしまう。

 「か〜な〜こちゃん」

 本気で飛び上がりそうになった。

 私は、なんて恥ずかしくて破廉恥でふしだらなことをしようとしていたのだろう。

 顔が赤くなる。

 しかも、よりによってその当人に声をかけられるなんて。

 「どうしたの?」

 「…なんでもありません」

 「なに見てたの?」

 「なんでもありません」

 「顔赤いよ?」

 「なんでもありません」

 「なんでもありません」

 「まねしないでください」

 「だって、なんでもありませんしか言わないんだもん、可南子ちゃん」

 「なんでもないから、そう言ってるんです」

 「もっと言葉のキャッチボールしようよ、私と話すの、いや?」

 そういって私の顔をのぞきみる祐巳さまは、抱きしめたくなるぐらい可憐だった。

 平静を装うのに苦労する。声がか細くなりながら、言う。

 「いやでは、ありません」

 「そっか、じゃあ、にっこりね」

 「にっこり?」

 「そう、にっこり」

 そう言って祐巳さまは花が咲くみたいに笑う。

 眩しい。

 「そんな風には、笑えません」

 「そうかなあ?可南子ちゃんの笑顔、可愛いと思うんだけどな」

 「可愛くは、ありません」

 「そんなことないよ」

 何て答えていいかわからない。

 沈黙。

 「う〜ん、なんか、もっとこう、会話って感じにならないかなあ」

 祐巳さまは少し考え込んでいる。

 もっと仲良くしたいんだけどな。でも、私のこと嫌ってるのかもしれないし。それに、会話が苦手なだけかも、そういう

 子 に無理に会話させようとするのってよくないし。と顔で祐巳さまは語っていた。

 ほんとによく変わる表情。

 そして無垢な可憐さ。

 見とれてしまう。

 もう、なんとも思ってない筈なのに。たぶん。

 「可南子ちゃん!」

 祐巳さまが、びしっ、と私を指さした。

 「なんでしょう?」

 「さっき見てたの写真でしょう!!」

 「なぜそれを!!?」

 「あ、当たった」

 はめられた。

 動揺してしまった。完全な失敗だ。

 なぜなら…

 「何の写真?みせてみせて」

 こうくるに決まってるからだ。

 「いやです。見せれません」

 「なんで?」

 「なんででもです」

 「む〜」

 祐巳さまが不貞腐れている。

 そして不意をついて飛びついてきた。

 「見せてよ〜」

 「だ、駄目です!」

 「けち〜」

 祐巳さまが本気で奪い取ろうとしていないのは、私にも分かった。

 この方は、そういうことを無理矢理するのは嫌いな方だ。

 だが、偶然の運命が、私の手から写真を取り落とさせた。

 手が滑ったのだ。

 地面に落ちたそれを、祐巳さまが見てしまう。

 「あ、あのときの写真、可南子ちゃん綺麗」

 似合いもしないドレス。背が高いから、無理に作ったものだ。

 「モデルさんみたいだったよ」

 祐巳さまはそう言って写真を拾う。

 私が無言なのを、不思議そうに見ている。

 「あ、ごめんね、見ちゃって。そういうつもりじゃ、なかったんだけど、ごめん」

 「いえ」 

 「でも、なんでこの写真…」

 そう言って祐巳さまは気づいてしまった。気づくのが遅いぐらいだ。

 私が自分に見入っていたわけではないことなど、すぐにわかってしかるべきだ。

 なにより、わざわざドリルの部分を鋏で切っている。

 一度、ツーショット写真をくださいと頼んだこともある。

 全ては、明白だった。

 顔が真っ赤になっているだろう、私は。

 「か、可南子ちゃん」

 祐巳さまも、すこし、顔が赤い。

 なんて言ったらいいのか分からない。

 「もう、こんな写真みるぐらいだったら、私のところに来ればいいのに」

 無防備な、笑顔。

 「そんなしげしげ見るような顔じゃないでしょ、こんな狸顔」

 「ゆ、祐巳さまは」

 「うん?」

 可愛いです。

 「なんでもありません」

 「また〜、口癖?」

 そういいながら、祐巳さまはさっきよりも嬉しそうだ。

 「じゃあ、いこうか」

 写真のように、私の腕を祐巳さまが取る。いきなり。

 「どこへですか?」

 「ど・こ・で・も」

 そういって笑う。

 腕から祐巳さまのぬくもりが伝わってくる。

 今なら素直に認められる。

 

 私は、この人が大好きだ。

 

 そして大好きなその人は、写真のように私の腕をとってくれるのだ。たぶん、私の心を察して。

 しかも写真と違って、今度は正真正銘、私だけの腕をとってくれている。

 その笑顔は、写真よりもずっといきいきとしていた。

                                                         了

 

   back