「お姉さま、写真いっぱいとりましたよ」
私はこの間のパーティーの写真をお姉さまに見せる。
「ふうん、真美、頑張ったわね?」
「なんで疑問系なんですか」
「だって、まだ写真見てないし、記事もできてないもの」
まったく。
ひねくれてるんだから。
『私の宝物』
もう、寒い季節だ。
半袖がおいやられ、コートがやってくる。机は去り、こたつが来る。そんな季節。
私は写真の配置と、記事の内容を考えている。
麗しい薔薇さまがたのドレス姿。卒業された旧薔薇さまがたのドレス姿まである。
このリリアン瓦版が出たら、皆狂喜するだろう。間違いない。
いうなれば、ハリウッドスターのパーティーの模様、みたいなものなのだ。リリアン生にとっては。
記事だって、それに負けない内容にしなければ、と私は考える。
そういうとき、お姉さまは凄かったのかも、と思う。
なんだかんだいって、想像力豊かな文章を書いていた。
豊か過ぎたのが難点だが。
記事は進まない。
見出しさえ思いつかない。
どうしちゃったのかな。
寒さのせいかな。
水野蓉子さまと小笠原祥子さま、佐藤聖さまと藤堂志摩子さん、鳥居江利子さまと支倉令さま。
卒業した姉と、在校生の妹。
なぜだろうな。
つい、見てしまう。
記事は進まない。
ちっとも。
「ごきげんよー、真美、元気でやっとるかー」
おやじみたいな口調でお姉さまが入ってきた。
「お姉さま、なんで部室に、受験では?」
「息抜き息抜き、おや?記事かな、進んでないわねえ」
「これから、書くんです」
「ふうん」
否定的な、ふうん、だ。それぐらい分かる。
「写真、よくとれてるじゃない」
「ええ」
「こんなネタあんのに、記事がすすまないの?」
「う」
痛いところを突かれた。
「いったい、どしたの?」
「なんでもありません」
声が冷たくなったかもしれない。
お姉さまは、暫く考え込んでから口を開いた。
「真美、あんたさあ、別に気負わなくていいのよ」
「気負う?」
「そう、なんかさあ、リリアン瓦版を、新聞部を、背負ってたつとか、そんなんじゃないんだからさ」
「でも、私が頑張らないと瓦版は出ません」
「そりゃそうよ。でもさあ、なんていうかなあ、いっちゃなんだけど、校内新聞だし…そりゃ私はね、凄く必死にみえたと
思うよ。真美から見ても、そうじゃなかった?」
「ええ、ごく控えめに言って、必死過ぎました」
「とうてい、校内新聞でするようなことじゃないこと、しちゃったよ。酷いこともしたよね。たださあ、それは別に使命と
かじゃなくてさ。楽しかったのよ。そういうことが。だからあんたが私の真似して必死になりすぎるのが心配なのよ」
私はようやく、お姉さまが励ましてくれているのだと分かった。
「私のときより優れた記事かかなきゃ、とか、リリアン瓦版を盛り上げなきゃ、とかさあ、考え過ぎなくていいからね」
「そんな、去り際の言葉みたいなの、やめてください」
「去り際だよ。十二月だし」
「やめてください」
泣きそうになるから。
本当は、私、お姉さまが卒業するのが寂しいんだ。
だから、旧薔薇さまと現薔薇さまの写真に見入ってしまう。
記事を書くにも、お姉さまを思い出してしまう。
しっかりしなきゃ、と思っても、筆は進まない。
「真美」
といつになく優しい口調でお姉さまが言って、私の頭にぽんぽんと触れた。
そんなことされたら…
「あなたなら大丈夫だから」
泣いてしまいます。
「真美?」
涙が、頬を伝った。
「おうわっ!?なに!?なぜ泣く!?」
そういうムードもへったくれもない驚き方とか、けっこう好きでした。
「…お姉さま…」
卒業しないでください。
お姉さまは、ようやく、何かを悟ったように、優しい表情になった。
「もう、泣かないの、真美」
抱きしめられる。ますます、涙が溢れる。おもわず、嗚咽が漏れた。
「どうしたの?」
もう、ここまで泣いてしまったら、秘密にする意味がない。
「…お姉さまが…卒業しちゃうから…それで」
お姉さまは、抱きしめたまま、頭を撫でてくれた。
「真美、今は、居るでしょ私、ここに」
「はい」
「だから大丈夫」
「はい」
「それに、あなたなら大丈夫」
お姉さまと私は、暫く抱き合っていた。
私が泣き止むまで。
「う、うわーーー、原稿が間に合わなくなってしまうーーー」
「あははは、それじゃ私はこれで」
「お姉さまも手伝ってください!!」
「新聞部は真美に任せるのでそれじゃ」
「逃がしません!!」
お姉さまが苦笑する。
「いいわ、真美が私に何か頼むの珍しいしね。お姉さまらしいこと、あんまりしてあげられなかったし」
また、なんでそんな涙腺にくるセリフを言うんですか。
私は思わず顔をそむける。
「なに、泣きそう?」
感動したのは間違いだったと思った。
つくづく。
結局、そのリリアン瓦版は私とお姉さまの合作になった。
卒業記念になりそう、とかお姉さまは言ってたけど。
本当に、最後の合作かもしれない。
刷る前の原本は、私がこっそり保管している。
家の引き出しにいれたそれは、私とお姉さまがここにいた証。
私の宝物。
たぶん、死ぬまでわすれませんからね。お姉さまのこと。
了