パーティーの空気が濁っていく。
暗い雰囲気が充満する。
どんどん、声が小さく…暗く…
「遅れました!!!」
来た。
空気が変わる。
皆が彼女を注視する。
福沢祐巳。いよいよ主役の登場だ。
『みんなでパーティー』(後編)
「ゆ〜みちゃん!」
「ぎゃう!」
さっそく聖さまが祐巳さんに飛びつく。
「あいかわらずいい声だな〜。そしてぷくぷく〜」
「や、やめてください」
聖さまは祐巳さんを離して、まじまじと見る。
「ドレス、凄い似合ってる。凄い可愛い」
「え、ほんとですかあ?」
可愛い笑顔。
「うん、食べちゃいたいぐらい」
一瞬で曇った。
「遠慮します!」
「まあまあ、遠慮しなくていいんだよ〜」
「や、やめてください〜」
祥子さまの怒声が飛ぶ。
「祐巳を離してください!!」
「なんだよ祥子〜」
「嫌がってるじゃないですか!」
「え?祐巳ちゃん嫌がってるの〜、私傷つくな〜」
蓉子さまの怒声が飛ぶ。
「聖…いい加減にしなさいね?」
「はい、すんまへん」
冷たい視線を感じて聖さまは祐巳さんから離れる。
しかし、いつの間にか、祐巳さんの元に人が集まっている。
そして、そうやって集めたお陰で、状況が変化している。
蓉子さまと聖さまは、昔を思い出し、滑らかに会話しはじめる。
志摩子さんは聖さまが離れた結果、冷静に乃梨子ちゃんを見る機会を得た。
風向きが変わる。
祐巳さんは意識してない。
これが、祐巳さんの力か。
私はカメラを構え、シャッターチャンスを探し始めた。
1
「乃梨子、どうしたの?」
乃梨子が暗い顔をしている。
どうしたのだろう?様子がおかしい。
「志摩子さん、志摩子さんは…あの、聖さまって人のこと、好きなんだね」
そうよ、と答えそうになってやめた。
そこで私は乃梨子がどんな風に私とお姉さまを見ていたのか気づく。
「私、乃梨子を傷つけた?」
乃梨子は首を振る。
なんて言えばいいんだろう。
何を言えばいいんだろう。
久しぶりにお姉さまに会えたのは嬉しい。それは、仕方ないことではないのだろうか?
そういう風に考えるのは、乃梨子に対して無神経だろうか。
もっと、乃梨子の気持ちを考えてあげるべきだった。
でもいったい、何を言えばいいんだろう。
なんて言えば、乃梨子は許してくれるのだろう。
「あれ?どうしたの?乃梨子ちゃん、志摩子さん」
祐巳さん。
「真剣な顔して、相談?私、お邪魔かな…乃梨子ちゃん、大丈夫?なんだかつらそうだけど?何でも志摩子さんに
相談したらいいんだからね。志摩子さんお姉さまだし…私よりしっかりしてるしね」
「祐巳さん…」
「えへへ、上級生風ふかせてみました。私もお姉さまと気持ちをぶつけ合ったから、上手くいった経験があるから
ね。えへへ。じゃあね」
祐巳さんは去っていく。華のような笑顔を残して。
そして乃梨子がその想いを喋り出す。
まるで魔法の鍵で扉が開いたみたいに。
強く、激しい愛情。
嫉妬。
後悔。
ねえ、私はそれら全てを受け入れるわ。
乃梨子。
私もあなたを愛しているから。
「私は、志摩子さんが私をどう想ってるか、確認したいの。志摩子さんは困るかもしれない。志摩子さんはそういう
風には私を好きじゃないかも知れない。でも」
いいのよ、乃梨子。
気にしないでいいの。
あなたがそれを望むなら構わない。
語り終えた乃梨子を見る。
愛しい。
そして私も喋り出す。
魔法の鍵で扉が開いたみたいに。
愛の言葉を。
2
「あなたって、ほんと祐巳ちゃんにすぐちょっかい出すわよね」
「性分なんだ」
「変わってないわ」
「伝統と格式」
「なに?」
「変わらない味、伝統と格式の百年煎餅」
「馬鹿みたい」
「確かに」
蓉子と、すらすら話せる。
なぜだろう?
「でも、良かったわ」
「何が?」
「さっきまであなた、不機嫌だったじゃない」
「不機嫌?私が?」
「なんかこう、話しても遠くにいるみたいで上の空だったし、久しぶりにあったのに」
「ごめん、緊張してたんだ。あんまり蓉子が綺麗になってたから」
「よくそんなスラスラいえるわね」
「本心だよ」
「まったく。私けっこう、真剣に傷ついたのに」
「どうして?」
「避けられてるみたいで」
なんだろう。
嬉しい。
結局、私が勝手に壁を作ってただけなんだ。
話しづらくしてたのは、自分自身なんだ。
なあんだ。
「蓉子、彼氏できた?」
飲んでいたものを蓉子が吹きそうになるが、耐えた。さすが元紅薔薇。
こうやって直接聞いたらよかっただけなんだ。
「な、なに聞くのよいきなり!」
「気になるから」
「い、いないわよ」
「ほんと?」
「いないったら!」
「じゃあ、私にもチャンスがあるんだね?」
一瞬、顔をあからめて蓉子が言う。
「どうかしらね?」
「せいぜい頑張るよ」
「誰にでも言ってるんでしょ?」
「いいや」
私は否定した。
そしてはっきり言う。
「蓉子が好きだから言ってる」
そうして顔を赤らめた蓉子の、なんと可愛いことか。
3
令さまがちさとさんと由乃さんに挟まれて困っている。
どうしようかな?
見なかったことにしようかな?
令さまと目が合う。あちゃ〜。
「あ、令さま、タキシードとってもお似合いですね」
「う、うん、ありがとう祐巳ちゃん」
「あ、祐巳さんにまでデレデレしてる!」
「あら?狭量なんですね、由乃さん」とは田沼ちさとの言葉。
さあ、戦いはヒートアップしていく模様です。
そこへ江利子さまが近づいてくる。
「あらあら令、モテモテね」
ちゅ。
ちゅ?
ちゅーーーーーーーーー!!!!?????
「え、江利子さま、なにしてるんですか!!?」
「あら祐巳ちゃん、何を驚いてるのかしら?あなたも祥子と、これぐらいしてるでしょ?姉妹のスキンシップよ」
由乃さんはスチームポットみたいにカンカンになっているし、ちさとさんも愕然としている。
令さまは固まっちゃってるよう。
「ねえ?令?」
腕を組む江利子さま。
ああ、もうどうしたらいいのやら。
「ちょっと令ちゃんから手を離しなさいよ!!!」
あ、もう本性剥き出しだ、由乃さん。
「あら〜、なんで離さなきゃいけないのかしら〜?」
「令ちゃん!なんとか言ってやって!」
愕然としていたちさとさんが再起動する。そして。
ちゅ。
「わ、私も、私も令さまが好きです」
ショックで、とんでもない行動をとっている!
江利子さまは面白がってるけどね。あはは。
っていうか、この危険地帯から離れたいなあ。
「令ちゃんに相応しいのは私なんだから!」
「ロザリオ返したくせに!」
「姉は私だけだも〜ん」
喧喧諤諤、ああ、離脱したい。
そして運命のハンマーは私に向けられた。
「「「祐巳さんはどう思う!?」」」
令さまは私をすがるように見ている。
そんなこと言われても、そんな大岡裁きみたいに上手くまとめれないよう。
「「「どうなの!!紅薔薇の蕾!!」」」
仕方なく私は大岡越前に習って言うのだ。
「さ、三方一両損ということで」
これにて一件落着。
「「「落着してなーーーーーい!!」」」
江利子さまだけが、げらげら笑っていた。
4
なんだか疲れた顔の祐巳さまがこっちにやってきた。
「あ、瞳子ちゃん」
「お疲れみたいですわね」
祐巳さまは私のドレスをしげしげ見た。
え〜と、こういう時ってなんて言ったらいいんだろう?少し派手すぎると思うんだけどな。でもでも、そういうのを
ハッキリ言うのってよくないし、褒める褒める、褒め言葉…と、顔で祐巳さまは言っていた。
「とってもきらびやかなドレスだね」
「無理に褒めなくていいです」
「う」
困った顔をしても、これ以上言い訳を塗り重ねたりしない。
別に、好感なんかもっていませんわ。
気づくとノッポが背後霊のように祐巳さまの近くにいる。
うっとおしいですわ。
「あら、どうかされたのかしら、可南子さん」
「いえ、祐巳さまが目を悪くされないか心配で」
「どういう意味ですの」
「別に」
険悪な雰囲気。
いきなり祐巳さまが私とノッポの腕を掴んで組んだ。
「ほらほら、二人とも仲良くしなきゃだめ!」
「な、なにするんですか!」
「ゆ、祐巳さま!」
「えへへ、令さまの気分」
見ると、確かに令さまは由乃さんや、もう人方に腕を組まれ、あげく江利子さまにしなだれかかられていた。
「もててますわね」
「羨ましいのですか?祐巳さま?」
「え、だって、私狸顔で、令さまみたいにモテたりすること、一生なさそうだもん」
「「そんなことはありません!!」」
ハモってしまった。
よりによってこいつと。
背後霊は怒涛の勢いで言う。
「祐巳さまには、祐巳さまにしかない魅力があります。それは令さまにも負けないものなんです。祐巳さまは
可憐で、穏やかで、素晴らしい方です」
「か、可南子ちゃん、前にも言ったけど、私にあんまり、過大なイメージもっちゃ駄目だよ」
「過大じゃありません!」
今にも抱きつきそうな勢いで、軽蔑しますわ。
(でも、ああやって表に出せるのが羨ましいのでは?)
「まったく、何をアピールしてるのかしら?妹にしてほしいアピールじゃなくて?可南子さん」
「そういう不純な発想しかできないのね、可哀想な方」
「喧嘩しないでよ二人とも〜」
「いいえ、言わせてもらいますけど、可南子さん、あなたちょっと祐巳さまに近づきすぎです」
「どうしてあなたにそんなことを言われなきゃいけないのかしら?ハンミョウさん」
「さっきから聞いてれば…」
「なにかしら?」
凄まじい勢いでヒートアップしていく。
なぜか誰も止めない。
とことんやるしかない。
祐巳さまがおろおろしている。
口論はやまない。
震えながら祐巳さまが言う。
「ふ、二人とも、喧嘩は」
思わず怒鳴り返す。
「「祐巳さまは黙っていてください!!」」
またハモッてしまいましたわ。
5
「お姉さま〜」
なんだかフラフラしながら、祐巳がここまで来る。
「よく来てくれたわね」
抱きしめて、頭を撫でる。祐巳は嬉しそうだ。
「ほんと、来てくれてありがとう」
とお母様が言う。
「なんだか祐巳ちゃんが来たら、急に賑やかになったみたい」
本当に、そうだ。
何もしてなくても 、祐巳が来るだけで周囲が華やぐ。
本当に、素晴らしいこと。
「ねえ、祐巳ちゃん、これからもパーティーがあったら、来てくれるかしら」
「もちろんです!」
輝くような笑顔。
本当に、この子は。
この子が私の妹であるのを誇りに思う。
「祥子も、祐巳ちゃんが来たら、急に嬉しそうになるのよ」
「お母様ったら、何を言うんですか」
「本当のことじゃない。家でも、そんな顔みせないのに」
拗ねたみたいに言う。お母様はこういうところ、未だに女学生みたいだ。
「私は何も、変わってません、いつも通りです」
「いいのよ、祥子、祥子の嬉しそうな顔を見るのは、私も楽しいもの」
お母様は、遠くを見るような顔をする。
「まだ、何もかもが去った訳じゃないものね。私には、祥子がいるもの。祐巳ちゃんのおかげで、思い出せたわ」
祐巳は話が見えなくて、困った顔をしていたが、意を決して口を開く。
「あ、あの、よくは分からないんですけど、清子おばさまのこと、私、大好きです。きっと、みんなそうです。
私、なんだかもう一人お母さんがいるみたいな、えと、上手くいえませんけど」
お母様が祐巳を抱きしめた。
「ありがとう、祐巳ちゃん。これからも祥子をよろしくね」
お母様が、元気になっている。
私には分かる。
お母様が疲れているから、私まで疲れてしまっていた。
だから祐巳と一緒にいる私を見て、お母様は、元気になったのだと思う。
華々しいパーティーの雰囲気に触れて。
聖さまがいつもの調子で周囲を盛り上げている。
お姉さまがにこやかに周囲に気を配っている。
令の周りで、愉快な騒ぎが起こっている。
由乃ちゃんの笑顔や声、人を元気づける声だ。
一年生二人が仲良くいがみあっている。微笑ましい。
さっきまでの雰囲気が嘘のよう。
祐巳が来るだけで音が鳴り出す。
幸福な空気になる。本当に、凄い子だわ。
不意にお母様が私を抱きしめた。
「祥子、祐巳ちゃんを離しちゃ駄目よ」
「お、お母様、いきなり何するんですか」
「うふふ、祥子、あなた、とってもいい人達に囲まれているわね」
人前で、恥ずかしい。
「幸せになるのよ」
お母様…
「私、弱気になってたわ。いけないわね、年をとると」
お母様が私の背中を押す。
祐巳のところへよろけながら進む。祐巳が私を受け止めた。
「ほら、祐巳さんと楽しんできなさい、祥子」
「お母様」
「私はここで見守っているから」
私は頷く。
そして祐巳と一緒に、皆の輪へと入っていく。
お母様に、成長した幸福な私を見せることが、きっとお母様の元気になる。
祐巳の手を握る。
それは、あなたがいなければできないこと。
愛しているわ、祐巳。
パーティーは幸福な空気に包まれている。
6
祥子が幸せそうに笑っている。
パーティーを開いて良かった。
不意に、電話が鳴る。
私は会場を出る。
あの人からだった。
「祥子のお友達を呼んで、パーティーしてるんだってね」
「ええ」
「こっちでは餅が焼けたよ」
「餅?」
「焼き餅。清子、行けなくてごめん。でもなんだか、僕の知らないところでパーティーだと焼き餅やいてしまうよ…」
あの人が、なんだかんだと、私に気を使う。
まったく。
そんなことで気を使うなら、他に女を作らなければいいのに。
でも仕方ない、そういう人だから。
分かって結婚したのだし。
ちょっと疲れていただけ。いつもの私に戻る。
前よりも、少しだけ強くなって。
いつかこのパーティーに来た少女達も大人になるのなら、出来るだけ幸せになってほしい。
心からそう思う。
あなた達には、未来があるのだから。
きっと、輝かしい未来が。
電話を終える。
「愛しているよ」か、ありふれた言葉だけれど。嬉しくなるのは、私が子供だからかしら。
パーティーはまだ続いている。
私は、ゆっくりと歩き出した。
その会場に向って。
了
あとがき
ええと、あんまり上手くかけませんでした。
そんな気がします。
まあ、とにもかくにも、企画を締めくくってしまいましたね。
次回は、非姉妹CPを、毎日ではなく、少し書くみたいな感じにしたいですね。
二日置きぐらいで。
ではでは