祐巳ちゃんとデートしようと思った。

会いたくなるよね、どうしても。

好きだからね。森の木々がなぎ倒されて、海が干上がるぐらい好きだからね。

祐巳ちゃん。可愛い子。

 

『甘いデート』

 

ええと、私は祐巳ちゃんを誘って映画とか夜景とか食事とかホテルとか行こうと思いました。

ホテル?

祐巳ちゃんは私よりも十分も早く待ち合わせ場所に来ていた。

「ゆ〜みちゃん」

「ぎゃう!」

お約束です。やらない訳にいかない。

「いい触り心地だな〜」

「やめてください白薔薇さま〜」

しかし、本当にいい触り心地だ。

でも、往来であんまりやると、祐巳ちゃんも怒るだろうからやめとこう。

「先に食事にする?それとも映画にする?それとも、わ・た」

「二番目の奴でお願いします」

「いや、三番目の奴がお勧めだよ?」

「結構です!」

可愛いなあ。

「それじゃ、行こうか」

「はい!」

映画自体は、まあ、ラブロマンスものだった。

こういう時に選択する映画に、ラブロマンスもの以外の選択肢があるのだろうか?

アクション?まさか。SF?いやいや。ヌーヴェル・バーグ?ありえない。

こういう時はラブロマンスなのだと古代ローマから決まっている。

ジャン・リュック・ゴダールさえ、相応しくはないのだ。

激動の時代の激動の恋、そんな映画らしい。

「わたし、楽しみです」

と祐巳ちゃんが可愛く言った。そして可愛く席まで歩き、私に可愛く手を握られ、可愛くスクリー

ンを見た。

 何をするにも、可愛い、という形容詞がつく子なのだ。

そういう子はつまらないとか知ったような口を聞く人もいるだろう。

しかし彼女は可愛いだけでなく、芯には強く美しい魂を、って、何を考えてるんだ私は。

 映画の方は、まあ、なんと言うのか、良くも悪くも、ハリウッドのラブロマンスだった。

ハリウッド的な激動の時代の中で、ハリウッド的な男女が、ハリウッド的に恋をする。

 そういう映画はつまらない、と知ったような口を聞く人もいるだろう。

しかし、バカにするほどのものでもない。

 ただ、正直に言うなら、私はあんまり面白くなかった。

悪くはない。面白い。感動的なシーンも、まあ、ある。

 でも、なにかこう、伝わってこなかった。それがなにかは、分からない。

祐巳ちゃんも、そこそこは楽しんでいたみたいだし、まあ、いいか。

 

映画館を出る。

「ねえ、祐巳ちゃん、私だったら、絶対祐巳ちゃんを離さないな」

「映画の話ですか?」

「そう」

こういう話をするための映画だから、あれでいいのだ。

二人で、食事をするための場所へ、向う。

軽い、昼食。

カフェ・テラスは透いていて、私はミートスパゲティを、祐巳ちゃんがカルボナーラを頼んだ。

出てきたコップを、祐巳ちゃんのコップにあてる。

「二人の出会いに」

「何言ってるんですか、昼間から」

「だって、祐巳ちゃんに会えたことは、嬉しいもん。いつでも祝いたい」

「もう、そんなことばっかり言って」

「私が祐巳ちゃんを好きなこと、迷惑?」

「そんな、迷惑だなんて」

「じゃあ、私が祐巳ちゃんを好きなこと、いつでも表現していいじゃない?」

祐巳ちゃんの手をとってキスする。

「せ、聖さま」

「顔、赤いよ」

「そ、それは、だって」

「あ、祥子、ごきげんよ」

「え!?」

思わず振り返る祐巳ちゃん。

当然、祥子はいない。

「聖さま!!」

顔を真っ赤にして怒る祐巳ちゃん。

何をさせても可愛い子。

スパゲティが運ばれてきた。

 

「祐巳ちゃん、どこかで、ゆっくりしようか」

「はい」

「喫茶店でも、何でもいいんだけどね。あ、カラオケにしようか。暇になったら歌えばいいし」

「カラオケで、話すんですか?」

「案外、いいもんだよ」

私と祐巳ちゃんは一緒にカラオケに入る。

防音されてて、けっこう静かなのだ。

肩を寄せ合う。

「ねえ、祐巳ちゃん」

私はキスしようとする。

「駄目です」

彼女は拒絶する。

そういう距離。二人の距離。

「どうして?」

「恥ずかしいです」

「ふうん。無理強いはしないからね」

「うう、ごめんなさい」

「いいよ、別に。祐巳ちゃんは、恋と愛ってどう違うと思う」

「え?」

祐巳ちゃんは困っている。

「え〜と、恋は、付き合ってて、愛は、結婚?」

思わず笑ってしまう。

なんか、可愛い答えだ。

実際的で、具体的で、シンプルな回答。でも。

「はずれ」

「じゃあ、なんなんですか」

「恋は一瞬で、愛は永遠なんだよ」

祐巳ちゃんが言葉に詰まった。

搾り出すように言う。

「よく、そういうセリフ、さらっと言えますね」

「祐巳ちゃんが好きだからね。それで、私達は恋と愛、どっちだと思う?」

祐巳ちゃんはやはり言葉に詰まって、答えられなかった。

 

夜景の綺麗な、海の見える公園だった。

いささか陳腐なぐらいに。

今日のデートの締めくくり。

ホテル?

まさか。

私達は恋人同士みたいにベンチに腰かける。

何か暖かいものが私達を包んでくれているように思える。

繋いだ手の、温もり。

彼女の吐息。

「祐巳ちゃん。私、祐巳ちゃんのこと、凄く好きなんだけどな」

「私も、聖さまのこと、その、好きです」

「祐巳ちゃんはさ、何が、不安なのかな、って思って」

「不安?」

「そう」

私とこうして付き合うことに、祐巳ちゃんが不安を持っている。

当然なんだ。

分かってるんだ。

女の子同士だからなんでしょう?

そういう、現実的で重苦しいものが、不安なんでしょう?

「キスしていい?」

「だ、駄目です」

どうしたらいいんだろうね。

本当に。

だから二人で夜景を見ていた。

肩を寄せ合って。

ずっと。

 

                             

 

 

「ねえ、祐巳ちゃん、私が女であるって、不安なんじゃないかな?」

「そんなこと…」

「ねえ、私はね。祐巳ちゃんを縛りたくないんだ。不安にさせたり、苦しめたりしたくない」

「聖さま…」

「私は祐巳ちゃんが好き、だからキスしたい。いい?よく考えてね。私に同情したりとか、気を

使うとか、そういうのは一切なし。キスしていい?祐巳ちゃん」

ハリウッド的には、どうやって解決するんだろうね。こういうの。

祐巳ちゃんは沈黙する。

いいんだ、これで。

こういう問題は、早いほうが、いいんだ。

 そして

 

祐巳ちゃんは首を振った。

 

仕方がない、では割り切れないような感情が、一瞬で湧きあがった。

海の底へ落ちていく感覚。

何もかもが遠くなっていく。

沈む。

沈みきる。

そして私は海底の泥の底に埋まって二度とは出られなくなるのだ。全ての感情は、その泥の

底に消えて、二度と取り返せない。それは、少しだけ死ぬことだった。

沈み続ける。

いよいよ、埋まる…そのとき。

 

祐巳ちゃんが私にキスした。

唇に。

一瞬だけど、永遠みたいに思えた。

祐巳ちゃんが乗り出した体を戻す。

「か、カルボナーラに」

「?」

「にんにくが入ってたから」

「ぷっ」

思わず笑ってしまう。なんだ、なんだ。私は馬鹿みたいじゃないか。

なんて可愛くて、素敵な子なんだろう。

「笑わないでください!」

「だって、あはははは」

「もう!」

私は祐巳ちゃんの口を塞ぐ。

大好きって気持ちを込めて。

祐巳ちゃんが赤くなった。

「せ、聖さま」

「へへへ」

「あ、あのですね」

「なにかな?」

「言っておきたいことがあるんです」

「愛の言葉?」

「茶化さないでください」

「ごめん」

「聖さまがさっき言ってた、女の子だから、とかって、今更ですよ。もう、そんな覚悟はとっくに

してますからね!って言いたかったんです」

「どんな覚悟?」

「え、え、その、聖さまと、そういう関係ごにょごにょごにょ…」

「祐巳ちゃん」

「ひゃ、ひゃいっ」

「もうちょっと遊んでいこうか?」

という私のとっても意味深な問いかけに、祐巳ちゃんは赤くなりながら小さく頷くのだった。

ホテル?

スウィートルームを開けてもらわなくちゃね。

これ以上の幸せは考えられないぐらい、幸せ。

大好きだよ、祐巳ちゃん。

愛は、永遠。

本気で、そう信じているからね。

 

ちなみに、ホテルのモーニングサービスがあんなにも祝福的で、幸福なものに感じられたのは

初めてのことだった。

                                          了

 

 

 

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あとがき

妹に脅されました(やや嘘)

えと、淋しさのない、普通のssも書いてみては?って言われた。

書いて見ました。正直、色んな寂しげにする誘惑にかられたけど、頑張りました。

まあ、好評だったら、またこういうの書きます。