志摩子さんが紅茶をいれている。
本当は私がいれなくちゃいけないのかな、と思ったけど志摩子さんに止められた。
「いいのよ、乃梨子に私が紅茶をいれたいの」と言った志摩子さんを止めることなんてできなかった。
柔らかな髪が揺れている。
あの髪はとてもいい匂いがする、バニラエッセンスとか石鹸とか、乳製品系?
乳臭いって言葉、昔褒め言葉だと思ってたな。志摩子さんは、料理で例えるとシチューだな。
「できたわよ、乃梨子」
「シチュー」
「なに?」
「なんでもない」
『しまこさんとのりこちゃん』
藤堂志摩子は、母親に似ている。
それは現実の私の母ではなく、イメージとしての母性、に似ている。
たぶん、そんなイメージを仮託されるのは、志摩子さんにとってはいい迷惑なんだろうけど。
「乃梨子、どうしたの」
「なんでもないよ」
「そう」
志摩子さんがいつもより、ずっと綺麗に見えるのは、私の心のせいかな。
「写真」
「あら、あの時のね」
私と志摩子さんがドレスを着て写っている。
志摩子さんの隣だと恥ずかしいなあ。友達はいい取り合わせだっていうけど。
「綺麗だなあ、と思って」
「もう、乃梨子ったら。乃梨子だって、とっても綺麗に写っているわ」
「いやいや、志摩子さん、綺麗だなあ、って言ったのは私のこと。志摩子さん、自分だと思ったんだ?」
「もう、からかわないで頂戴」
「志摩子さん、自覚はあるんだね」
「乃梨子が自分に見惚れて綺麗なんていう子とは思わなかっただけよ」
ありゃ、切り返された。
「自分の写真に見惚れるなんて、駄目よ」
「は〜い、ごめんなさい、志摩子さんに見惚れてました」
「乃梨子ったら」
志摩子さんの頬が染まる。本当に綺麗だな。
「ねえ、志摩子さん、私、凄く嬉しいし、まったく後悔してないよ」
「なにがかしら?」
「志摩子さんの妹になったこと」
「ふふ、私もよ」
あの夜のことも、後悔してない。
言わなかったけど、たぶん、伝わると思う。
凄く志摩子さんが好き。
たぶん、ずっと。
だから志摩子さんの手をとって一緒に帰る。
写真を見ることにも飽きた、高校一年生の、冬の日の出来事。
完