「お菓子作ったからおいで」と令ちゃんが言った。
私達はお隣同士だし従兄弟同士だし、仲がいい。
でも、隣同士でも従兄弟同士でも、仲が悪くなることもあるでござろう。
ござろう?
まあ、ともかく、令ちゃんじゃなきゃ、ここまで好きにはならなかったと思う。
認めたくないけど。
『よしのさんとしっと』
令ちゃんが焼くクッキーは美味しい。ケーキも美味しい。
いったい、どうやったらそんな風に美味しくできるのか、聞いたことがある。
「簡単だよ。ちゃんと真剣にやれば、大抵のことは上手くできるよ。手を抜かずに、美味しくつくってやるって
思うんだ。それで手を抜かずに、きちんと手順を踏めば誰でも出来るよ」
ふうん、といって私はその、手を抜かない手順というのを聞いてうんざりして、それ以来お菓子つくりは諦め
た。
たぶんそれは慣れと、好き嫌いの問題なのだ。正直に言えば、メレンゲを泡立てることさえ面倒臭いぐらい
なんだもの。私。こもったものでござる。にんにん。
しかし、今日の私はクッキー程度では買収されない。
「この前、でれでれしてたわね」
まず、本題から入る。私は回りくどいのは嫌いだ。
「なんのこと?」
令ちゃんはとぼける、いつものことだ。いつだって、最初はとぼけるんだから。
「ちさとさんに、ケーキ食べさせてもらってたじゃない」
「あれは…」
「問答無用!」
クッション投げ!
いまはともかく、あのとき、その姿を見て私がどれだけ腹をたてたか知るべきだ。
あ、思い出したら腹がたってきた。
大体、いつもいつもこうして怒っているのに、どうして毎回同じ愚かな失敗を令ちゃんは繰り返すの!?
「そりゃ、断われないでしょう、普通。相手は好意からやってるんだから」
あ、声に出してた、いつの間にか。
「好意でやってたって、いくらでも断わる理由はあるでしょ!」
「具体的には?」
う、言えない。
いくらでも案はある。
妹に悪いから、とか…
……本当にそういうことをしてほしいのは、由乃だけだから、とか…
言えない。
「ほら、言えない。やっぱり断われないよ」
「れ〜〜い〜〜ちゃ〜〜ん〜〜〜の〜〜〜」
「あ、ちょっと待って由乃、それゴミ箱だから、鉄で出来てるから、ね、おろして」
「ばかーーーーーーーー!!!」
投擲。
それは放物線を描いて綺麗に飛んでいった。
…令ちゃんの頭に。
散らばったゴミを片付けながら、令ちゃんが言う。
「もう。由乃は後先考えないんだから」
私も片付けを手伝いながら言う。
「だって、令ちゃんが悪いんだもん」
膨れる私をみて、令ちゃんが苦笑している。なによ、もう。
「可愛いんだから、由乃」
「そんなお世辞言ったって」
いきなり令ちゃんが真剣な顔で私を見る。
「お世辞じゃないよ」
私はどぎまぎしてしまう。
「証明しようか?」
ゴミを片付け終えた令ちゃんが、いきなり私を抱き寄せた。
「え」
後ろから抱きすくめられている。
振り向けば近くに令ちゃんの顔。
体と体が密着する。
伝わってくる、体温。
「由乃、ほんとは、なんて言って断わってほしかったのか、言ってごらん」
胸の鼓動が、高鳴る。
「じ、じぶんで考えてよ」
抱きしめる力が強まる。
「思いつかない」
「思いついてよ」
「由乃が教えて」
耳たぶのすぐ近くで喋るから、くすぐったい。
顔が、熱くなってきた。
「……妹…に、悪いから、とか」
「どうして悪いの?」
「それは…」
だって、令ちゃんが他の女の子にデレデレしてたら、私傷つくもん。
「そんなことぐらい、わかってよ」
「由乃の口から聞きたい」
意地悪してる。令ちゃん。
ひどい。
「は、恥ずかしい」
「可愛いよ、由乃」
「もう!意地悪!」
「だって、由乃が可愛いから、つい。ねえ、由乃、ちゃんと思ってること言って」
もう、唇が耳たぶをさっきから掠めている。
は、恥ずかしいけど、言う。
「だって、令ちゃんが他の女の子にデレデレしてたら、私、傷つくよ!令ちゃんが好きだから!」
私は顔が真っ赤になっていたと思う。
「それじゃ、何て言って断わったらいいと思う?」
まだ言わせるの!?
令ちゃんは笑いながら言う。
「由乃に教えてほしい」
令ちゃんは私を正面に向かせた。目が合う。目をそらしてしまう。
「本当にそういうことをしてほしいのは、由乃だけだから、とかいえばいいじゃない!!」
やけくそぎみに叫んだら、令ちゃんが私を押し倒した。
「よく出来ました、由乃」
「もう!」
「可愛い」
令ちゃんが私の額にキスした。
「……額だけ?」
「はいはい、お姫さま」
令ちゃんとキスする。
凄く好き、大好き。
令ちゃん。
もう、他の女の子にデレデレしちゃ駄目だからね!!
こたつの上の写真には、その時の、ドレス姿の私と、タキシード姿の令ちゃんが写っている。
了