今日は祐巳ちゃんが来る。

このどうしても外せなかった飲み会さえしのげば、祐巳ちゃんに会える。

並べられたジョッキ、生ビール、乾杯の音。

気のない拍手をうちながら、祐巳ちゃんのことだけを考えていた。

 

『素晴らしき世界』

 

目が痛い。しんどい。

しかし、飲み会は行われる。何の問題もなく。

恩義もいろいろあるし、仲直りしたばかりの子に誘われた合コン。

断ると面倒になりそうだった。

人と人とが支えあう。素晴らしいことですね。

「結局、世の中っていうのはさ」

と神経質そうな男が言い出した。合コンの話題ではない。

「弱肉強食な訳よ。甘えた奴らなんかみんな海にでも放り込めばいい。努力しない奴なんかいらねーし」

社会人らしいえらぶり方ですね。

そういえば、一度、共通一次の点数を自己紹介の代わりのように言う男に会ったことがある。

将来有望なエリートらしい、そういう奴がこの国の上に行って、世の中を回す。良いことですね。勝手にしやがれ。

「社会人に一番いらないのは、繊細さだね。みずしらずの人間に商品を売りつける。強引なこともする。相手の都合

 なんか見てられない。繊細な奴には務まらない。飲み会を断る奴も、いらない。飲み会程度にも恭順できずに自分

 の時間を大事にするような奴なんか、クビにすればいい。仕事時間中にわざわざ、時間を割いて指摘できないこと

 だってあるんだ。他の奴は飲み会にもきて、仕事もする。そいつは仕事だけ。給料に対して、どちらが会社にとって

 コストパフォーマンスがあるかだよ」

ながながとクダを巻いている。もうすでに、合コンではない。

社会人の心得、か。

とてもじゃないが、私には務まらない。

何も、務まらない。

どこへ行こうというのか、私は。

何も喋らない私。

私を置いて合コンはすすんでいく。

遠い会話。

ジョッキが空になり、カクテルがきて空になり、チューハイが来て空になり、焼酎水割りが空になった。

そうしているうちに灰皿に捨てられたタバコは一本になり、5本になり、十本になっていく。

ねえ。

何をしているんだろうね、私は。

滑るように会話がすすんでいく、何もあとに残さずに。

大学生の男がいう。

「スカート履く男が知り合いにいてさ、もうマジきもいの。なんか言うとさ、同性愛者の差別だ、とかいうんだよ。ほんと

 すげえキモイぜ。マジで」

私の友達が固まった。耳打ちしてあげる(大丈夫だから)。

「結局、なんだかんだ言って、ああいうのってキモいじゃん。自然じゃないっていうかさ」

だんだん、全ての言葉は遠くなっていく。

現実。

その素晴らしきもの。

現実なんて存在しないし、そんなものはなんの問題もないんだ、などと言ってればいいんだろうか。

ねえ。

ほんとのところはどうなんだよ。

『自然じゃないっていうかさ』

私はもうクタクタだった、仕方なく乾杯する。不自然な私に乾杯。

それにしても、どうしてこんなに目が痛むんだろう。

 

 

飲み会が終わり、私はアパートに帰る。

ちょうどだ。

丁度祐巳ちゃんが来る時間。

そしてやっぱりアパートの前には祐巳ちゃんが待っていた。

「聖さま?」

「ごきげんよ」

「飲んでますね」

「まあね」

「どうしました?」

祐巳ちゃんは、とても不思議そうだった。

さっきまで居た飲み屋街では、酔っ払いが喧嘩をし、飲みすぎたサラリーマンが路上で戻していた、客引きは道行く

人間の足をとめ、大声で人を店へ誘おうとする。中年の飲みすぎたおっさんが千鳥足で、道行く若い女の子に下品な

声をかけている「○○○○」、大学生の集団がとおりすぎ、飲みすぎた一人は電柱を蹴る。罵声。

「なんでもないよ」

まだ不思議そうにしている祐巳ちゃんに、言い聞かせるように、私はもう一度言った。

「なんでもないよ」

 

                                                      了

 

back

 

あとがき

松島深冬さまが、「聖祐巳書いてくださいよう、聖祐巳」というと、不思議に頭に残る。

「聖祐巳書いてくださいよう、聖祐巳」「聖祐巳書いてくださいよう、聖祐巳」「聖祐巳書いてくださいよう、聖祐巳」

「聖祐巳書いてくださいよう、聖祐巳」………たぶん、そんな風にして北海道の夜は更けるのだ(意味不明)。

まあ、そんな訳で書きました。思うに、深冬さまのセリフが残響となって残るのは、彼女の物凄い鬼気迫るばかり

の聖祐巳への愛情のせいだと思う。思わず、企画ssにあとがきつけてしまうほどの、彼女の愛情。2万トン(完)