聖がにやにやしながら私のところに来た。嫌な感じだ。
こういう時、たいてい聖はろくでもないことを考えている。
「ヨーコヨーコ、いい写真があるのよ」
たぶん、ろくでもない写真だ。
「なにかしら?」
「はいこれ」
それにはドレス姿の、かがんだ私の写真だつた。顔は見えにくいが私だ。
「へへへ、立派だよねヨーコ」
その写真には、胸の谷間がはっきりと写っている。
本当にろくでもない写真だ。
『事故じゃなく』
セクハラオヤジのような発言と写真と表情、まったく。
「聖、あなた、セクハラオヤジじゃないんだから」
「いやいや、私は純粋に美というものを愛してるだけなのよ、谷間」
「最後のセリフが余計だわ」
「いいじゃない、神に祝福された言葉だよ、谷間」
「死にたいらしいわね」
私は腕をあげはじめると、聖はとびさがった。
「落ち着きなよ蓉子。私はただ、素敵な写真について教えたかっただけなのよ」
「教えてどうするわけ?」
「からかって楽しむ、谷間」
私のチョップが空を切った、やるな。
「でも、セクシーで気に入ってるんだけどな、この写真」
「いつの間に撮ったのよ」
「カメラちゃん、けっこういろいろ撮ってたじゃん、その中にたまたまあったから、強奪した」
「強奪?」
「ネガごとね。いいじゃん、欲しかったんだから。カメラちゃんも、これはいらないって言ってたし」
「こっちに渡しなさい」
「やだ」
「渡しなさい」
「やだ」
近づいて無理やり奪おうとする。
腕と腕が絡む。
バランスが不安定になる。
しまった!
「あ」
足がもつれて、私達は倒れこんでしまった。
写真はどこかへ飛んでいく。
そして、唇に暖かい感触。
アップになった顔。
分かってる、何が起こったか分かってる。さっさと離れればいい。
なのに私も聖も、しばらく動けないのだった。
唇には、甘い感触。
短い時間なのに、時が止まったみたいに感じた。
聖はまだ、私の上に載っている。
聖の重み。
聖の体。
ようやく、息苦しくなってきて、聖が離れた。
「ごめん」
「いいのよ」
私も体を起こす。
「写真なんか、どうでも良かったんだ」
「分かってる」
「蓉子、こんな滅多にこれないような遠い大学に通うようになって、偶にしか会えないしね」
「なに?」
「写真は、余興だから。口実みたいなものなの」
「分かってるわよ」
ふと、近くの茂みを見ると、写真があったから回収する。
「私だって、聖が写真でからかうためだけにわざわざ、電車に乗ってくるなんて思ってないわよ」
「ごめん。でも、ちゃんとネガは処分したから、私以外があんな写真持ってるの赦せないし」
「聖、寂しいの?」
「まさか」
「素直じゃないわね」
「そうかもね」
聖は私の手をとって立たせた。
「でも、蓉子に会いたかったんだ、とにかく」
まっすぐに私を見る。
「ねえ、キスしていい?」
なんてことを聞くのか。
答え方が分からない。
だから仕方なく、私は小さくこう言うのだ。
「今度は、事故じゃなくて、ね」
そして事故ではない、キス。
まったく。
顔が赤くなってなければいいんだけど。
了