爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十話 てにゃわず(9月23日掲載)


【出雲弁】

「だーかいの。きゃんとこに、彼岸花、生けちょーもんは。」

「そげいわ、奈緒美が、牛乳瓶、さんご、しちょったじ。」

「あい、け。”家ん中で、彼岸花、生けーと、縁起がわりて、火事んなー”てて、あげん、教えてやっちょーだども、ふとつだい、いーこと聞かせんじね。け、ほんね、こな子は、てにゃわずだわ。」

「おい、ババ。ちょっこ、見てまっしゃい。ちと、派手だども、きれいな花だがや。奈緒美は、花が好きだけん、け、持ってかえー、だねだらかの。」

「オジジ。しゃんこと言ったてて、えけんもんは、えけんじね。おちんおかさんは、どげな育てかた、しちょらっしゃーだいの。」

「ババ。気ねえらんか、もっしぇんだども、けっして、おかさんに、いわっしゃーなよ。孫のこた、おらやちが、どげこげ、言っちゃ、えけんけんの。」


【共通語訳】

「誰だろうか。こんなところへ彼岸花を生けているのは。」

「そういえば、奈緒美が牛乳瓶を探していたよ。」

「ああ、もう。”家の中で彼岸花を生けると縁起が悪くて火事になる”といって、あんなに教えてやっているけど、一つも言うことを聞かないよ。もう、本当に、あの子は手に負えない子だよ。」

「おい、お婆さん。ちょっと見てみなさいよ。少し派手だけれども、きれいな花だよ。奈緒美は花が好きだから、つい、持って帰るのでないだろうか。」

「お爺さん。そんなことを言っても、いけないものは、いけないよ。わが家のお母さんは、どのような育てかたをしているのだろうかね。」

「お婆さん。気にいらないかもしれないが、お母さんに言っちゃだめだよ。孫のことは、私たちがどうのこうの言ってはいけないからね。」


(注釈)
 マンジュシャゲ(彼岸花)は秋の彼岸頃になると必ず咲きます。あの花を見て昔の人は火事を想像したのでしょう。皆さんのところでは、どんな言い伝えが有りますか。

(参考)
 「てにゃわず(手に負えない人)」は少し茶目っ気があり、主に子供など親しい人に使います。同じような言葉に「せごならず(懲らしめることができないひと)」がありますが「てにゃわず」より一枚も二枚も上です。

(奥野栄)

 

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