爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百一話 かいさめ(2005年7月10日掲載)
【出雲弁】
爺「おーい。ババ。戻ったじ」
婆「きょうは、えらい、おもしのくですがねー」
爺「そげだがー。じたじたして、えけんがのー」
婆「あらら、オジジ。シャチが、かいさめですがね」
・・・・・
爺「だけん、となーの、嫁さんが、おら見て、なんだい笑っちょっちゃったわ」
婆「あげん、はちかし、かっこ、さんで、ごしなはいよ。おちが、わらわいましけんね」
爺「だてて。そこ、置いてあったやち着たじ」
婆「そげいわ、えそがして、からふったまんま、おいちょきましただけんね」
爺「おまえも、ちょちょくさだのー。かいさめのまんま、洗濯してや」
婆「おまえさんが、脱いだら、脱いだまんまにしちょらいけんですわね」
爺「ババ。せわねが。こんど脱いだら、元どおりね、なっちょーけん」
婆「あいけ、ほんねー。だらじばっかー」
【共通語訳】
爺「おーい。お婆さん。帰ったよ」
婆「きょうは、随分と、蒸し暑いですよねー」
爺「そうだよー。じめじめしていけないよなー」
婆「あらまあ、お爺さん。シャツが裏返しですよ」
・・・・・
爺「だから、隣のお嫁さんが私を見てなんだか笑っていたよ」
婆「そのような恥ずかしい格好をしないでくださいよ。私が笑われますからね」
爺「だって。そこに置いてあったものを着たよ」
婆「そういえば、忙しくて、乾いたまま置いていましたからね」
爺「おまえも、慌て者だねー。裏返しのまま洗濯したのかい」
婆「おまえさんが、裏返しに脱いだままにしているからですよ」
爺「お婆さん。大丈夫だよ。こんど脱いだら元どおりになっているから」
婆「ああもう、ほんとうにー。いいかげんなことばかりー」
(解説)
裏返しに着ているシャツを裏返しに脱ぐと元通りになります。お婆さんは、そんな横着なお爺さんにあきれ果てているようです。
(参考)
「かいさめ」は反様(かえさま)が変化した言葉で裏返しの意味です。「かちゃま(秋田)」、「かしま(石川)」、「かいし(愛媛)」、「けしんめ(鹿児島)」など全国各地にいろいろな言い方があります。
「おもしのく」は蒸し暑い、「ちょちょくさ」は慌て者です。
奥野栄