爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百二話 泡のでーもん(2005年7月24日掲載)

【出雲弁】

「おっつあん、ふさしぶーだねー。まめね、ございしたかね」

「こっちまで、なかなか、足、向けんもんだけん、失礼ばっかしちょーましてねー」

「なんがねまいさん。こっちこそ、失礼ばっかしちょーましてー」

「こぎゃんとこで、なんだども、そこ、腰掛けてごしなはい」

「だんだん、だんだん。ほんな、ちょっこし」

「きょうは、わけて、のく、ございしがねー」

「風だいなんだい、あーせんし、セミの声ばっか大きて、のーらんしーやねすがねー」

「そこ、煮しめもんばっかで、なんだい、変わったもなあーませんだども、はし、つけてごしなはいね」

「だんだん、だんだん。なんと、てぎれに煮ちょらいますねー」

「ババ。ちょっこ、持ってきてごいた」

 ・・・・・

「なんだいあーませんだども、泡のでーもんなと、やってごしなはい」

「あららー、こらまたなんだらー。まんだ、よらな、えけんとこが、あーますけん」

「栓、抜いてしまーましたけん、はや、やってごしなはい。泡ばっかですけん、じき、さめますわね」

「あいらー。ほんな、せっかくですけん、じぎなしに、よばれますだわ」

「ババ。おらねも、ついでごいてだねか」


【共通語訳】

「おじさん、久しぶりですねー。元気でございましたか」

「こちらまで来る用事がないものだから、ごぶさたをしています」

「いいえ。こちらこそ、ごぶさたをしています」

「こんなところで失礼でが、腰を掛けてください」

「ありがとうございます。それじゃ、ちょっとだけ」

「きょうは、とりわけ、暑いですねー」

「風もなく、セミの声ばかり大きくて狂いそうですねー」

「煮染めものばかりで、何にも変わったものはありませんが、召し上がってくださいね」

「ありがとうございます。上手に煮ていらっしゃいますねー」

「お婆さん。ちょっと、持ってきてくれ」

 ・・・・・

「何もありませんが、ビールを飲んでください」

「あらまあ。まだ、訪問しなければいけないところありますので」

「もう、ビールの栓を抜いてしまいましたので飲んでください。泡だけですから、すぐにさめますよ」

「あらまあ。それでは、せっかくですので遠慮なくごちそうになります」

「お婆さん。私にもビールをついでくれないか」


(解説)
 客をだしに持ってこさせた冷たいビール。お爺さんは、おこぼれを授かることができるのでしょうか。
 ビール一を杯飲んでも飲酒運転です。「飲むなら乗るな。乗るなら飲むな」

(参考)
 ビールを遠回しに「泡のでーもん」といいます。出雲弁には「ちべてもん(冷たい物→アイスクリームなど)」、「ふーもん(降り物→雨や雪)」、「そけぐち(塩気口→漬物)」、「しーさまし(しり冷まし→外出)」などえん曲的な言い回しがたくさんあります。

奥野栄

 

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