爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百三話 ナンバギン(2005年8月14日掲載)

【出雲弁】

「ババ。ナンバギン焼いちょーかや。え、臭いがすーのー」

「孫らちに食わせらかともってねー」

「おらねも、ちょんぼ、分けてごいてだねか」

「盆客の相手で、あげん、飲んだー食ったーしちょって、まんだ、くわっしゃーかね」

「そーが、おらのやまいだわや。かわきやまいてて、しゃんもんだわな」

「よー、分かっちょらいますがね。ちた、がまんしなはいませ」

「ちょんぼで、えけん、ごいてだねか」

「ほんな、ちょんぼだじね」

「だんだん、だんだん」

「だども、きちけて、食ってごしなはいね」

「なんがや」

「去年、まーた、かじって、入れ歯がめげましたがね」


【共通語訳】

「お婆さん。トウモロコシを焼いているかい。いい臭いがするねー」

「孫たちに食べさせようと思ってねー」

「私にも少し分けてくれないか」

「盆客の相手で、あんなに飲んだり食ったりして、まだ食べるの」

「それが、私の病気だよ。糖尿病って、そんなもんだよ」

「よく分かっているのに。少しは我慢をしなさいよ」

「少しでいいからくれないか」

「それじゃ、少しだけですよ」

「ありがとう、ありがとう」

「だけれども、気をつけて食ってくださいよ」

「なぜかい」

「去年、丸かじりをして入れ歯が壊れましたよね」


(解説)
 お盆の客も車で回るのでお茶とお菓子ですますことが多くなりましたが、昔は酒食でもてなしました。

(参考)
 ナンバギンは南蛮黍(なんばんきび)でトウモロコシのことです。関東ではトウモロコシ、西日本ではナンバンキビというところが多いようです。出雲地方でも奧出雲町など南部ではタータコ、トートコなどと言うそうです。


奥野栄

 

表紙ページ