爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百四話 やれはやね(2005年8月28日掲載)
【出雲弁】
・・・今市の婆の里へ行っての帰りです・・・
爺「そーでも、なんとか、電車、間ね合ったのー」
婆「あげあげ、乗り遅れーかともーましたわ」
爺「持って歩かえんほど、土産もん、ごさいだけんのー」
婆「今市のあんさんも、あげん、気つかわでも、えねかーねー」
爺「よー、思ってのことだわやー。あーがて、ことだがや」
婆「あいらー、満員で、すわーとこがあーませんがね」
爺「学生さんやちが、えっぱい乗っちょってだのー」
婆「オジジ。あっちが空いちょーますけん行きましょや」
爺「おらは、荷物、えっぱい持っちょーけんのー。やれはやね、動かえんわや」
・・・・・
婆「ここ、空いちょーけん、すわーなはいませ」
爺「さ、シルバーシートだがや」
婆「あらら。こらまたなんだら」
爺「ババ。たたんでもえじ。おらやちが、一番とっしょーだけん」
【共通語訳】
爺「それでも、なんとか電車に間に合ったねー」
婆「そうそう、乗り遅れるかと思いましたよ」
爺「持って歩かれないほど、お土産をいただいたからねー」
婆「今市の兄も、あんなに気をつかわなくてもいいのにねー」
爺「良く思ってのことだよー。ありがたいことだよ」
婆「あらまあ、満員で座るところがありませんよ」
爺「学生さんたちがたくさん乗っいるねー」
婆「お爺さん。あっちが空いているから行きましょよ」
爺「私は荷物をたくさん持っているからねー。急には動けないよ」
・・・・・
婆「ここが空いていますから座りなさいよ」
爺「それは、シルバーシートだよ」
婆「あらまあ。どうしましょう」
爺「お婆さん。立たなくてもいいよ。私たちが一番年寄りだから」
(解説)
普段は自分の年が気になりませんが、突然年齢を意識する場面に遭遇することがあります。
(参考)
「やれはやね」は「早急に」という意味で、急がせる様を表す言葉です。他の地域では聞かれない出雲独特の方言かもしれません。
奥野栄