爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百七話 きーもん(2005年10月9日掲載)

【出雲弁】

 ・・・きょうは出雲全日本大学選抜駅伝競走の応援です・・・

「宣伝カーが前触れしてあるいちょーけん、もーじきくーじ」

「ぽちぽち、出てみましょかね。きーもんはこーでえですかいね」

「おんおん、えけん、はやこと出てみらこい」

「あげあげ、旗を持ってでにゃ」

 ・・・・・

「来た来た、来たじ」

「なんと、はえですねー」

「あっちーまだのー」

「去年は、その、あっちーまね、となーのババが、テレビね、おちっちょらいましたがねー」

「そげそげ、熊さんがとこんわけしがテレビをビデオね撮っちょっちゃってのー」

「さっき、おちも、おちーましただらかね」

「ババ。こっち見てみた。次がくーじ」

「まんだ、あのテレビカメラがこっち見ちょーますけん」

「おい、こっちねもカメラが付いちょーじ」

「どこどこ、テレビカメラはどこにおーますかいね」


【共通語訳】

「宣伝カーが前触れをして走っているから、もうすぐ来るよ」

「そろそろ、出てみましょかね。着ている服はこれで良いでしょうかね」

「はいはい、いいから、早く出てみようよ」

「そうそう、旗を持って出なくては」

 ・・・・・

「来た来た、来たよ」

「なんと、早いですね」

「あっという間だねー」

「去年は、その、あっという間に隣のお婆さんがテレビに映っておられましたよねー」

「そうそう、熊さんのところの若い人がテレビをビデオね撮っていてねー」

「さっき、私も映っただろうかね」

「お婆さん。こっちを見てみろよ、次が来るよ」

「まだ、あのテレビカメラがこっち見ていますから」

「おい、こっちにもカメラが付いているよ」

「どれどれ、テレビカメラはどこですか」


(解説)
 第17回出雲全日本大学選抜駅伝競走は10月10日、神有月(かみありづき)に行われます。
 昨年、テレビに映った隣のお婆さんに負けてはならないと、テレビカメラを意識しながら精一杯応援しています。

(参考)
 「きーもん」は「きりもの(着り物)」が訛ったもので衣服のことす。「きりもの」は弥次喜多道中(やじきたどうちゅう)でおなじみの東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)にも出てくる古語です。

奥野栄

 

表紙ページ