爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第十一話 かけやこ(10月14日掲載)
*今日は保育所の運動会です。ジジもババも孫の応援に気合いが入っています。
【出雲弁】
婆「おい、こら。拓也。おっそから、ぼいちゃげて、きとーじ。しゃんしゃん、はしーだが。まくれーだねじ。・・・・・。」
婆「オジジ、やったじね。拓也が、一等賞とったじね。」
爺「ほんね、のー。あの、きぼその、ほえごめそが、一等賞だとや。」
婆「まいこと、かけやこ、すーだらかと、案じちょったにのー。よかった。よかった。」
爺「おちん、わけもんも、よー、はしーし、孫らちも、まいこと、かけやこすーが、つる、だらかの。そげ、いわ、ババも、かけやこが、上手だったがのー。」
婆「お前さんも、わけこら、じげの運動会で、一等賞ばっかだっだがね。ほんね、かっこ、良かったじね。」
爺「あいけ、あげん、おだてーだねがや。どこぞ、穴でも、あら、入らな、えけんがや。」
【共通語訳】
婆「おい、こら。拓也。後から、追いかけてきてるよ。しっかり走れ。転ぶなよ。・・・・・」
婆「お爺さん。やったよ。拓也が一等賞とったよ。」
爺「本当にね。あの、気弱な泣き虫が一等賞だね。」
婆「上手に駆けっこをするだろうかと、心配していたのに。よかった。よかった。」
爺「我が家の若い者(息子)もよく走るし、孫たちも巧く駆けっこをするけれども、血筋だろうかね。そういえば、お婆さんも駆けっこが上手だったね。」
婆「お前さんも、若いころは地元の運動会で一等賞ばかりだったね。本当に格好が良かったよ。」
爺「ああもう、そんなにおだてないでくれ。どこか、穴でも有れば入らなければいけないよ。」
(注釈)
今日のジジとババは、運動会で孫が一等賞を貰ったせいか、ご機嫌さんです。若かいころを思いだして話が弾んでいます。
(参考)
「かけやこ」は”駆けっこ”です。「〜やこ」には”〜し合う”という意味があり、「隠れやこ(隠れんぼう)」、「見せやこ(見せ合う)」など、主として子供たちの動作に使います。なお、飯石郡や仁多郡では”走る”ことを「とぶ」と言うそうです。
「きぼそ」は”気細い”で気が弱い人、「つる」は家系や血筋をのことをいいます。
(奥野栄)