爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百十話 おぼくだら(2005年11月27日掲載)

【出雲弁】

 ・・・きょうは斐川町のシクラメン祭りです・・・

「なんと、見事なシクラメンですがねー」

「えろんげな色があーもんだのー」

「オジジ。ちょっこ来てみなはいませ」

「ババ。そこ気きちけらっしゃいよ。おぼくだらが鉢にあたっちょーじ」

「あらら、鉢、わーどもしゃ、おじぇことおじぇこと」

「そーで、なんかいの」

「ここ、かじんでみなはい。えにおいがしますけん」

「こらまたなんだら、シクラメンが、におっちょーのー」

「そこ、あねさん。か、どげしたもんかね」

店員「そら、香りシクラメンです」

「なんぼ、しーもんですかね」

店員「三千円です」

「えらい、たかもんですねー。オジジ。もらってもえだらか」

「おまえも、みりんぼだだけん、仕方ねわのー」

「お互いさんですわね」


【共通語訳】

「なんと、素晴らしいシクラメンですよねー」

「いろいろな色があるものだねー」

「お爺さん。ちょっと来てみなさいよ」

「お婆さん。気を付けてくれよ。銭入れが鉢にあたっているよ」

「あらまあ、鉢を割ってしまったら・・・、怖い怖い」

「それで、どうしたのかい」

「ここをかいでみて。良いにおいがしますから」

「あれ、シクラメンがにおっているねー」

「もし、店員さん。これは、どうしたことですか」

店員「それは、香りシクラメンです」

「いくらしますか」

店員「三千円です」

「随分と高価ですねー。お爺さん。買ってもいいいでしょうか」

「おまえも、見たらすぐ欲しくなる人だから仕方ないねー」

「お互いさまですよ」


(解説)
 斐川町のシクラメン祭りは11月20日〜23日にかけて行われました。布施明の「シクラメンのかほり」という歌が有名ですが、シクラメンにはもともと香りがなかったようです。

(参考)
 「おぼくだら」は上をひもでしめる小さい布製の袋で財布などに用いられていました。 お寺や神社にもうでるときに米や銭を入れる御仏供米(おぼくごめ)入れという袋もあったようです。
 「かずむ」は臭いをかぐことです。「みりんぼ」は見たらすぐ欲しくなる人です。


 

奥野栄

 

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