爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百十一話 ちょちょくさ(2005年12月11日掲載)
【出雲弁】
爺「おーい。ババ。戻ったじ。雨がふーだいてきたわー」
婆「あらら、オジジ。もーはい、帰らいましたかね」
爺「なんでや」
婆「どこぞ、具合でもわりですかね」
爺「なんとけだいねじ。老人会のしめ縄作りも時間が来たけん戻ったとこだわやー」
婆「まんだ、4時ですがね」
爺「ババ。なに、ほーけちょーかや。外、見てみた。よーね日が暮れちょーがや」
婆「あいけ、ほんねー。そこ、時計、見てみなはいませ」
爺「あらら、こらまたなんだら。あんま、くれもんだけん、5時かともっちょったわー」
婆「おまえさんも、ちょちょくさだだけんねー」
爺「ハックション。だけん、おらが帰らとしたら、だれんも、えなげな顔しちょっちゃったわー」
婆「ワッハッハ。えまんご、え、わらーくさね、なっちょーますわね」
【共通語訳】
爺「おーい。お婆さん。帰ったよ。雨が降り出してねー」
婆「あらまあ、お爺さん。もう、帰って来られましたか」
爺「なぜかい」
婆「どこか、体の調子でも悪いのですか」
爺「なんともないよ。老人会のしめ縄作りも時間が来たので帰ったよ」
婆「まだ、4時ですよ」
爺「お婆さん。何をばかなこと言っているのかい。外を見てみなさいよ。完全に日が暮れているよ」
婆「ああもう、ほんとうにー。時計を見てみなさいよ」
爺「あれ。あまり暗いものだから5時だと思っていたよー」
婆「おまえさんも、慌て者ですからねー」
爺「ハックション。だから、おれが帰ろうとしたら、皆が変な顔をしていたよー」
婆「ワッハッハ。今ごろ、いい笑いぐさになっていますよ」
(解説)
冬至前の12月上旬は一年で最も早く日が暮れます。雨降りの日は特に早く4時でも暗くなることがあります。
(参考)
「ちょちょくさ」は慌て者という意味で、出雲地方を中心とした狭い範囲で使われている言葉のようです。青森県や秋田県では慌てることを「ちょちょらめく」というそうです。
奥野栄