爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百十二話けんべき(2005年12月25日掲載)

【出雲弁】

「オジジ。新し布団はどげでしたかね」

「ふかふかして、気持ち良かったじ。だんだん、だんだん」

「さ、良かったですね。こーで、え正月が来ますねー」

「だどものー。首や肩がえてやなが、寝たがいどもしただらかのー」

「さ、気のせーですわね」

「けんべきだらかのー」

「そげかもっせませんねー。そーは、えだども、おちの布団も、とらげちょいてごしなはいね」

 ・・・

「ババ。おまえの布団はえらいかりのー」

「羽根布団だけん、えー値がしましたわねー」

「こぎゃん、かり布団で、さみことねかや」

「そーが、のくのなんてて。えー買いもんでしたわ」

「おらも、欲すのー」

「おまえさんは寝相がわりけん、もて布団だないとえけませんがね」


【共通語訳】

「お爺さん。新しい布団はどうでしたか」

「ふかふかして、気持ち良かったよ。ありがとう、ありがとう」

「それは、良かったですね。これで、良い正月が来ますねー」

「だけどねー。首や肩が痛いけど寝違えでもしただろうかねー」

「それは、気のせいですよ」

「肩こりだろうかねー」

「そうかもしれませんねー。それはいいけれども、私の布団も押し入れに入れておいてくださいね」

 ・・・

「お婆さん。おまえの布団はずいぶん軽いねー」

「羽根布団だから高かったですよ」

「こんな軽い布団で寒くないかい」

「それが暖かいですよ。良い買い物をしましたよ」

「おれも欲しいなー」

「おまえさんは寝相が悪いから、重たい布団でないといけませんよ」


(解説)
 昔は正月など特別な日に物を新調しました。もうすぐお正月。お婆さんは羽根布団を、寝相の悪いお爺さんには綿布団を買ったようです。 

(参考)
 いろいろな辞書に肩癖(けんぺき)と載っていますが500年前の室町時代に使われていた言葉です。日本国語大辞典によると「けんべき」を肩こり、疲れなどの軽い病気という意味で使っているところは島根県のほかに鳥取県西伯郡、岡山県、兵庫県淡路島、愛媛県、長崎市などだそうです。


 

奥野栄

 

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