爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百十三話 らしがない(2006年1月8日掲載)

【出雲弁】

「正月もあっちーまでしたがねー」

「そげだったのー。孫らちもあしたから学校だのー」

「宿題はちゃんとできちょーますだらかねー」

 ・・・

「おい、ババ。ここ、来てみた。足のふん場がねじ」

「あいら。すごろくは、なげまんまだし、カルタはちらかしっぱなしで、らしがないですがねー」

「ほんね、こな子らちゃ、どげしたもんだいのー。親の顔が見てみてがのー」

奈緒美「おとさんは、頭がえていって、まんだ寝ちょらいよ」

「奈緒美。しゃんとこねおったかや。おとさんはまんだ寝ちょってかや。さいくんならんのー」

「えか。使ったもんは、とらげちょくだじ」

奈緒美「そら、おとさんと拓也だけんねー」

「おとさんは、よんべ新年会だったじ」

奈緒美「歌、歌いながら戻ってきて、拓也が、やがっちょーね、あれさこい、これさこい言ってかまっちょらいたよ」

「よいたんぼで、よーね、困ったもんだのー」

「おまえさんの、わけときと、そっくりですがね」


【共通語訳】

「正月もあっという間でしたよねー」

「そうだったねー。孫たちもあしたから学校だねー」

「宿題はちゃんとできているでしょうかねー」

 ・・・

「おい、お婆さん。ここへ来てみなさいよ。足の踏み場がないよ」

「あらまあ。すごろくは出しっぱなし、カルタは散らかしたままで乱雑ですねー」

「本当にもう、あの子たちはどうしたものだろうかねー。親の顔が見てみたいねー」

奈緒美「お父さんは、頭が痛いといってまだ寝ておられるよ」

「奈緒美。そんなところに居たのかい。お父さんはまだ寝ているかい。役立たずだねー」

「いいかい。使った物は片づけておくんだよ」

奈緒美「それは、お父さんと拓也だからねー」

「お父さんは夕べ新年会だったよ」

奈緒美「歌を歌いながら帰ってきて、拓也が嫌がっているのに、あれをしよう、これしようと言ってふざけていたよ」

「酔っぱらいで、本当に困ったものだねー」

「おまえさんの若いときとそっくりですよ」


(解説)
 冬休みの子どもの遊びといえばカルタ、すごろく、こま回し、たこ揚げなどでした。今は季節に関係なくゲーム、時代がすっかり変わってしまいました。

(参考)
 「らしがない」は乱雑、だらしない、汚らしいという意味です。石見地方では「らっしがない」「らっしゃがない」などと言うそうです。臈次(らっし)は物事の順序という意味です。



 

奥野栄

 

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