爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百十四話 おとない(2006年1月22日掲載)
【出雲弁】
爺「えらい、よーふったのー」
婆「起きてみたら、真っ白でおべましたわー」
爺「そげいわ、よんべ、ことーどだい、おとないがさだったのー」
婆「朝ま仕事ね、雪かきしちょいてごしなはいねー」
爺「布団から出たばっかで、さむてえけんがや。飯食ってからにさこい」
婆「なにいっちょらっしゃら。となーは朝まとーから雪かいて、も、仕事ねでらいましたじね」
爺「おんおん、分かったが。ほんな、ババ。軍手だいてごいた」
婆「そこ、かんめぎのそばね、あーますがね」
爺「長靴がねがの」
婆「おしのわねあーましたじ」
爺「スコップはどこかいの」
婆「あげん、おちを頼らんこね、わで、さがいてごしなはいね」
爺「(小声で)おらをあてんさんこね、わで雪かきさよからねのー」
婆「なんぞ、いわいましたかいね。・・・。そこ、納屋ねスコップおいときましたけんね」
爺「えんや、なんだいだ、あーせんが。ほんな、雪かいてくーわ」
【共通語訳】
爺「随分と降ったねー」
婆「起きてみたら真っ白で驚いたよー」
爺「そういえば、夕べ静かだったねー」
婆「朝の仕事に雪かきをしておいてくださいねー」
爺「布団から出たばかりで寒くていけないよ。朝ご飯を食べてからにしようよ」
婆「なにを言っているの。隣は朝早くから雪かきをして、もう仕事に出かけられましたよ」
爺「はいはい、分かったよ。それじゃ、お婆さん。軍手を出してくれ」
婆「そこの割木のそばにありますよ」
爺「長靴が無いけど」
婆「玄関を入ったところの土間にありましたよ」
爺「スコップはどこかい」
婆「あんなに、私を頼らずに自分で探してくださいね」
爺「(小声で)おれを宛にせずに自分で雪かきをすればいいのになー」
婆「何か言いました。・・・。そこの納屋にスコップを置いておきましたからね」
爺「いや、何でもないよ。それじゃ、雪かきをしてくるよ」
(解説)
雪が吸音材となり、夜静かに、しんしんと降り積もります。夜が明ければ素晴らしい白銀の世界です。
布団から出たばかりのお爺さんはお婆さんに雪かきを命じられ文句の一つも言いたそうです。
(参考)
「おとない」は音という意味です。源氏物語の夕顔に「何のひびきとも聞き入れ給はず、めざましき おとなひ とのみ聞き給ふ」とあるそうです。
千年前に紫式部が宮中で使っていた言葉を私たちの出雲地方では使っています。
奥野栄