爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百十五話 みなんとがわり(2006年2月12日掲載)
【出雲弁】
婆「白菜が、え具合に漬かーましたけん、食べてみてごしなはい」
爺「ほーん、そげかやー」
婆「どげさいましたかね。えらい、食がすすんませんね」
爺「こないだから、みなんとがわりてのー。思わしねがー」
婆「さ、えけませんねー」
爺「えしゃさんね診てまったらのー。胃袋がくたぶれちょーてていわいたがー」
婆「正月からこっち、飲ん過ぎですわね」
爺「あ、わっせーとこだったわ。ババ。さい、ごいた。さい」
・・・
婆「何ごとですかいね。まんだ、あちですけん、フッフッして飲んでごしなはいよ」
爺「この薬はのー。飯くっちょーときに飲めてて書いてあってのー」
婆「どこ、えしゃさんとこの、かんぼくろ、ちょっこ、見せてみなはいませ」
爺「こーだわや。間違いなからがやー」
婆「ワッハッハー。オジジ。なに、ほーけたこと・・・。食間てて飯と飯の間ちーことですわね。ワッハッハッハッハー。」
【共通語訳】
婆「白菜が上手に漬かりましたので食べてみてください」
爺「ふうん、そうかいー」
婆「どうしました。あんまり、食欲がないようですね」
爺「こないだから、吐き気がしてねー。体調が悪いんだよー」
婆「それは、いけませんねー」
爺「お医者さんに診てもらったらねー。胃が疲れていると言われたよー」
婆「正月からこっち飲み過ぎですよ」
爺「あ、忘れるところだったよ。お婆さん。さゆをくれ。さゆ」
・・・
婆「何ごとですか。まだ、熱いからフッフッをして飲んでくださいよ」
爺「この薬はねー。ごはんを食べているときに飲めと書いてあってねー」
婆「そうですか。お医者さんのところの紙袋をちょっと見せてください」
爺「これだよ。間違いないだろう」
婆「ワッハッハー。お爺さん。なにを、ばかなことを・・・。食間というのは食事と食事の間ということですよ。ワッハッハッハッハー。」
(解説)
お爺さんのもらった胃薬は食間と書いてあったようです。食前は食事の前、食後は食事の後、食間は食事と食事の間です。お爺さんは食べる前、食べた後、食べている間と勘違いしたのかもしれません。
(参考)
「みなんとがわり」は「胸元が悪い」が訛ったものです。胸元は胸の下のみぞおちあたり、そこの気持ちが悪い。吐き気がするという意味です。
奥野栄