爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百十五話 みなんとがわり(2006年2月12日掲載)

【出雲弁】

「白菜が、え具合に漬かーましたけん、食べてみてごしなはい」

「ほーん、そげかやー」

「どげさいましたかね。えらい、食がすすんませんね」

「こないだから、みなんとがわりてのー。思わしねがー」

「さ、えけませんねー」

「えしゃさんね診てまったらのー。胃袋がくたぶれちょーてていわいたがー」

「正月からこっち、飲ん過ぎですわね」

「あ、わっせーとこだったわ。ババ。さい、ごいた。さい」

 ・・・

「何ごとですかいね。まんだ、あちですけん、フッフッして飲んでごしなはいよ」

「この薬はのー。飯くっちょーときに飲めてて書いてあってのー」

「どこ、えしゃさんとこの、かんぼくろ、ちょっこ、見せてみなはいませ」

「こーだわや。間違いなからがやー」

「ワッハッハー。オジジ。なに、ほーけたこと・・・。食間てて飯と飯の間ちーことですわね。ワッハッハッハッハー。」


【共通語訳】

「白菜が上手に漬かりましたので食べてみてください」

「ふうん、そうかいー」

「どうしました。あんまり、食欲がないようですね」

「こないだから、吐き気がしてねー。体調が悪いんだよー」

「それは、いけませんねー」

「お医者さんに診てもらったらねー。胃が疲れていると言われたよー」

「正月からこっち飲み過ぎですよ」

「あ、忘れるところだったよ。お婆さん。さゆをくれ。さゆ」

 ・・・

「何ごとですか。まだ、熱いからフッフッをして飲んでくださいよ」

「この薬はねー。ごはんを食べているときに飲めと書いてあってねー」

「そうですか。お医者さんのところの紙袋をちょっと見せてください」

「これだよ。間違いないだろう」

「ワッハッハー。お爺さん。なにを、ばかなことを・・・。食間というのは食事と食事の間ということですよ。ワッハッハッハッハー。」


(解説)
 お爺さんのもらった胃薬は食間と書いてあったようです。食前は食事の前、食後は食事の後、食間は食事と食事の間です。お爺さんは食べる前、食べた後、食べている間と勘違いしたのかもしれません。

(参考)
 「みなんとがわり」は「胸元が悪い」が訛ったものです。胸元は胸の下のみぞおちあたり、そこの気持ちが悪い。吐き気がするという意味です。
 

奥野栄

 

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