爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百十六話 ぞんぞがつく(2006年2月26日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。えらい、クシャミしちょらいますが、どげさいましたかね」
爺「かざけでのー」
婆「あらら。さ、えけませんねー。どこがどげですかね」
爺「のどや鼻はたいしたことねだどものー。あっちこっちがえたてえけんがー」
婆「熱はねー」
爺「ぞんぞがつくやでえけんがー」
婆「熱がでーまえかもせませんねー。さ、そこんたーの風邪だねかもっせませんよ」
爺「なんぞ、あつけぐすりでも、だいてごいたー」
婆「えしゃはんね診てまったがえともーますがねー」
爺「注射はやだがー。ちょっこし寝らなおーけん」
婆「やんちゃごみたいなことばっか言って。よもよもだらぞ」
爺「おまえの声聞くと、よけ、えたしんなーやなわー」
婆「えまごら、え薬があって、はやこと、診てまーと、じきなおーげなじね」
爺「おらは病人だけんのー。もちょんぼ、えたわってごいたー。ハァックション」
【共通語訳】
婆「お爺さん。随分と、クシャミをしているけど、どうしました」
爺「風邪気味でねー」
婆「あらまあ。それは、いけませんねー。どんな症状ですか」
爺「のどや鼻はたいしたことはないけれどもねー。体の節々が痛くてねー」
婆「熱はどうですか」
爺「寒けがしていけないよー」
婆「熱がでる前かもしれませんねー。それは、普通の風邪じゃないですよ」
爺「なにか、置き薬があれば出してくれー」
婆「お医者さんに診てもらったほうが良いと思いますよー」
爺「注射は嫌いだよー。少し寝れば治るから」
婆「子どもみたいなことばかり言って。よくもそんなばかなことが言えたものだ」
爺「おまえの声を聞くと、ますます悪くなるような気がするよー」
婆「今は良い薬があって、ひき始めにお医者さんに診てもらうとすぐ治るそうですよ」
爺「おれは病人だからねー。もう少し、いたわってくれー。ハァックション」
(解説)
インフルエンザは予防が第一です。外から帰ったら手洗いとうがいをしましょう。かかったかなと思ったら、早めにお医者さんに診てもらうことが大切です。
各家庭に置き薬(あつけぐすり)がありました。年に1回だったでしょうか。行商のおじさんが補充と集金に回ってきます。おまけの紙風船を楽しみにしていました。
(参考)
「ぞんぞがつく」は寒気がする、鳥肌がたつという意味で「ぞくぞくする」ことです。 「ぞんぞ」というのは江戸時代に使われていた言葉ですが、日本国語大辞典によると出雲地方のほかに富山県砺波、岐阜県飛騨、岡山県苦田郡などで使われているそうです。
奥野栄