爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第百十七話 たいげしぇたもんだ(2006年3月12日掲載)
【出雲弁】
爺「えらい上等な自転車が置いてあーが、どげしたやつだや」
婆「隆史のですわね。この4月から、中学校ですだけんねー」
爺「おとさんがたのんじゃったかや」
婆「そげ、みたいですじ。ながし使わなえけんけん、いっち上等なやつがえてていっちょーましたけんね」
爺「こら、ほんね、えやつだのー」
婆「なんぼしたと思いなはら」
爺「2万円かや」
婆「なにいっちょーなはら。片手ですわね、片手」
爺「なにや。おらのは1万だったねかーねー。たいげしぇたもんだのー」
婆「おまえさん。しゃんことでおべたててえけませんわね。となーの犬は散髪代が六千円だったげなじね」
爺「おいおい。おらの頭は三千円だじ」
婆「あいらー、髪の毛やなんかあーせんね、ふととおんなじほど、とらいますかね。さ、おまえさんの散髪代のほうが、えっぽど高いですがね」
爺「ババ。散髪屋のおっつあんも苦労しちょってだけんのー」
【共通語訳】
爺「随分と立派な自転車が置いてあるけど、どうしたのかい」
婆「隆史のですよ。この4月から中学校ですからねー」
爺「お父さんが頼んだのかい」
婆「そう、みたいですよ。長く使わなければいけないから一番立派な物がいいと言っていましたよ」
爺「これは、ほんとうに良い物だねー」
婆「いくらしたと思いますか」
爺「2万円かい」
婆「何を言っているの。片手ですよ、片手」
爺「え。おれのは1万だったのにー。あんまりだよー」
婆「おまえさん。そんなことで驚いてはいけませんよ。隣の犬はトリミング代が六千円だったそうですよ」
爺「おいおい。俺の頭は三千円だよ」
婆「あらまあ、髪の毛が無いのに普通の料金ですか。それは、おまえさんの散髪代のほうがよっぽど高いですよ」
爺「お婆さん。散髪屋のおじさんも苦労しているんだからねー」
(解説)
孫のスニーカーは直ぐに小さくなりお爺さんにお古が回ってきました。よく見るとメーカー品の高価なものでした。少子高齢化、思わぬところに影響が出ているようです。
少ない髪をいかに多く見せるか。理容師の腕の見せ所です。
(参考)
「たいげしぇたもんだ」は「ほんとうに、あんまりだ」という意味で使います。「大概知れたものだ」が訛ったものです。
奥野栄