爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第百十八話 じがね(2006年3月26日掲載)

【出雲弁】

「爺と婆の世間話も、とーとー最終回になーましたねー」

「ネタがなて、毎回、あじーこじーしちょってのー。やっと肩の荷が降りーわ」

「半年ほどで止めーてて言っちょらいたね、よー続きましたがね」

「皆さんのおかげで、ここまで続けてこらいたとこだわや」

「ほんだねー。皆さんに感謝さなえけませんねー」

「そげそげ、じがね話しばっかでのー。はちかして、わの書いたやつが読まえだったけんのー」

「おちもですわね。りびえーるの発行日は、近所が歩かえんでしたけんねー」

「なんでやー」

「おまえさんと普段からしゃべっくっちょーことが書いてあーけんですわね」

「そげいわ『よそさんに見らいたらはちかしてえけん』てていーもんだけん、せっかく書いた原稿をボツにしたこともあったがのー」

「オジジ。あいちゃ、けっして外へださんでごしなはいよ」

「おんおん、分かっちょーが。きょうは1本よけ付けてまってえかいのー」

「はいはい。わかーましたけんね」


【共通語訳】

「爺と婆の世間話も、いよいよ最終回になりましたねー」

「ネタが無くて、毎回、難儀していていてねー。やっと肩の荷が降りるよ」

「半年ほどで止めると言っていたのに、よく続きましたよ」

「皆さんのおかげで、ここまで続けてこられたと思うよ」

「ほんとうだねー。皆さんに感謝しなければいけませんねー」

「そうそう、つまらない話しばかりでねー。恥ずかしくて、自分の書いたのが読めなかったからねー」

「私もですよ。りびえーるの発行日には近所が歩けませんでしたよー」

「なぜかい」

「おまえさんと普段からしゃべっていることが書いてあるからですよ」

「そういえば『他人様に見られたら恥ずかしくていけない』というものだから、せっかく書いた原稿をボツにしたこともあったよなー」

「お爺さん。あれは、けっして外へ出さないでくださいよ」

「はいはい。分かっているよ。きょうは1本多く付けてもらってもいいかい」

「はいはい。分かりましたからね」
 

(解説)
 5年間ご愛読いただきありがとうございました。ここまで書き続けて来られたのも皆様のご支援のたまものと感謝しております。また、素晴らしいイラストを書いていただきました内田幹夫さん、暖かく見守っていただきました「りびえーる」の皆様には心よりお礼申し上げます。
 私のわがままで筆を置くことになりましたこと深くおわび申し上げます。出雲弁に関する新しい企画も用意されているようです。引き続き出雲弁を愛し大切にしていただきますようお願いいたします。

(参考)
 「じがない(じがね)」は意味がない、ばかげているという意味で出雲地方や石見地方で使われている言葉です。同じ「じがない」でも大分県速見郡では根拠がない、極端、鳥取県西伯郡では底がない、きりがないという意味で使われているようです。


 

奥野栄

 

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