爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十三話 あやくちゃがない(11月11日掲載)


【出雲弁】

「オジジ。近所の茶飲ん友達と一緒に、がく(鰐)さんに、行きて来たども、赤や黄色のモミジが、きれーだったじね。」

「ほ〜ん、おまえやちゃ、えのー。こないだも、湯ノ川へ、えかっしゃたがのー。」

「あいけ、オジジ。ひがんじょ、らっしゃーかや。おまえさんやちも、どこぞ、えくだわね。」

「そーがのー、こないだから、寄り、しちょーだども、なかなか、まとまらでの。」

「どーしぇ、おまえさんらちの、はなしゃ、飲んでばっかで、あやくちゃが、あーしみょがね。」

「ババ、あげいわっしゃーな。バス会社の話が、ちんとばんとで、あざわかーがさんし、どげしゃもねがや。」

「こらまたなんだら。しゃんことで、だめがつまだったかね。どーしぇ、おまえさんやちゃ、どこへ行きたてて、おんなじことだらがね。酒さい、あら、よからがね。」


【共通語訳】

「お爺さん、近所の茶飲み友達と一緒に鰐淵寺へ行って来たけれども、赤や黄色のモミジがきれいだったよ。」

「へー、おまえたちはいいねー。この間も湯ノ川(温泉)に行きたよね。」

「あらまあ、お爺さん。ひがんでいるの。おまえさんたちもどこか行ってみたら。」

「それがね、この間から寄り合いをしているけれども、なかなかまとまらなくてね。」

「どうせ、おまえさんたちの話は飲んでばかりで訳が分からないでしょうが。」

「お婆さん、そんなこと言わないでくれ。バス会社の話がちぐはぐで、意味がよく解らなくて、どうしようもないよ。」

「これは、どうしたことだろうか。そんなことで、話が煮詰まらなかったんですか。どうせ、おまえさんたちは、どこえ行っても同じことでしょうが。酒さえあればいいでしょうが。」


(注釈)
 酒を飲みながら、「ああだ、こうだ」と、みんなで話をするのが楽しいのですが、お爺さんたちが楽しみにしている貸し切りバスによる遠出も、お婆さんにかかったら、ひとたまりもありません。

(参考)
 「あやくちゃがない」は、”言うことに筋が通っていない”、”訳が分からない”、”酒に酔って正体がない”、”部屋などが乱雑で整理されていない”などの意味で用いられています。「あやくたがない」、「あやくたもない」、「あやがない」、「あやくちゃがあーせん」など、いろいろな言い方があります。木次町では「とやがない」、仁多郡では「あわくちゃがない」とも言うそうです。

(奥野栄)

 

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