爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第十四話 こえたが(11月25日掲載)
【出雲弁】
爺「おーい。ババ。てぼくろ、だいて、ごさんかや。」
婆「あらら、えらい、さむなったと、もったら、なんだい、しれもんが、まっちょーがね。ちょっこし、待ってごしなはいよ・・・。」
爺「”万九千さん荒れ”てて、よー言った、もんだわの〜・・・。」
婆「あげ、あげ、昔のしは、偉いがね〜・・・。軍手で、えかいね。」
爺「おん、おん。え、けんの。」
婆「手ぬぐいは、えらんかね。ほかぶり、しなはらんかや。」
爺「そげだの、ほんな、ちょっこし、たばこしてから、むかわかの。」
婆「あいけ、オジジ。なに、しちょらっしゃら。しゃんとこに、肥えたがやなんか、置くだねじね。はやこと、畑へ、持って、いって、ごしなはい。」
【共通語訳】
爺「おーい。お婆さん。手袋を出してくれないか。」
婆「あら、随分と寒くなったと思ったら、なんだか、雪が舞っているじゃないの。少し待ってくださいよ・・・。」
爺「”万九千さん荒れ”とは、よく言ったものだよね〜・・・」
婆「そう、そう、昔の人は偉いよね〜・・・。軍手で良いでしょうか。」
爺「はい、はい、良いよ。」
婆「手ぬぐいは要りませんか。ほおかむり、しませんか。」
爺「そうだね、じゃあ、少し休憩してから、仕事しようかね。」
婆「ああもう、お爺さん。何しているの。そんな所に肥桶なんか置かないでよ。早く、畑に持って行ってください。」
(注釈)
万九千神社は斐川町の神立橋付近にあります。出雲では、神在月(旧暦10月)に全国から八百万の神々が出雲大社に集まると言われています。同社で会議をされた後、鹿島町の佐太神社にお集まりになり、旧暦10月26日に万九千神社で最後の酒盛りをされ、全国へお帰りになるそうです。現在では新暦11月26日に同社で神等去出(からさで)神事が行われています。その夜は神々の邪魔になるので外出ができず、外便所が多かった昔は、「こえたが」を母屋や納屋に入れ、外へ出ることなく用を達したそうです。
11月26日頃は、小雪混じりで荒れることが多く、「万九千さん荒れ」と言う人もいます。
(参考)「こえたが」は糞尿を入れて運ぶ桶で、”肥桶(こえおけ)”、”こえたご”のことです。出雲平野を中心に使われていた言葉かもしれません。皆さんの地域ではどのように言っていましたか。
(奥野栄)