爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十六話 おおつもぐー(12月23日掲載)


【出雲弁】

「ババ。年がたつのが、はえがの・・・。また、年を、もらわな、えけんのー。」

「あげあげ。ほんね、はえことだがねー。」

「なんだいかだい、やらな、えけん、ことが、えっぱい、あーだども、なかなか、手がつかんがのー。」

「オジジ。おまえさんは、こたつの、子守ばっか、しちょらい、だども、障子貼りや、窓拭きや、やらな、えけんことが、えっぱいあーじね。」

「おん、おん。わかっちょーが。おおつもぐー、までにゃ、やっちょくわや。」

「け、ほんね。尻に火がつかな、やってだ、ねだけん・・・。」

「ババ。そーは、えだども、小豆は用意しちょーかや。」

「あいけ、こんだ、しぇわね、わね。」

「今年の正月は、小豆がなて、”煮干し雑煮”だったがのー。ババは今市の生まれだけん、えかもっしぇん、だども、おらは、やっぱ、”小豆雑煮”だないと、えけんわ。」

「オジジ。あげ、いわっしゃーな。おちが、嫁に来た時にも、おべたじね。元日ばしらから、あまくたらし、”小豆雑煮”やなんか、食ったこと、なかっただけん。」

「ほーん、そげ、だったかや。わけこら、ババも、おとなしに、しとっちゃった、はで、しゃんこた、初めて聞いたじ。」


【共通語訳】

「お婆さん。年がたつのが早いね・・・。また、年を取らなければならないねー。」

「そうそう。本当に早いことだよねー。」

「いろいろと、やらなければならないことが、たくさん、あるけれども、なかなか手がつかないよー。」

「お爺さん。おまえさんは、こたつの子守ばかりしておられるけれども、障子貼りや窓拭きなど、しなければならないことが、たくさん、ありますよ。」

「はいはい。分かっているよ。大晦日までには済ましておくからね。」

「もう、本当に。尻に火がつかないと、しないんだから・・・。」

「お婆さん。それは、いいけれども、小豆は用意しているかい。」

「ああもう、今度はだいじょうぶですよ。」

「今年の正月は、小豆が無くて”煮干し雑煮”だったよなー。お婆さんは(出雲市の)今市の生まれだから良いかもしれないけれども、私は、やはり”小豆雑煮”でないとダメだよ。」

「お爺さん。そんなこと言わないでよ。私が嫁に来た時にも驚きましたよ。元日から甘みのきつい”小豆雑煮”を食べたことなかったものだから。」

「へー、そうだったのかい。若いころは、お婆さんもおとなしくしていたらしくて、そんな話は初めて聞いたよ。」


(注釈)
 同じ出雲地方でも正月の雑煮は地域によって”小豆雑煮”、”澄まし雑煮”といろいろあります。”澄まし雑煮”の中に入れるものも煮干し・黒豆・海苔など、地域や家庭によっていろいろあるようです。

(参考)
 ”おおつもぐー”は”おおつごもり”の音韻転化したものです。”つごもり”は月が隠(こも)ることで、月が見えなくなる陰暦の月の最終日です。したがって、”おおつもぐー”は一年の最終日で大晦日です。

(奥野栄)

 

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