爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十七話 あくだれもん(2002年1月13日掲載)


【出雲弁】

「となーの、娘さんは、ことしゃ、成人式だねかいの。」

「あげ、あげ。え、もしめさんに、ならいたがね・・・。暮れに、振りそでが、来たげなじね。」

「やっぱ、そげかや。こないだまで、さかまたたてて、あそんじょったに、もはい、そぎゃん、としん、なっただのー。」

「よんべ、テレビ、見ちょったら、わけ、娘さんが、おなごはんばくに、おっきゃん、オートバイに、またがって、タバコ、すっちょらっしゃったじね。」

「ババ、しゃんことで、おべたてて、えけんわや。去年は、どこだいの成人式に、あくだれもんが、おって、知事や市長さんが、式辞を、述べちょらっしゃーに、酒飲んだり、大騒ぎしちょーもんが、おったげなじ。」

「そげ、いわ、しゃんことが、あったねー。ほんね、えまんごの、わけしがたは、なに、考えちょらっしゃー、だいの。」

「ババ。おらやちの、わけころも、そげ、いわいちょった、かもっしぇんじ。」


【共通語訳】

「隣の娘さんは、今年成人式じゃないかい。」

「そうそう。いい娘さんになられたよね・・・。暮れには、振りそでが来たそうですよ。」

「やはり、そうかい。つい最近まで逆立ちして遊んでいたのに、もう、そんな歳になったんだね。」

「夕べ、テレビを見ていたら、若い娘さんが、女だてらに大きいオートバイにまたがって、タバコを吸っていたよ。」

「お婆さん、そんなことで驚いてはいけないよ。去年は、どこかの成人式に暴れ者がいて、知事や市長さんが式辞を述べておられるのに、酒を飲んだり大騒ぎしている者がいたそうだよ。」

「そう言えば、そんなことがあったねー。本当に、今ごろの若い者は、何を考えているのだろうかね。」

「お婆さん。私たちの若いころも、そう言われていたかもしれないよ。」


(注釈)
 盆を利用して成人式を開催する市町村が増えつつありますが主流は冬です。松江市の成人式は一月十三日、出雲市は一月十四日です。

(参考)
 「あくだれもん」は暴れ者のことです。広辞苑にも「悪たれ者」は”たちのよくない乱暴者。また、にくまれ口をきく者。”として載っています。方言と共通語の境界は不明瞭で非常に難しい問題です。「おなごはんばく」は”女だてら”とか”あばずれ”の意で用います。男女共同参画社会を進めている現在では不適切用語かもしれませんが、死語となりつつ言葉であり、あえて取り上げてみました。

(奥野栄)

 

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