爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十八話 きんかあたま(2002年1月27日掲載)


【出雲弁】

「もー、じき、節分だが、お宮から、人型が、きちょー、かいの。」

「安心して、ごしなはい。ちゃんと、きちょーましけんね。」

「ここんとこ、眼が、薄なってのー。よー見えーやん、なーやね、おじがんさんね、お願いさかと、思ってのー。」

「オジジ。去年は、えっしょけんめ、頭、なでとらっしゃったが、ちた、毛が生えたかね。」

「見て、分からんかや。ちーとだい、効き目が、なかったわや。ババ。さい銭の包みよが、足らだっただねかや。」

「なに、いっちょらっしゃらら。ちとでも、毛があら、増えたり、濃いなったり、しーかもっしぇんだども、おまえさん、みたいな、きんか頭では、効き目や、なんか、あーしぇんわね。」

「あい、け。ふとが気にしちょーね、そげん、あくたいもくたい、つかんでも、よからがの。」

「あっちゃー。オジジ。気に、しちょらっしゃったかね。」


【共通語訳】

「もうすぐ節分だけれど、お宮から人型が届いているかい。」

「安心してください。ちゃんと、来ていますからね。」

「このところ、眼が薄くなってねー。よく見えるようになるように、氏神様にお願いをしようと思ってねー。」

「お爺さん。去年は、一生懸命、頭をなでていたけれど、少しは毛が生えましたか。」

「見て分からないかい。少しも効き目がなかったよ。お婆さん。さい銭が足らなかったんじゃないかい。」

「なに、言ってるの。少しでも毛が有れば、増えたり、濃くなったりするかもしれないけど、あなたのようなはげ頭では、効き目なんかあるものですか。」

「ああ、もう。ひとが気にしているのに、そんなに、にくまれ口を言わなくてもいいだろうが。」

「あらまあ。お爺さん。気にしていたんですか。」


(注釈)
 出雲地方の一部には節分の日に”紙に描かれた人形”で体をなで、家族の名前や年齢を書き込み氏神様に納める習慣があります。

(参考)
 「きんかあたま」は”金かん頭”で毛髪がなく金かんのようにつるつるにはげた頭です。単に「きんか」とも言います。江戸時代初期の書物に「きんか頭の蠅すべり(金かんのような頭で蠅もすべる)」という句が載っているそうです。

(奥野栄)

 

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