爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第十九話 くぎれー(2002年2月10日掲載)


【出雲弁】

「浦(うら)の、おばさんが、おっぷるいノリ、だてて、売りに、来ちょらっしゃったが、どげしたかや。」

「オジジ。買っちょきましたじね。寒ノリだけん、え、香りが、しましじね。」

「あげ、あげ。あち、飯に、かけて食べーと、まいがのー。そろそろ、ちーはんどき、だけん、あぶって、ごさんかや。」

「おちゃ、よんべの、フナのみそ汁、ぬくめたー、となーね、ごさいた、たかなちけ、はやさな、えけんもんだけん、オジジ、お願いしましけんね。」

「おんおん。ほんな、まかしぇて、みた。」

「だんだん、だんだん。」

「ババ。見てみた。板ノリはのー、七輪(しちりん)の上で、こげやって、焼いたが、えっち、まいじ。」

 ・・・・・

「オジジ。オジジ。くぎれちょーましじね。」

「やいな。しまわかいたわ。」


【共通語訳】

「海岸部のおばさんが、十六島(うっぷるい)ノリだと言って売りに来ておられたが、どうしたかい。」

「お爺さん。買っておきましたよ。寒ノリだから、良い香りがしますよ。」

「そう、そう。熱いご飯にかけて食べるとおいしいよなー。そろそろ、昼食だから、あぶってくれないかい。」

「私は、ゆうべのフナのみそ汁を温めたり、隣から頂いた大根漬けを切らなければならないので、お爺さん、お願いしますよ。」

「はいはい。そんなら、まかせてくれ。」

「ありがとう、ありがとう。」

「お婆さん。見てみなさいよ。板ノリはねー、七輪(しちりん)の上でこうして焼いたのが一番おいしいんだよ。」

 ・・・・・

「お爺さん。お爺さん。焦げてますよ。」

「やれしまった。し損じたよ。」


(注釈)
 十六島(うっぷるい)ノリの中でも、雪が舞い荒波にもまれた寒ノリが最高です。正月の雑煮などに用いられる”カモジノリ”もおいしいのですが、”板ノリ”をあぶって、しょうゆを少しかけ、温かいご飯に添えて食べるのも格別です。

(参考)
 安来市や米子市では「焦げる」ことを「くぎる」と言うそうです。「こげる」が「くぎる」に変化し、出雲地方西部で「くぎれー」になったかもしれません。また、野菜を切ることを「はやす」と言います。鎌倉初期の軍記物語「保元物語」にも出てくる言葉で、忌詞の「切る」に代えて「生やす(はやす)」を使っていたそうです。私たちの出雲弁は古式ゆかしく気品の漂う言葉です。

(奥野栄)

 

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