爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第二十一話 歯がはしー(2002年3月10日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。となーには、見事な、天神さんが、飾って、あーましじね。」
爺「ほーん、そげかや。よーきっつあんが、とこの、孫しは、初節句かいの。」
婆「あげでしじね。先月、里から、持って、こらいましたげな、けんね。」
爺「ババ。おらのは、近年、見たこと、ねが、どげしてや。」
婆「おまえさんのは、沖洲の泥天神で、立派な、もんだったども、どこに、しまーましただいね。」
爺「厄が降り掛かっても、天神さんは、身代わりになって、ごさいげなけん、だいじに、さな、えけんじ。たまにゃ、だいて、みらこい。」
婆「おまえさんに、しちゃ、えらい、信心深いこと、いわっしゃーが、どげぞ、しなはいましたかね。」
爺「歯が、はしって、えけでのー。天神さんに、代わって、もらいたいわや。」
婆「(ワッハッハ)そぎゃん、こめこた、聞いて、ごさいしぇんわね。」
爺「しゃんこと、いーなや。おらは、いたして、えけんけんの。」
【共通語訳】
婆「お爺さん。隣には見事な天神様が飾ってありますよ。」
爺「ふうん、そうかい。要吉さんところのお孫さんは初節句かい。」
婆「そうですよ。先月、里から持って来られたそうですから。」
爺「お婆さん。私の(天神様)は、最近見たことないけど、どうしたかい。」
婆「あなたの(天神様)は、沖洲の泥天神で立派なものだったけど、どこへしまったのだろうかね。」
爺「厄が降り掛かっても、天神様は身代わりになってくださるそうだから、だいじにしなければいけないよ。たまには出してみようや。」
婆「あなたにしては、大層信心深いこと言われるけど、どうかしたのですか。」
爺「歯が痛くてねー。天神様に代わってもらいたいよ。」
婆「(ワッハッハ)そんな小さいことは聞いてくださらないよ。」
爺「そんなこと、言うなよ。私は難儀でいけないんだからね。」
(注釈)
出雲地方には、三月三日の節句を”天神さん”といって、母親の里から男児に贈られた天神像を飾る習慣があります。昔は泥天神が主流で、松江・出雲・斐川等で作られていたそうです。
(参考)
出雲には歯痛の表現として、「歯にしみる」「歯がはしる」「歯がおずく」「歯がおばー」等があります。「歯がはしる(歯が痛む)」は出雲地方の他に鳥取県、広島県、山口県、香川県小豆島などで使用されています。「頭がはしる(頭が痛い)」は広島県や山口県の一部で、「耳がはしる(耳が痛い)」は大分県で使われているそうです。
(奥野栄)