爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第二十二話 さでぼろけー(2002年3月24日掲載)


 爺と婆はツワブキを採りに海辺の道を歩いています。

【出雲弁】

「ババ。今日は、え、天気だのー。」

「あげ、あげ、ヤマブキが、えっぱい、はえちょーましね。」

「だども、手が届くとこには、ふとちだい、ねのー。」

「おまえさん。あしこね、あーましじね。ちょっこ、採って、来て、ごしなはいませ。」

「あいけ、あぎゃん、とこに、のぼーだかや。」

「さ、さ、しのごの、いわんこに・・・。おまえさん、男だらがね。」

「分かったがや。登ってくーわや。」

「・・・・・」

「そこ、そこ。その草に、さばって・・・。も、ちょんぼ、上でしじね。」

・・・(ドスン)

「あいたやな。」

「あら、オジジ。せわねかいね。」

「おん、おん、せわねが・・・。草、つかんで、のぼらと、したら、け、もっしぇての・・・。」

「まじ、まじ。あぎゃん、とこから、さでぼろけて、よー、あいまち、さ、だったね。よかった。よかった。ほんね、よかった。」


【共通語訳】

「お婆さん。今日は良い天気だねー。」

「そう、そう、ツワブキがたくさん生えていますね。」

「だけど、手が届くところにはひつもないねー。」

「おまえさん。あそこにありますよ。ちょっと、採って来てくださいよ。」

「ああ、もう、あんなところに登らなくてはいけないかい。」

「さあ、さあ、つべこべ言わずに・・・。おまえさん、男でしょうが。」

「分かったよ。登ってくるよ。」

「・・・・・」

「そこ、そこ。その草につかまって・・・。もう少し上ですよ。」

・・・(ドスン)

「痛い。」

「あら、お爺さん。大丈夫ですか。」

「はい、はい、大丈夫だよ・・・。草をつかんで登ろうとしたら、つい、抜けてしまってね・・・。」

「まあ、まあ。あんなところから落ちて、よくも怪我をしなかったね。よかった。よかった。本当に、よかった。」


(注釈)
 出雲地方ではツワブキのことをヤマブキと言います。潮風のあたる海辺を中心に自生しており、三月から四月にかけてでる若い葉柄は、香りの良い山菜として親しまれています。

(参考)
 「さでぼろける」の「さで」は後に続く語を強調する接頭語です。「ぼろける」は”落ちる”という意味で、出雲地方の他に鳥取県、兵庫県淡路島、山口県祝島などで使われているそうです。

(奥野栄)

 

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