爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第二十三話 かわきやまい(2002年4月14日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。となーから、桜もち、まったけん、お茶に、しましょや。」
爺「おん、そげだの。ちょーど、こばしま、じぶんだの。」
婆「えんま、タカナチケやダイコチケを、出しましけん、ちょっこ、まっちょって、ごしなはいよ。」
爺「・・・・・。か、どこの、桜もち、だらかの。え、香りが、すーの。」
婆「あいけ、おまえさんは、まてがないね。もはい、二つも、食べらっしゃった、かね。」
爺「も、一つ、まって、みらかの。」
婆「だんさん、とこへ、行きなはったかや。『かわきやまいのけが、あーけん、詳しに、診てもらいなはい』てて、保健婦さんが、言っとらっしゃったらがね。」
爺「おらは、医者さんが、嫌いでの・・・。」
婆「しゃんこと、ばっか、言っちょーと、目が、見えんやん、なったー、足、切らな、えけんやん、なー、てて、テレビが、いっちょー、ました、じね。」
爺「け、しぇっかくの、桜もちが、まじ、なーがや。」
婆「なに、言っちょらっしゃら、おまえさんの、こと、思って、言っちょーましじね。」
【共通語訳】
婆「お爺さん。隣から桜もちを頂きましたのでお茶にしましょうよ。」
爺「はい、そうだね。ちょうど、3時休憩のころだね。」
婆「今、タカナ漬けやダイコン漬けを出しますので、少し待っていてくださいよ。」
爺「・・・・・。これは、どこの桜もちだろうかね。良い香りがするね。」
婆「ああもう。おまえさんは待っておれない性格だね。もはや、二つも食べたのですか。」
爺「もう一つ、もらってみようかね。」
婆「お医者さんのところへ行きましたか。『糖尿病の疑いがあるので詳しく診てもらってください』と、保健婦さんが言っておられたでしょうが。」
爺「私はお医者さんが嫌いでね・・・。」
婆「そんなことばかり言っていると、目が見えないようになったり、足を切らなければならないようになると、テレビがいっていましたよ。」
爺「もう、せっかくの桜もちがまずくなるよ。」
婆「なにを言っているのですか。おまえさんのことを思って言っているのですよ。」
(注釈)
糖尿病(かわきやまい)は無症状で進行し、精密検査を受けずに放置していると、重い腎臓病や失明などの合併症を引き起こす怖い病気だそうです。
(参考)
糖尿病が進むと、のどが渇いて水が欲しくなるそうです。糖尿病を「かわきやまい」と表現した出雲人の観察力は素晴らしいと思います。
出雲弁でいう「だんさん」は「特定の旧家の主人、医者、巡査、官吏、神職」の敬称です。
(奥野栄)