爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第二十六話 みやすんなー(2002年5月26日掲載)
【出雲弁】
爺「弟が、とこも、みやすん、なっちゃった、げなの。」
婆「やっぱ、おとこんこ、だったげなじね。」
爺「ほんな、かかーごだの。」
婆「なま、一週間も遅れたども、元気な、あこ、だった、しこですよ。」
爺「ほーん、そら、よかったの。」
婆「乳も、よー、飲んで、元気が、え、てて、いっちょーましたよ。」
爺「むかしゃ、ミルクだったに、えまごら、乳だげなの。」
婆「あげあげ、乳のほが、自然で、え、てて、いーましがね。」
爺「康夫が、なんぼ、ほえちょっても、ババは、おきてだ、ねだけん、おらが、ミルク、作ったことも、あった、がのー。」
婆「しゃんことも、あーましたかねー。そーが、嫁さん、まって、三人も、子供が、おーやん、なーました、だけんねー。」
爺「だけん、おらやちも、年、とー、はじ、だわのー。」
婆「おちゃ、まだ、年やなんか、とっちょー、しませんじね。」
【共通語訳】
爺「弟のところも、お産だったそうだね。」
婆「やはり、男の子だったそうですよ。」
爺「じゃあ、跡取りだね。」
婆「約一週間も遅れたけれども、元気な赤子だったそうですよ。」
爺「ふーん、それはよかったね。」
婆「乳もよく飲んで元気が良いと言っていましたよ。」
爺「昔はミルクだったのに、今ごろは母乳だそうだね。」
婆「そうそう、母乳のほうが自然で良いといいますよ。」
爺「康夫がいくら泣いていても、お婆さんは起きてこないから、私がミルクを作ったこともあったねー。」
婆「そんなことも、ありましたかねー。それが、お嫁さんをもらって三人も子供がいるようになったんですからねー。」
爺「だから、私たちも年を取るはずだよねー。」
婆「私は、まだ年なんか取っていませんよ。」
(注釈)
育児のしかたが今と昔では随分と違ってきました。昔は粉ミルクが主流でしたが、母乳の価値が見直されたり、スキンシップ等精神発達上も良いことから、現在では母乳が主流です。
(参考)
出雲弁では出産することを「みやすんなー」といいます。「身安くなる」ということでしょうか。御息所(みやすんどころ:皇子・皇女を生んだ女御・更衣の称だという説があります)になるという意味でしょうか。いずれにしても、赤ん坊はもちろん、母体を大切に思う出雲人の優しさがうかがえます。
(奥野栄)