爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第二十七話 ぼいちゃげー(2002年6月9日掲載)

爺と婆は孫たちを連れてホタル捕りです。

【出雲弁】

「拓也。そげん、かけらかすと、まくれーじ。隆史。ちゃんと、みちょっちゃれや。」

「奈緒美。あんま、げしん、ほに、行くだねじね。川へ、ぼっけーじね。」

「三人が、めーめー勝手に、ぼいちゃげー、だけん、手にあわんのー。」

「ほんね、あげでしがねー。」

「ババ。そこ、じっと、しちょ、らっしゃいよ。」

「なんでしかいね。」

「・・・・・。」

「け、孫らちが、みちょー、ましじね。」

「動くだ、ねがや。」

「あいけ、しり、なでたや、なんか。なに、しちょ、らっしゃら。」

「ババの、しりに、ホタルが、さばっちょってのー。ナタネで、はたいた、とこだわやー。」


【共通語訳】

「拓也。そんなに走ると転ぶぞ。隆史。しっかり、見ていろよ。」

「奈緒美。あんまり、傾斜地のほうに行くんじゃないよ。川へ落ちるよ。」

「三人が、それぞれ勝手に追いかけるから、手に負えないねー。」

「本当に、そうですよねー。」

「お婆さん。じっとしていてくれよ。」

「なんですか。」

「・・・・・。」

「もう、孫たちが見ていますよ。」

「動くんじゃないよ。」

「ああもう、しりをなでたりして。何をしているんですか。」

「お婆さんのしりにホタルが留まっていてねー。ナタネではたいたところだよー。」


(注釈)
 六月上旬になると源氏ボタルが舞います。昔は”竹んば”の先にナタネのかれ枝を結わえて捕りました。小雨か曇りで風のない蒸し暑い暗夜が最高です。

(参考)
 「ぼいちゃげる」は「追いかける」という意味で、出雲地方独特の言葉です。地域によっては「ぼいさげる」、「ぼいしゃげる」と言うこともあります。
 広辞苑によると近松門左衛門の浄瑠璃で「ぼいだす(追い出す)」という言葉が使用されているそうです。私たちが、なにげなく使っている出雲弁には文化の薫りが漂っています。

(奥野栄)

 

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